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御伽噺の終わり

かなり駆け足だったけどよく30分にこれを纏めたわねという『リビングの松永さん』最終話。

そんな訳で、何だかんだあっちもこっちも綺麗に纏まった。結婚前提の清いお付き合いの松永とミーコ、自分の想いをミーコに伝えてサバコを可愛がる凌、お試しじゃなくて想いを通わせたキスをした健太郎と朝子、そしてシェアハウスを出たけど大事なタイミングには遊びに来てるあかね。皆さんお疲れさまでした。

という事で、健太郎と朝子における感想。

手巻き寿司パーティーの片付けのタイミングで、朝子をバーへ誘う健太郎。原作だと一度外に呼び出して話をした上で、朝子が応えても応えなくてもシェアハウスを出ていくと告げていたが、ドラマではミーコの保護者を任せられた都合上、今後も住み続ける事になっている。
「もう元には戻れない」の台詞は原作だと上記の呼び出しのタイミングで告げて、その上で「バーに来てほしい」と伝えるのだが、ドラマではあくまでも「仲直りの印にカクテルを奢るからバーに来てほしい」と、割と穏やかな誘い方ではあった。だから朝子も迷わず、健太郎のバーに行く事を決めたのだろう。

バーのシーンは原作では女の子たちが健太郎を求めてズラリと並んでいたのだが、ここでビシッと貸し切りにしたのは良かったと思う。最初から最後まで徹頭徹尾朝子の為に、という健太郎の健気さが分かり易い。こうして思い返してみると、ドラマの健太郎は本当にずっと健気だった。
そもそも、ドラマ健太郎のチャラさは敢えてそう見えるよう振る舞っていただけで、実際は一途に朝子を想い続けていたという設定になっていた。前にも書いたが、ドラマのチャラ要素は四話の合コンセッティングぐらいなので、まあそうですねといった感じだ。

健太郎が髪を切った事に関しては、原作履修済みの私は朝子をバーに呼んだ時点で構える準備が出来たが、原作未読の視聴者からするとどれほどの衝撃だったろうか。
事前に知っていても、実際に髪を切った健太郎が出てきたらあまりの格好良さに感嘆の声が出てしまったので、原作未読の人たちはどんな新鮮な悲鳴を上げた事だろう。それはそれは活き活きとした断末魔だったに違いない。Xでも続々と天に召される視聴者の姿が見えた。

「髪を切ったらただの向井康二」と言っている人も居たけれど、あれは紛れもなく「朝子の為に髪を切って覚悟を見せた鈴木健太郎」だ。康二と同じ顔で康二と同じ髪型でも、その器に乗せた朝子への想いと滲み出る表情が違う。
コミカルなシーンでは「ただの向井康二」が見えた事を否定しないが、朝子とのシーンにおいては、健太郎の抱えた想いを本当に大切にしてくれているんだと感じた。(コミカルなシーンの健太郎を大切にしてないって言ってる訳じゃないです)

そして想いを伝えてくれた健太郎に対して、涙を滲ませる朝子の美しいこと……。智花ちゃんが本当に綺麗で可愛くて、少し震えた声が切なくて……。涙を滲ませながら、でもしっかりと彼女も自分の想いを告げて、そんな朝子の手を健太郎がそっと取るシーンはあまりにも完璧なエスコートだった。
以前、この記事にも書いたのだが、向井康二という人は手の動きが本当に繊細だと思う。よく緊張に震えているのを見る機会もあるが、彼は指先に感情が表れやすい。そんな手が柔らかく朝子の手を取って、それから彼女の頬を包み込む。優しい指先の動きに、朝子を見つめる瞳に、精一杯の愛おしさが乗っていて本当に素敵だった。

それにしても、原作では無かったキスシーン(とは言え、原作でもあの顔の近さはキスしたんだろうし、その後朝帰りだったからなって話)がしっかり差し込まれて、しかも今度はちゃんと想いの通ったキスで、唇が離れた後の二人の幸せそうな表情がしっかり映し出されてて、涙を拭ったり額を合わせたり、もうとにかくありがたい演出だった。水族館のシルエットで「ちゃんと映してくれ」とか騒いで申し訳ない。この為に水族館ではシルエットだったんだよね、あれはあれで美しかったけどハッキリ見える今回と対比させたかったんだよね、分かるよ~。
あと、向井康二には基本的に笑っていてほしいんだけど、それはそれとして彼は切ない表情をさせたらマジで優勝に次ぐ大優勝なので、バーで朝子に語り掛ける時の斜めから撮った表情があまりにも最高過ぎた。是非今後も、演技ではバンバン切ない表情も見せていってほしい。

蓋を開けてみれば、まさかメインカップルの松永×ミーコが最後までキスせず、サブカップルの健太郎×朝子に二度のキスシーンが用意されていた訳で、ラブコメのラブ要素を終盤数話でかなり担っていた事になる。そりゃ康二の気合も入るってもんだ。
初めてのラブコメ出演だから頑張りたい、と張り切って意気込んでいた昨年末の康二を改めて思い出す。座長である健人くんも色々と難しい立場になり、視聴者に見えない所で大変な事はたくさんあったと思うが、このドラマに、健太郎という役に康二が呼ばれた事は本当にありがたい事だなと思った。
ドラマチーム全体がいいチームなんだなというのをひしひしと感じたし、役柄としてもかなり美味しい立ち位置のキャラを貰った。ムードメーカーで主人公の良き友人でアドバイザーで、チャラそうに見えて実は一途に一人を想い続けるひたむきさを持った優しいお兄さん。それなりの存在感を持つ番手のキャラクターとして、結構理想的ではないだろうか。




以下余談。

最終話で明らかになった事実として「健太郎はチャラさを装っていただけで、実際はずっと朝子の事が好きだった」というものがある。これは健太郎の設定で、原作とドラマの一番の違いだと思われる。
「ずっと遊んでたけど一人の女に本気になった」と「本心を隠していたが一途に一人を想い続けてた」では、そもそものキャラクターの解釈がかなり変わってくる。

その改変を見た時、はるか昔よしながふみの『西洋骨董洋菓子店』が実写ドラマ化された際、原作では魔性のゲイと呼ばれた小野というキャラクターが、ドラマではただ含みを持たせただけの異性愛者であるという設定変更がされた事を思い出した。
キャラクターの根幹に関わる変更で、何ならあの漫画では小野が魔性のゲイである事はかなり意味を持っていた。私も、原作のファンだった母親も当時は相当がっかりした。(時代もあったので、今なら魔性のゲイ設定そのままでやりそうな気はするが)

先日、漫画原作の実写化において悲痛な事件が発生した。またそれに伴い、過去の実写化におけるトラブルを、数々の漫画家・小説家が発言している。今回はドラマにスポットが当たったが、アニメ化ゲーム化などのあらゆるメディアミックス化は同じようなものだと思っている。
全ての作家にとって作品は大事な子供たちだ。実写化するにあたり或る程度の改変はどうしたって出てくるだろうが、何よりもまず「作品の親御さん」である原作者の意に沿う形にしてほしい。作者にとって大切なお子さんを預かっているという意識を、メディアミックス側のスタッフは決して忘れてはいけない。

それを踏まえて、毎週楽しく実況してくれてイラストを上げてくれた岩下先生の存在が、昨今の実写化問題に気を揉むファンの一人としてはありがたいものだった。
原作通りの所は感動して、時に新鮮な驚きを持った実況ポストは、見ていてとても心強くもあった。キャラクターは勿論、演者にもスタッフにも感謝と愛情を感じられるポストばかりだった。本当にありがとうございました。


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