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古い記憶

一番古い記憶は、家の渡り廊下に出て、屋根から落ちてくる雨粒たちを小さな手で集め、ある程度たまったら、それをリビングで寝ていた父の頭に塗りたくっていた記憶だ。

別にいたずらをしたいわけではなく、ただ単純に父の頭に雨粒を塗りたくることで、父の頭の毛が生えてくるのではないかと父を想っての行動だった。しかも、別に父の頭は、毛が生えてこないのではなく、生えてきているものを剃っているので、たとえ本当に雨粒を塗ることで毛が生えてきても、父にとっては有難迷惑であるが、当時の私はそんなことは全くお構いなしだった。その行動は1回きりだったか、雨が降る度に行っていたのかは覚えていない。雨を塗りたくった後、父に怒られたのか、それとも父は何も言わずに受け入れたのかも覚えていない。


次に覚えているは、1つ上の兄をソファーの上から突き落とした記憶だ。なぜ突き落としたかというと、本当につまらない理由だった。これから出かけるというときに、兄はある店に行きたいといっていたが、私はその店に行きたくなかった。だから突き落とした。単純明快、短絡的な犯行で、後先考えていない自分勝手な思いで兄をソファーから突き落とした。
兄は泣いていた。私は、自分が兄を泣かせるだけの力があることに喜びを感じ、兄の泣き声を聞いて飛んできた母親に「私、お兄ちゃんを初めて泣かしたよ」と自信満々に母親に言い放ったのを覚えている。兄は私が起こした行動で泣くことは、後にも先にもこの1回限りだった。


最後は、祖父母の家に遊びに行ったとき、こっちにおいでと優しく声をかけてくれたおじいちゃんに対し、「おじいちゃんよりおばあちゃんの方がいい」と言い放ち、おじいちゃんのそばに行かなかった。なぜそう言ったか、深い意味はなかった。おじいちゃんも好きだし、おばあちゃんも好きだった。ただ、その時の気分が男性のほうにいくよりかは女性のほうに行きたかった。ただそれだけだった。祖父は優しい人間だったから許してくれただろうか。


小さなころの記憶を何とか思い出してみても、私という人間を語るにあたり本当にろくでもない記憶しか思い出せない。確かに今もろくでもない人間なのだからしょうがないが、小さなころからろくでもなかったのだと、すこし肩を落としながらも、しかたがないと諦めるしかない。

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