見出し画像

古武術からの発想(甲野善紀)【#書評172】

甲野善紀さんの古武術に関する考えをまとめた本。

甲野先生は、現存している過去の文献から過去の武術がどのようなものだったのかを研究している。先生が構築した理論は、先生自身のこれまでの修行に裏付けがされて、実際、現在の身体用法では難しい動きもできるようになっている。

この本では、甲野先生の武道論の片鱗を見ることができた。

ただ、甲野先生の科学への考えにはあまり賛同できなかった。確かに、科学の発展によって、環境が破壊されたり、人口が増えすぎたりする問題があった。ただ、これらの問題もまた、科学によって解決できるのではないかと私は考える。

 私が現在実践している武術の身体運用法の概略は、まず身体全体のアソビをとること、そしてそのアソビをなくした身体全体にロック(急ブレーキ)をかけて、一気に発力するシステムをつくる作業であり、主にその工夫研究を行っている。

p.5

 私が合気道の稽古で感じた疑問、すなわち従来の"説"や上位の者への"遠慮"などが真実の追究より優先するという状況は、科学者の世界でも見ることができたのです。そして、こうした"事実にフタをする"態度は、合気道界だけでなく、社会一般でもその基本構造が同じなのだ、ということに気づいたのです。

p.33

 井桁崩しの原理、略して「井桁術理」というのは、ある点を支点としてアームが動く自動車のワイパーのような動き、つまり、物理用語でいうヒンジ(蝶番)運動の問題点に気づき、それに関わるものとして平行四辺形が潰れていく形をモデルとしたものです。
 つまりこの平行四辺形の向き合った辺が互い違いに動くことによって、ヒンジ運動の問題を克服しようとしたんですね。

pp.68-69

科学が発達し。冷暖房が完備し、交通機関が発達したことで、人間の基本的な体の能力が鈍化し、その上、これら科学の発達の副作用による環境汚染で体が痛めつけられているわけですから、まあ体力が落ちるのは当然といえば当然ですが、とにかく体の自立性を呼び戻すことをなんとか図らない、このままでは人間はますます弱体化してゆくでしょうね。

p.78

こちらの意見にはやや懐疑的である。昔は冷暖房がなくとも生きていけたかもしれないが、昔と今では暑さのレベルは全然違う。冷房がなければ熱中症で倒れる人はもっと増えるだろう。また、環境汚染で体が痛めつけられているとあるが、少なくとも日本において、健康被害が出るレベルの環境汚染はどんどん少なくなっている。加えて、体が弱くなっているとあるが、日本のスポーツ選手がどんどん海外でも活躍できるようになっていることを考えると、実際に体が弱くなっていると考えるのは疑問が残る。(ただ、甲野先生のいう身体の強さとスポーツのうまさは関係がないかもしれないが。)

(野口晴哉が言うには)「人間の健康というのは、もともと自然に備わっているものであり、ことさら、これを増進させたり治療したりするものではない」というお考えなんですね。
(…)
 つまり健康は、自然に保持されるべきものであって増強したり増進したりするようなものではない、という野口先生の思想のあらわれですね。

p.165

「医学が発達し、昔ながら死んでいた者でも助かるようになったから、現代の方が進んだのだ、よくなったのだ」という意見もありますが、人口がどんどん増え、しかも若者より老人が増えはじめているという社会は、生物学的見地から見て、これをいいことだと言えるでしょうか。
 中学生がナイフを持って荒れるのも、男性が女性化するのも、社会がすべて過保護的になってきていることに対する当然のあらわれのような気がします。

p.219

科学が発展した結果、環境問題が発生したり、人が死ななくなって少子高齢化になったことが問題なのは理解できた。だが、これらのことと中学生がナイフを持って荒れたりすることや男性が女性化することがなぜつながるのかがよくわからなかった。加えて、男性の女性化がまるで悪いことのように言われているのも気になった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?