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走りながら考える(為末大)【書評#163】

この本はいわゆる成功者が語る成功のための本ではない。もちろん著者が成功者ではないと言いたいわけではない。著者の為末大さんは男子400mハードルの日本記録保持者で、世界選手権で銅メダルを受賞したり、オリンピックに出場したりとはたから見れば、成功者といってもさしつかえないだろう。

しかし、本の内容はいわゆる成功体験をまとめた本ではない。著者が題名通り「走りながら考えた」思考のプロセスが書かれている。

経歴だけを見れば、輝かしい人生のように思える為末さんも、失敗や挫折を繰り返してした。それらをどのように乗り越えてきたのか、そしてどのように折り合いをつけて諦めてきたのか。

人生は勝つことより負けることが多い。負けること、うまくいかないこととうまく折り合いをつけないと人生はとても辛いものになる。負けても、後悔しない、くよくよしないように生きていくことが大事だ。

 置かれた状況に関係なく、自分の全力を出しきっておくこと、そのことが後悔を整理することや、物事をきっぱりと終わらせるためにもすごく重要な気がしている。 p.22

 この人生を生きているということは、これじゃない人生は切っているということ。 実は、この「あきらめている他の人生」の存在に気がつくかどうかが、人生を広げる鍵だと僕は思っている。 p.48

 夢を持つこと、そしてチャレンジの奨励に大事なのは、結果をその人の責任にしないこと。力を尽くしてやるだけやったら、あとは自分のせいじゃないと思うくらいがちょうどいい。まさに「人事を尽くして天命を待つ」でいいのだと思う。 p.68

 本当の意味での成長とは、未知の領域を認めること。 そして自分の無知を認めることで、成長は促される。 だから今の自分の評価、他人からの評価に重きを置く人間は、こだわりが捨てきれずに伸びが止まる。「今はこんなものでしかない自分」をちゃんと認めて、それでも前を向き続ける人が成長できる人なのだと思う。 p.76

 あきらめたものが多いほうが、ひとつのことに集中投下できる。それゆえ成功しやすい。 p.80

全体のバランスで見始めると、欠点が欠点だけで存在しているのではなく、長所とセットになっていることがほとんどだった。 欠点には「存在する理由」があったのだ。(...) 欠点も短所も悪い癖も飲み込んで、その中の伸びる部分を見つけ、そこに時間や労力を投下するという方法が効果的なのだと思う。 pp.101-102

 自分の持てる力をすべて出してやった後は、悲しさや寂しさを超えて、「ダメなものはダメだったよね」という清々しさがある。「どうやったってダメだったよね」「でも、やるだけやったよね」という感覚。 自分自身を思い残すことなく卒業させてあげるために、万全の準備とそのときの全力を尽くす。そこに、おおいに意味があるのだと思う。 p.109

 夢を持つのは叶えるためじゃなく、一度どこかで破れるため。破れることがわかっていてもなお夢を持つこと、自分はこれになってみるんだという野心を持つこと、何かを乗り越えようと挑むことこそが大事なのだ。

 本当に強いのは、苦しい努力を頑張って根気よく続ける人よりも、そのことが面白くてつい努力していたという人。(...) 何かに夢中になるための方法などない。 だからそれを意図的に生み出すことは難しいのだけれど、言い換えれば、「無我夢中」を目指すことはが、一番を目指すこと、そのもののように思う。 p.141

 結果はともあれ、自分自身で「ちゃんとやれたな」と思う経験を積み重ねていくと、自分自身を信頼できるようになる。尊敬できるようになる。 尊敬できる自分でいるために、結果うんぬんではなく、むしろ最善を尽くしたのだという履歴を残していくこと。それによって自尊心や本当のプライド、自分への尊厳というものが生まれるのだと僕は信じている。 p.220


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