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【頂を目指す】ツール・ド・フランス2023 勝手にプレビュー【Vol.3】2週目プレビュー編

第10ステージ
ブルカニア→イソワール
167.2km/丘陵/7月11日(火)
優勝予想:ニールソン・パウレス(アメリカ/EFエデュケーション・イージーポスト)

フランス中部の大都市クレルモンフェランの近郊にある火山をテーマとした緑地公園・ブルカニア(Vulcania)をスタートする。激しい爆発を伴う噴火をブルカノ式噴火と呼ぶらしいが、その語源はイタリアのブルカノ島であり、また、古代ローマの火の神ウルカヌスであろう。言うまでもなく2日前に決戦が行われたピュイ・ド・ドームは当地を代表する火山だ。

古代ローマ・ウルカヌス広場で行われた「ウルカナリアの祭典」について、日本大百科事典電子版(小学館)はこう述べる。

「伝えられている唯一の儀式は、生きている魚を火中へ投ずるというもので、灼熱の神として、8月の炎熱期と渇水期が重なる時期、つまり収穫期にとくに畏怖されたと考えられる」

走ることに忙しいツールのライダーたちは、たったの一人も辞書のそんな記述を見ることはないだろうが、もし見ていたとしても安心して欲しい。今日のステージは誰かを火中に投げ込むものでもないし、8月にさえもまだ遠い。今日は逃げ切りのステージだ。3級山岳ポイントが4カ所、2級山岳ポイントが1カ所設けられ、最後はクレルモンフェランの30キロほど南にあるイソワールにゴールする。

こういうステージを得意とするのはEFエデュケーション・イージーポストの面々だろう。あとはアルペシン・ドゥクーニンクか、スーダル・クイックステップか。いずれにせよかなり大きな逃げ集団が発生し、彼らの逃げ切りを総合系の選手たちは容認する。終着地には12世紀建立の教会を中心とした旧市街地があり、その周囲にはアルミニウム加工大手のコンステリウムが大工場を構えている。

第11ステージ
クレルモンフェラン→ムラン
179.8km/平坦/7月12日(水)
優勝予想:マッズ・ピーダスン(デンマーク/リドル・トレック)

クレルモンフェランで都合3泊した集団は、ついにゆったりと動き出す。今日は4級山岳ポイントが3カ所あるだけの平坦ステージ。気をつけなければならないのは風のみで、3つめの4級山岳ポイント(残り61.3km)からはちょっとだけ緊張も走るだろう。なぜなら、春の重要ステージレース「パリ~ニース」で横風職人が暴れるのがこのあたりだからだ。

そうは言っても最終的には集団スプリントに持ち込まれ、大型スプリンターが足を鳴らしてムーランの街を駆け抜ける。今日は視聴者がお休みがもらったっていい。朝起きたところでタイムラインが騒いでいることなど考えられないが、仮に荒れていたら、それは集団スプリントで何かが起きたのではなく、横風が吹いたと察すればいい。「やっぱり見ておくべきだった」。そう悔やむのも、ツールの一面だ。

第12ステージ
ロアンヌ→ベルヴィル・アン・ボジョレー
168.8km/丘陵/7月13日(木)
優勝予想:マグナス・コルト(デンマーク/EFエデュケーション・イージーポスト)

先頭集団が逃げ切るのか、スプリンターを抱えたチームがスプリントになんとか持ち込むのか。判断の難しいステージが組まれた。ただ終盤に続く二つの2級山岳は「それなりに」険しく、おそらく大半のスプリンターは残れない。

やはり残れるとしたら、こういうステージプロフィールに意気天を衝くパンチャーたち。先頭集団に複数人を送り込むかもしれないEFエデュケーション・イージーポストは今日も暴れることを許された日だ。総合系チームが仕掛ける可能性も否定できないが、明日からの厳しい日程を考えると、やはり先頭集団が逃げ切るほうが有力。

レース自体は大都市リヨンと、ワインの集積地マコンの間に折り畳まれた道をひた走る。どこまでも続くワイン畑ならぬブドウ畑。そして古城や修道院。レーサーではない我々は「これぞフランスだな」と田園詩をゆったりと眺め、レーサーたちは逃げ切らせるか追い付くかチームの垣根を越えた心理戦に疲弊する。

第13ステージ
シャティヨン・シュル・シャラロンヌ→グランコロンビエール
137.8km/山岳/7月14日(金)
優勝予想:タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAE・チームエミレーツ)

シンプルなレイアウトだ。中盤にカテゴリーこそ付いていないが、だらだらとロンプヌ高原に登り、下りきったあとグランコロンビエールに挑む。

残り17.4km、キュロスの街にある名もなき交差点を折れると、それは始まる。最初は市街地とブドウ畑を行く大きなつづら折り。そして次に、尾根に折り畳まれたフォトジェニックな狭隘路が現われる。まだ仕掛けどころではないが、ここを見ずしてグランコロンビエールは語れまい。

いくつかの分岐を過ぎ、残り9km地点あたりから、勝負ができる者だけの争いになる。先ほどまでのつづら折りから一転、直登気味の登坂へと変化。優勝する選手が少しでも加速すれば、権利のない選手はじわじわと遅れていくだろう。

グランコロンビエールは名勝負が行われてきた登坂だ。厳しい制限の中で行われた2020年のツール・ド・フランス第15ステージで、タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAE・チームエミレーツ)は同国のライバル、プリモシュ・ログリッチを振り払って優勝。トビアス・ヨハンネセン(ノルウェー/ウノX)は同じレイアウトが組まれた2021年のツール・ド・ラヴニール第7ステージで2位以下に1分以上の差を付けて優勝している。

第14ステージ
アンヌマス→モルジンヌ・レ・ポルトデュソレイユ
151.8km/山岳/7月15日(土)
優勝予想:ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)

前日同様に短い距離だが、今日の方が大変だ。150キロほどの中に1級カテゴリーの山岳が3カ所、超級カテゴリーの山岳が1カ所用意された。今日のステージで我々は当たり前のことに気づかされるであろう。ツールはチーム戦だ――。アシストがペースを作り、飛び出すものを引き戻し、エースが追い込まれればサポートする。そんな場面を何度か見ることになる。

展開は予想しにくいが、最初にやってくる“おまけ”の3級山岳(残り133.1km)とその次の1級山岳ク峠(残り116.5km)までははっきりとした逃げ集団は形成されそうにない。テクニカルな下り坂を経て、次の1級山岳フ峠(残り99.1km)に駆け上がる段階である程度の形成が決まりそうだ。

人数が削られるのは最後の二つの山。残り64.1km地点のミウシーから取り付く1級カテゴリー山岳ラマ峠(残り50.2km)は登坂距離13.9km、平均勾配7.1%。森林から断崖沿いの道に変わる残り57.4km地点付近から勾配は厳しくなり、ロックシェッドとトンネルの中で11パーセント超に達する。

次なる山は超級にカテゴライズされているジュ・プラーヌ峠(残り12km)。頂上には雪解け水の小さな池があり、アルプスの美観にさらなる彩りを添える。もちろんライダーにその余裕はないが。なんといってサモエンヌ(残り24.7km)の街を過ぎたら始まる登坂は、わずか11.6kmながら平均勾配は8.5%。最後の5キロは常に9パーセントを超えている。頂上を過ぎても3キロ超は平坦。そこから一気に下って、モルジンヌにゴールする。

あらゆる場所でアシストの力があるとエースにとっては頼もしい。ジュ・プラーヌ峠でアシストがエースを待っていてくれたら、どんなに幸甚か。つまり逆算が必要だ。二つ目の1級山岳フ峠までにできる逃げ集団に、前待ちの選手を送り込めたら、かなり優位に展開できる。もちろんそれができるのはほんの一握りのチームだ。

そして前方でエースがアシストの存在を頼もしく思っている頃、後方ではまた別のチームがアシストとともに汗を流している。スプリンターチームのエースは今日、タイムアウトになるわけにはいかない。

第15ステージ
レジェ・レ・ポルトデュソレイユ→サンジェルベ・モンブラン
179km/山岳/7月16日(日)
優勝予想:ジュリオ・チッコーネ(イタリア/リドル・トレック)

高峰モンブランの下を貫いてイタリアを結ぶモンブラントンネルに近い、サランシュの盆地を目指す。

179kmの距離の中にはたくさんの登坂が組み込まれた。順に、3級カテゴリーくらいはありそうなポイントの付かないフィリエール峠(残り138.8km)、1級フォルクラ峠(残り96.2km)、3級カテゴリーくらいはありそうなポイントの付かないマレ峠(残り71.2km)、1級クロワ・フリー(残り54.5km)、3級アラヴィス(残り45.7km)、2級アムラン(残り8.4km)、1級サンジェルベ(ゴール地点)――。

最後の二つの登坂はセットのように見えるが、性格は異なる。鬱蒼とした森の中を走る2級山岳アムランは2.7kmの登坂距離ながら平均10.9%、最大勾配17%と非常に厳しい。そして最後の1級山岳への登坂はスキーリゾートに向かう幅広の道で、視界は開けているが、一定ではない頻度のつづら折りを登らされる。

このコースを見たライダーたちの心はきっと、始まる前からぽっきりと折れている。総合系の争いは最後に少しだけ起きるが、きっと逃げ切りが決まるだろう。逃げに誰が入るか次第だが、総合系の大集団は30分くらい遅れてゴールするなどということさえ考えられる。「今日くらい休もうよ」。もちろん、そんな空気の中で、最後の2級山岳でアタックを仕掛ける若者はいるかもしれないが。

一団は盆地で明日の休息日を迎える。今日のコースでも少しだけ通った場所を、2日後は個人タイムトライアルで駆け抜ける。いや、駆け上る。

休息日
(7月17日)

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