誰かと手をつなぐのって得意ですか?
突然ですが、みなさんは誰かと手をつなぐのって得意ですか?
いやいや、手をつなぐ、のに得意も不得意もないよ、なんて思っているあなたは、手をつなぐのが得意な人なんだと思う。
僕はたくさんの苦手を持っているが、その中でもベストスリーに入るほど、誰かと手をつなぐのが苦手だ。
理由は簡単。僕の手がほとんどいつも汗でネチャネチャと濡れているからだ。もちろんサラサラなときもあるけど、何かを意識した途端にじわじわと汗で濡れてしまう。
もう気にすれば気にするほどネチャネチャと湧いてくるのだ。例えば誰かと手をつながなくてはならない、と思うだけで、どっと汗が噴き出てくる。
だから、学生時代にフォークダンスを踊らなくてならないときは、嫌で嫌で仕方がなかった。
それに好きな女の子とデートしても手をつなぐことができないことが切なくて仕方がなかった。
彼女の手を握りたい、でも、僕の手はベタベタできっと嫌な思いをさせてしまう。もうジレンマで心がよじれで千切れそうなくらい切ない思いだ。
どうしてここまで誰かと手をつなぐのが苦手になったのか、そのきっかけはわかっている。あれは小学校一年生ときだ。
その日は小学校に入って初めての遠足だった。地下鉄に乗って動物園まで行く。その道中ずっと女の子と手をつないでいなければならなかったのだ。
先生としては、まだ幼い僕らがはぐれないようにそうさせていたのだろう。だが、そのとき僕と手とつないでいた女の子が、突然、僕の手を離し、先生に向かってこう言ったのだ。
「なんか手がネチャネチャして気持ち悪い」と。
僕は初め彼女が何を言っているのか、わからなかった。そのときはまだ、自分の手が汗で濡れていることに気がついていなかったからだ。
彼女は先生に注意されても、決して僕と手をつなごうとはしなかった。仕方がなく先生は僕と彼女の真ん中に入って三人で手をつなぐ形になった。
そのとき僕は恥ずかしさで顔が真っ赤になっていた。そりゃもう動物園のお猿さんのお尻よりも真っ赤だったと思う。そしてそのままライオンの檻に身を投げてエサになりたい気分だった。
でもそんな勇気も根性もない僕は、恥をさらしながら、自分は誰かと手をつないではいけない人間なんだ、そういう人間なんだ、と思って生きてきた。
今でもあのときのトラウマが残っている、といえば嘘になるけど、手をつなぐのは苦手だ。
じゃあ、お前は誰とも手をつないで来なかったのか、と言うとそうではない。今まで付き合ってきた女の子たちすべてと、いつも手をつないできた。
もちろん僕は積極的にこちらから手をつなぎたくないんだけど、彼女たちにとっては、手をつながない彼氏なんてものは存在しない。
「大丈夫だから、私はあなたの手がどうであろうと、あなたと手をつなぎたいの」と言う具合だ。
そのとき僕はいつも嬉しいような恥ずかしいような不思議で複雑な気持ちになる。
そして、そんなときの僕の手は決して濡れていない。いや違う、初めは濡れていたとしても、次第に乾いて暖かくなる。心と同じようにゆっくりと。
だからだろうか、別れた彼女たちとはいろいろあったにせよ、彼女たちの手には感謝しかない。
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