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更生

 眼鏡を盗まれる。銭湯でシャワーを浴びたあと、置きっぱなしにしていたら無くなっている。気にいってたものだけに、とてもくやしい。顔の見えない犯人には、これから良くないことがたくさん起こるように、毎晩呪詛を唱えることにする。やられたことは未練がましく覚えている性質(たち)である。

 昔は周りに迷惑ばかりかけてきた人が、年齢を重ねると、急に丸くなったり、大人しくなったりすることがある。かつては子を散々困らせていた親が、助けられる側になるとしおらしくなったり、優しいおばあちゃんになったりする。複雑であるが、かつての業(かるま)はその子の表情に刻まれている。自分が犯してきた罪の数々が、いざ助けが必要になった段階で、襲いかかってくるのが人生だと思う。

 就労支援の対象は、犯罪を犯して刑余を終えた出所者にも及ぶ。罪状が記された情報シートを共有しながら、受け入れる側も複雑であることは否めない。しかし話してみるととても気持ちが良かったり、素直な人柄が多い。過去の罪状は消えないが、現在を愚直に更新していくことで、助けてくれる人が増えていくのが人生だと思う。

 眼鏡がなくなったことを銭湯のフロントに相談するが、対応が冷たい。腹が立ったのでGoogleレビューに星1をつける。そうやって感情的になって、周囲に迷惑をかけてしまってばかり。涼しい顔で生きようとしながら、傷つけてしまったことをいつまでも反省している。やってしまったことを性懲りもなく繰り返してしまう性質であるが、まずそこからが更生の標(しるべ)だと、開き直るのも人生だと思う。


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