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企画レビューの質を高めるために実践していること

こんにちは。HR Tech企業で組織開発・人材育成をやっているうえむらです。最近は人事企画周りでCHROや人事部長とのレビューに臨む機会が多く、メンバーにレビューの場を有効に活用するためにフィードバックする機会も増えてきました。本記事では私が人事部内でのレビューに臨む際に意識していることを言語化してみます。


「レビュー」の定義

私が本記事で取り扱うレビューとは「様々な仕事においてレビュイーが作成した成果物をレビュアーが評価・批評し、そのフィードバックを通じて成果物をより良くするための場」を指しています。人事におけるレビューといえばパフォーマンス・レビュー(評価フィードバック)を指すことが多いですが、本記事では人事部内での成果物に対するレビューを取り扱います。なおレビュイーはレビューしてもらう人、レビュアーはレビューする人のことを指します。

レビューはITエンジニアの世界で一般的に行われている業務プロセスのひとつです。私が勤務する企業ではソフトウェアの自社開発をしており、私がレビューと出会ったのもエンジニアをやっていた頃でした。そこでは設計資料やソースコードなどの成果物をチーム全員で囲んで様々なフィードバックしあう「設計レビュー」「コードレビュー」といった場が存在していました。

人事におけるレビュー

自社ではエンジニアによらず、成果物を(主に上席に)レビューしてもらい、ブラッシュアップと承認が同時に行われれる文化が存在します。人事部においても同様に、CHROや人事部長に人事企画をレビューしてもらい、そこでのフィードバックを元に企画をより良いものにしていきます。

もしかすると人事の方にはレビューは馴染みの薄い言葉かもしれません。しかし多くの人事パーソンが成果物を上司や同僚にチェックしてもらう場に遭遇しているのではないかと思います。レビューのイメージを持ちづらい方はそうした場のことを想像しながら読んで頂ければ幸いです。

私が考える効果的なレビュー

レビューにはブラッシュアップと承認という機能が存在するため、どうしても「承認を得ること」に力点が置かれがちな面があります。それは自然なことではありますが、承認を得ることに注目しすぎるとフィードバックが自分に対する指摘のように感じられ、結果的に成果物の質を高める機会を逸することになりかねません。

私はレビューにおいては成果物のブラッシュアップに力点を置くようにしています。私が考える効果的なレビューとはレビュアーだけが持つ視点で企画の本質を突く問いが投げられ、短時間で議論が深まる場のことを指します。効果的なレビューではレビュアー、レビュイー共に成果に向けて集中しており、エネルギーの衝突が発生します。そしてレビューが終わると双方が心地よい疲労に包まれます。レビューは参加者全員にとって学びに満ちた時間です。

レビューの落とし穴

一方で、レビューが上記のような理想的な場となるためには様々な障壁を乗り越える必要があります。うまく機能していないレビューでは、しばしば以下のような光景が見られます。

  • レビュイーがレビュアーに委縮しており、自身の考えを素直に表明できない空気が漂っている

  • レビュイーが一方的に説明を行い、レビュアーからのフィードバックを得る時間が不十分なまま場が終了してしまう

  • レビュアーが何をフィードバックすれば良いか分からず困っている

レビューを効果的な場にするためには、レビュイー・レビュアー共に準備が必要です。現在私は人事スペシャリストとして活動しているため、レビュイー・レビュアー双方の立場でレビューに臨む機会を持っています。次章以降では私がそれぞれの立場で実践していることを紹介します。

レビュイーとして実践していること

私自身がレビュイーとして参加するレビューでは、レビュアーは主にCHROまたは人事部長のどちらかとなります。CHRO、人事部長とのレビューでは、経営視点・全社視点で企画を見られることになります。こうした前提の元で私がレビュイーの立場で意識していることを挙げていきます。

担当領域についてやるべきことをやりきった上でレビューに臨む

CHROや人事部長とのレビューにおいては、自身の担当領域(私の場合は人材育成・組織開発)で考えるべき点については既に考え尽くされていることがスタート地点となります。もしも担当領域において不安な点が残っている場合、大抵は調査・思考のどちらかが不足しています。事前にチーム内でレビューを受けるなどして、チームとして考え尽くした状態でレビューに臨みます。

前日までにレビュアーに資料を共有する

効果的なレビューでは、レビュアーがレビュー前に成果物の内容を把握しており、短時間で本質に向けた議論が始まります。こうした場を作るためにはレビュアーに考える時間が十分に与えられていることが必要となります。

特にCHROや人事部長は各領域からレビューを依頼される役割であり、経営や現場とも日々関わっていることから凄まじい情報量の中で意思決定を行っています。彼らから効果的なフィードバックを引き出すには事前の資料共有に加えて日々こまめにコミュニケーションを取り、お互いが最新の情報を持っている状態を作れるとレビューの成功確率を高めることができます。

開幕でレビュアーへの期待を合意する

冒頭でレビューにおけるゴールとレビュアーに期待することを明示し、期待について合意します。レビュアーへの期待を明示することでレビュアーがフィードバックをする際の焦点が自ずと定まり、レビュアーは内容に100%フォーカスしてフィードバックを提供することができるようになります。また期待値が明らかにずれている場合は、この時点でずれている事実を確認することができます。

レビュアーと思考の流れを揃える

レビュアーとレビュイーの思考の流れが揃うと、短時間で成果物の内容に深く潜り込むことができます。例えば結論を先に伝えるか最後に伝えるかといった単純なことであっても「常識的に考えて結論から述べる方が良いに決まっている」と決めつけてしまうのではなく、「レビュアーがスムーズに理解できる構成は何だろうか」とTPOに沿って考えるようにしています。

レビュー毎に個別に思考の流れを揃えるのは大変ですが、あるべき思考の流れが約束された企画フォーマットを用いることで準備を効率化することができます。企画フォーマットは人事組織で公式に使われているものを使うことが望ましいです。承認者が異動したばかりの時など公式化されていない場合には、直近で人事部内で使われた資料からエッセンスを抽出することもあります。フォーマットを使うことで担当者によらず説明の流れが一定化されることによりレビュアーの認知負荷を下げることにもつながります。(認知負荷については以下の記事で分かりやすく説明されています。)

レビュアーにとって「ちょうどいい」情報量を提供する

同じレビュアーであっても、効果的なレビューになる場合とそうでない場合があります。このような差異を生む要因のひとつにレビュアーがフィードバックを行うためには「ちょうどいい」情報量が存在すると私は考えています。

たとえばレビュイーが成果物について説明する際の情報量が少なすぎる場合、レビュアーにとってはフィードバックの抽象度・難易度が高くなります。特にレビュアーが正確さを求めるタイプであれば、不確かなフィードバックがレビュイーを惑わせることを恐れて発言を躊躇してしまうかもしれません。

逆に情報量が多すぎる場合にはレビュアーは「どこから突っ込めばいいのだろう」となりがちです。冒頭で期待を合意している場合にも、細部が気になってしまい、本来深堀りすべき点に辿り着かずにタイムオーバーを迎えることはよくあるのではないでしょうか。

レビュアーにとってちょうどいい情報量が提供されている際にはレビュアーから成果物の内容について深いフィードバックが自然と投げかけられ、レビュイーがこれまでに考えてきたことを踏まえて本質的な議論を進めることができるようになります。

ちょうどいい情報量はレビュアーによって異なります。後でふれるレビューの振り返りを通じて徐々に精度を高めていけるとよいでしょう。レビュアー本人に直接聞くのも精度を高める上で有効な方法だと思います。

レビュアーとして実践していること

ここからは私がレビュアーの役割を果たす上で意識していることを書いていきます。私は主に人材育成・組織開発のチームメンバーのレビューを担当することが多いですが、最近では採用、労務、人事制度企画など、様々なチームから相談を受けることが多くなってきたため、領域を問わず役立ちそうな点を挙げてみます。

メンバーが成果物に自信を持てるまでレビューする

私は「メンバーが成果物に自信を持てているか」という点を大事にしながらレビュアーをやっています。成果物の主体はあくまでメンバーです。そのメンバー自身がCHROや人事部長に自信を持ってプレゼンできることを支援するのがレビュアーの役割だと思っています。

メンバーにとっては立場の離れた上席にレビューする機会は(上席がたとえどんなに優しい人であっても)不安でしかありません。レビュアーとしてはメンバーがレビューに持つ不安を理解し、向き合っていく必要があります。ここでは代表的な不安とその対策を紹介します。

内容が煮詰まっていない不安

内容が十分に検討されていない成果物をレビューに持っていくのはメンバーにとっては不安なものです。そこで私は「5点でも10点でもいいので、まずは考えていることを文字に書き起こして持ってきてください。」とレビュイーに伝えています。よって初回のレビューは成果物が柔らかい(むしろ形になっていない)状態で行うことが多いです。レビューで話し合ったことを元に次の一手を合意し、また次のレビューに臨みます。レビューは毎日のように頻繁に行います。もちろん期日から逆算してスケジューリングしていますが、期日通りに事を進めるよりも、限られた時間の中でどれだけ濃密に議論ができたかを重視しています。

もちろんメンバーが既に自信を持っている場合や習熟度が高い場合は毎日のようにレビューする必要はありません。

資料の構成や体裁に対する不安

成果物の内容をどれだけ充実させたとしても、資料としてうまくまとめられていないとメンバーは不安になるものです。ある程度内容が煮詰まってきたら、資料の構成や体裁を一緒に考えはじめます。ここでもあるべき思考の流れが約束された企画フォーマットを用いることで、メンバーの主体性を引き出しつつ資料の構成や体裁に対する不安を軽減することができます。

話すことへの不安

資料がうまくまとめられたとしても、それをうまく説明できなければメンバーは不安になるものです。私はよくメンバーに「書いてあることをそのまま伝えてください」と話しています。緊張すると相手に伝えようと力んでしまうため、資料に書いていないことを話してしまいがちです。しかしこれは説明力が未熟なうちはあまりおすすめしません。むしろ伝えたいことを全て資料に書き出した上で、書いてあることだけを話すくらいの方が安定して相手に伝えることができます。その上で、レビュイーが制限時間内に説明を終えられるようにプレゼンの練習を支援し、話すことにフォーカスしたフィードバックを提供できるとメンバーの自信をさらに引き出すことができるでしょう。

他のチームの成果物をキャッチアップする

CHROや人事部長は日々多くのチームからレビュー依頼を受けています。彼らが各チームに対して同じようなフィードバックをするのは時間の無駄になってしまいます。

そこで人事部長や他のチーム長との1on1などでさりげなく最近の成果物を見せてもらい、上手くいった点や大変だった点を聞き出すことでレビュアーとしての引き出しを増やすようにしています。もちろんメンバーが参照資可能な資料であれば、直接メンバーに見てもらうようにしています。

ゆくゆくは各チームの企画書をナレッジとして蓄積したり「ベスト企画書(賞)」などと銘打って企画の質を人事部内で高め合う取り組みをしたいなーとぼんやり思っていますが、今はまだできていません。人事は領域毎に門戸を閉ざしがちなところがありますが、成果の質を高める上での情報共有は積極的にやっていきたいですね。

レビュイーと共にレビューの感想戦をする

レビューが無事に承認されるとほっとひと息つきたくなるものです。コーヒーや紅茶を飲みながら、今回の企画も大変だったな…とこれまでの苦労に思いを馳せたくもなります。もちろんそうした時間は大切です。そして同じくらい大切なのは、レビューの場から学べることが数多く存在することに目を向けることです。しかしレビュイーはレビュー本番の緊張やそこからの解放感に包まれており、ひとりでの振り返りはなかなか捗らなかったりもします。

そこでおすすめなのがレビューの感想戦です。感想戦とは将棋などで対局後に棋士同士が対局を振り返ることを指します。彼らは一手一手を再現しながら振り返っていきますが、流石にレビューで一挙手一投足を思い出す必要はありません。レビュー中に特に印象的だった場面をメモしておき、後からそれをSBI情報などの形式でフィードバックする形で十分かと思います。

フィードバックをするときに必要になるデータとして、「SBI情報」を準備しておくのがよいということは、実践知の1つとしてよく知られています。SBIとは、シチュエーション(Situation)、ビヘイビア(Behavior)、インパクト(Impact)の頭文字をとったものです。

・シチュエーション(どのような状況で、どんな状況のときに)
・ビヘイビア(部下のどんな振る舞い・行動が)
・インパクト(周囲やその仕事に対して、どんな影響をもたらしたのか。何がダメだったのか)

この3点を具体的に伝えることで、初めて、相手はあなたの言いたいことを理解してくれます。

「耳の痛いこと」を伝えて部下と職場を立て直す技術(PHP研究所)より引用

感想戦では上手くいった点と改善に繋がる点のどちらもフィードバックすることがポイントです。特に上手くいった点についてはレビュイー本人は無自覚であることも多く、フィードバックすると驚かれるケースもあります。ポジティブなフィードバックを元に成功要因を話し合うことでメンバーが自信を持つだけでなく、成功体験に再現性を持たせることにもつながります。

おわりに

以上、私が人事企画レビューについて考えていることを紹介しました。結果的にあまり人事と関係のない内容になってしまった気もしますが、書きたかったことは書けたので良しとします。

私はレビューの質を高めることが人事全体の成果を底上げすることにつながると考えています。レビューを通じて組織としての思考の枠組みや行動様式についての学びが深まり、成果創出に向けて再現性のある手法が共有されていきます。読者の皆さんもレビューの質を高めるために実践していることについてコメントやXなどで教えて頂けると嬉しいです。

それでは、また。

うえむら(@Uemura_HR

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