1ヶ月に1回は大変なので、3ヶ月に1回にしようと決めた世界史連載ですが、やはりこれは今書くべきなんじゃないだろうかと思い、キーボードを叩いています。

　このシリーズが初めての方は普段との温度差に戸惑っておられると思いますが、こちらは私なりの切り口で近代史を振り返る世界史連載Noteです。バックナンバーはこちらからどうぞ。

　日露戦争の記事を書き終わった直後から、今回は第一次世界大戦、特にパレスチナ問題に触れたいと思っていました。そんな矢先、10月6日に起きたイスラム過激派武装組織によるテロは、大きな衝撃でした。

　これまでもお伝えしている通り、私は歴史の専門家ではありません。とりわけ中東は行った経験もなく、特に最近の情勢はあまり追いきれていません。ですので、触れるのは私自身が直接見聞きしたり経験した範囲の話に留めさせていただきます。あくまで一つの意見として、それぞれ皆さんがご自身の意見をまとめる時の参考にしていただければと思います。

まず、第一次世界大戦とは何かから。

　しかしこの状況、日露戦争から続けて見るとツッコみどころ満載だと思いませんか。ロシアとフランスとドイツで仲良く日本に三国干渉してこなかった？ いつの間にロシアがこっち側になってるの？ 日露戦争終結から10年も経ってませんよ？

　ロシアが極東から中東・バルカン半島方面にルートを変更したので、日英両国はあえて対立する必要がなくなった。むしろイギリスにはドイツの方が厄介になってきたということだそうです。個人的に、列強諸国の最も恐ろしい点はここじゃないかと思っています。

　「昨日の敵は今日の友」って少年漫画なら感動的ですが、現実ではあまりに酷い。自国民が何人殺されようが、国として利害が一致するなら陣営を変えることも厭わない。被害に遭った国民の感情や憎しみは置き去りにしたまま「今日から一緒に頑張ろうね！」なんてやってられない。そんな簡単に手を組めるくらいなら最初から殺し合いさせる必要ないじゃないかと言いたい。

友情破壊ゲーム

　昔、一度だけディプロマシーというボードゲームをプレイしたことがあります。第一次世界大戦直前のヨーロッパを舞台に陣取り合戦をするという不謹慎極まりない魔のゲーム。下記リンク先のレビューにもある通り「友情破壊ゲーム」と呼ばれ、私がやった時もトラブルが起きましたし、夫も過去やった時にも途中離脱した人がいたと聞きました。実在する都市に駒を進めるのも良心が痛むので、私は今後一生やることはないと思いますが、こんな争いに好んで参加していた or 強制参加させられていた国々の視点を知ることができた貴重な機会ではありました。

　このゲームは実際に別室で交渉することができますが、交渉内容を公表する必要も約束を守る必要もありません。「そんなこと言った覚えありませんが」「あの時はああ言いましたが、やっぱりあっちにつきます」「約束を守ってくれてありがとう。私は守りませんけど」と言えてしまう。現実に時の権力者がこういうことを散々やってしまったから、現在の国際社会にも色々な問題が燻っているんでしょうね。本当に愚かで胸糞悪い話だと思います。

　現実ではイタリアの例が分かりやすい。イタリアは三国同盟側でしたが、元々オーストリアと領土問題で揉めていたので「もし協商側が勝利したらその領土を君にあげてもいい」という口車に乗せられて早々に裏切りました（ロンドン秘密条約）。実際は協商側が勝ってももらえなかったので怒り、第二次世界大戦で再び英仏と敵対することになります。そう考えると、再び組むことをドイツが許したのも謎ですね。

まさに世界大戦

　たとえディプロマシーのゲーム盤はヨーロッパのみだろうと、現実には世界中に散らばっていた列強諸国の植民地（旧も含む）も戦いに巻き込まれていきました。

1．アメリカ

　今となってはやたら関わってくるイメージのアメリカですが、当時は巻き込まれないようギリギリまで模索を続けていました。でも結局、ドイツ軍がイギリス商船を攻撃し始めて多くのアメリカ人乗客が被害に遭ったのをきっかけに1917年から参戦を決意。協商側の勝利は完全にアメリカのおかげでした（ロシアは国内で革命が起こり、アメリカとほぼ入れ替わりで戦線から離脱）。
　アメリカはこの経験から「争いばかりの旧世界（欧州）には任せておけない」「圧倒的に強い力で敵を潰すことで被害を最小限にできる」「戦争を早く終わらせることができるだけでなく、周りにも感謝されて国際的地位が上がる」というヒーロー病にかかってしまったように思います。

2．東アジア

　中国では大戦直前に清が崩壊して中華民国が設立しましたが、相変わらず内政は不安定でした。
　日本は欧米の目がアジアから逸れている間に、協商側の味方をすると言ってアジアにあるドイツ領を占領する戦略に出ました。そして中国内のドイツの権益を日本に引き渡すことを中国に要求します（二十一条の要求）。
　この要求は全５項目あり、１〜４までは公表されていたけど、５つめは英米をも出し抜くものでした。なので本来は秘密にしなければいけないものでしたが、中国側はあえて暴露。次は日本と米英の仲が怪しくなってきます。
　また、戦後の講和条約でもこの要求が撤廃されずに残ったため、中国内で日本への反発が激しくなり、中国共産党が生まれます。

3．中東

　三国同盟から早々にイタリアが離脱した代わりにオスマン帝国（トルコ）がドイツ側で途中参戦。中東の戦況が危ういと感じたイギリスは新たな予算と戦力確保のため、後に「三枚舌外交」と言われる悪手を打ちました。

A：1915年：アラブ人が協力してくれるなら、アラブ国家の独立を約束する
B：1916年：アラブ地域は英仏露で分割統治する
C：1917年：ユダヤ人が協力してくれるなら、パレスチナにユダヤ人が帰れる場所を作る

　勝った時揉めるって思わなかったのかな。策士…というよりあまりにダメダメじゃないだろうか。意図して守る気なかったのか、本気で連携が取れてなかったのか、激しく気になります。

　一応イギリスの言い分としては、この３つの約束は果たせているそうです。
　大戦直後は英と仏で委任統治（露は戦線離脱したのでBクリア）、そのうち英が統治するパレスチナにユダヤ人を入居させた（Cクリア）、アラブ人国家はあれから独立した。パレスチナの話まではしていない（Aクリア）。

　初期はまだ共存できてたけど、対立が起こるたびに両者の溝が広がっていきました。第二次世界大戦でナチスドイツによるユダヤ人迫害が起こったことで更に多くのユダヤ人がパレスチナに流入し、事態は悪化。世界の同情を集めて1948年にイスラエルが建国されましたが、パレスチナ側の怒りは収まりませんでした。

　ちなみにイギリスはこの時点で「もう無理…」と国際連合に投げています。ちゃんと責任取れよって思うけど、負の遺産を押し付けられる次世代も一種の被害者だよね…（日本もそう）。

　その後アメリカが引き継いで居住区を分ける提案をしたりしてたら、どんどん アメリカ＆イスラエル VS アラブ諸国になっていって今の惨状に至ります。この辺りは今回のテロを機に色々なところで特集が組まれていると思いますので、詳細はそちらにお任せしたいと思います。おいおいナチスドイツやイラク戦争の話でもまた触れることになると思いますので。

大規模な家庭不和？

　私は特定の宗教を信じていませんが「人は何かを信じるととんでもない能力を発揮して奇跡を起こす」ということを信じているので、多くの人の心を動かす宗教の中身を知らないことには歴史を語れないと思っています。なぜか熱心な方から説教を受ける機会には恵まれるため、今回のパレスチナ問題を知る助けになりました。

　ユダヤ教の教典である（旧約）聖書では今から4000年ほど前にアブラハムが「約束の地へ行け」という神の啓示を受けてカナンの地（パレスチナ）に辿り着き、イスラエル民族の祖となったそうですが、私が衝撃だったのは、アラブ民族もまたアブラハムの血を引いていて、公式で兄弟と認知されていることでした。

　アブラハムは「見渡す限りの地を全部、あなたとあなたの子孫に与える」という神の啓示を受けたけど、その時点では妻サラとの間に子どもがいなかった。もう自分は高齢で子どもが産めないと焦ったサラは、夫に自分の女奴隷ハガルをあてがうことにします。ハガルは妊娠したけど、サラは自分で提案しておきながら嫉妬に駆られた。ハガルはサラの虐めに耐えきれず一度荒野へ逃げ出しますが、天使の啓示を受けて戻ることを決意しました。「（予定外だろうと）生まれてくる子は大いに繁栄するだろう」と言われたのだそう。そうして産まれたのがイシュマエル。
　その後、啓示どおりサラ自身も子宝に恵まれてイサクが産まれましたが、一緒に遊ぶこともサラが良く思わなかったため、結局アブラハムはハガルとイシュマエルを荒野に追い出すのでした。そりゃ揉めるよ……。

　イスラム教のコーランでは約束の子がイシュマエル、聖書の約束の子はイサクと、ここから大きく分岐することになりました。結局パレスチナ問題は壮大な相続争いってことか。人間模様がリアルすぎる…。
　ちなみにこれ、「サラが最初から神様の言うことを信じて待ってればよかったのに。やっぱり女は愚か者」という教えが透けて見える感じがどうもモヤモヤするエピソードだとも思います（男性社会と宗教にまつわる話もいつか書ける機会があったら書きたい）。

　その後、イサクの孫のヨセフは、兄弟たちによってエジプトに奴隷として売り飛ばされました。でもやはり「祝福されているので」才能を発揮し、奴隷から宰相にまで成り上がりました。どんどん力をつけて国内に増え続けるユダヤ人に、エジプトの人々は脅威を感じ始めます。………なんだかどこかで聞いた話ですね。

　エジプトに住みにくくなったユダヤ人たちは過去の伝説に縋り、カナンに戻ることを夢見るようになりました。その時のリーダーがかの有名なモーセ。

　彼が紅海を真っ二つに割ってエジプトを去るシーンは有名ですが、脱出後、40年近く荒野を彷徨ってカナンに入れなかった話はあまり知られていない気がします。そして個人的にはここからが本当に怖いところだと思います。

　というのも、ようやくたどり着いた理想の地にはもう人が住んでいた。民衆は「すごく強そうな人たちがいるけど？」「こんなことならエジプトにいればよかった！」「何で俺たちを扇動して連れてきた！」とモーセを責めまくった。かと思えば、彼の忠告を無視して先住民に奇襲をかけようとする勢力も出てきた。無秩序になった民衆を抑えようと生まれたのが「モーセの十戒」。それでも従わずに反逆を企てる人まで現れたので、モーセは自分に従わない者を神の名の下に裁き、「神がカナンの七民族を滅ぼし尽くせと仰った」と過激な方針で人々をまとめるようになりました。

　最初は圧政からの解放を目的に作られた組織だったのに、各方面から要望が出過ぎて指導者がパンクし、「やっぱり民衆を自由にさせるとロクなことにならない、黙って私に従え！！」とむしろもっと圧政を強いる組織になるという流れがあまりにリアルじゃないでしょうか（共産主義とかと同じパターン）。

　聖書にはそれ以降も、モーセの遺志を継いだ子孫が軍事力を蓄えて先住民を侵略し、イスラエルを建国する英雄伝が綴られています。先住民側から見れば全く理不尽で、理解し難いものだということも見えてくると思います。

　現在のパレスチナ問題は、皆が皆、宗教的な理由で戦っているわけではないでしょう。ユダヤ教を信じてないイスラエル人もいるだろうし、アラブ人全員がイスラム教徒でもない。でも聖書から見えてくる人間模様はおそらく現在進行形で起こっているパレスチナ問題と大きく変わっていないように思います。

戦う気がない人を巻き込むな

　パレスチナ問題に限らず、紛争は大なり小なり日常で起こるものです。最近プライベートでもよく意見の対立を目にしていたので、平和とは何かを改めて考えさせられる機会が重なりました。

　私はイスラエル人とパレスチナ人、どっちにつくこともできません。というか、むしろその分け方を止めなきゃいけない時が来てると思います。「納得が行くまで戦って決着をつけたい人」と「多少の価値観の違いは妥協や対話で受け入れつつ、和平を望む人」を早く引き離すことが大事だと思います。

「絶対パレスチナに住みたい。そのためにはどんな犠牲も厭わない」
「場所はどこでもいいが、やっぱり感情的に一緒には住めそうにない」
「もし殺し合わなくてよくなるなら共存できるよう努力する」

というように民族で分けるのでなく、価値観で分けないといけない気がします。ぶっちゃけるなら、絶対パレスチナを譲れない人は本人の納得が行くまで殺し合いを続ける道もあると思う（外部の干渉無しで）。倫理的には問題があるでしょうが、本当にその価値があると本人たちが信じるのであれば、それも彼らの選択だと思うんです。

　極端な意見という人もいるかもしれません。でも私が戦争で何よりも許せないのは、自分は安全なところにいながら、戦う気がない人を駒に使う権力者や、勝手に〇〇代表を名乗って不特定多数を巻き込んで対立を煽る人たち。本当にこのポストの通りだと思います。

　ユダヤの人たちは選民思想から「神様に愛されている」「どんなに今が辛くてもいつかは報われるはずだ」という信念が根付いていたこともあって、本当に困難に強く勉強熱心で優秀な方々が多いと思います。それが敵を作ってしまう原因にもなりがちですが。その特性を平和的な分野に生かしている方々もたくさんいる。

　私自身はあまりイスラエルと接点がありませんが、ひとつ印象に残っているのはアグリテック（農業テクノロジー）分野が盛んな国だということです。

　砂漠などの厳しい環境下においても安定的に食料を提供できるための開発が進められています。調べたら、本来なら今日がちょうどサミットの開催日だったと知り、更にショックを受けました。

　軍事費に費やされている予算や技術がこちらに全振りになったら、中東にはもっと素敵な未来が待ってるんじゃないんだろうか。本当に心が痛いです。

最後に

　いつものことながら自分の脳内をただ吐き出しているだけのNoteでしたが、とりあえず今回一番言いたかったことはこれ↓

【信念のために命を賭けて戦うべき時はあると思う。ただ、あくまで自分のものだけ賭けろ。他人の分まで勝手に担保にするな。】　　

　次回は第一次世界大戦が終わって、もう戦争はこりごりだと国際連盟を作ったはずだったのに…というところを書けたらいいなと思います。次に世界史Noteを書くときには少しでも各地の紛争が解決に向かっていたらいいな…。

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※第５回書きました。