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結果ではなくプロセスに注目する:もの作りにおいて、自分自身も素材の一つであると意識して

ティム・インゴルド「メイキング」の続き、第二章の紹介をします。


第一章では文化人類学の新しい枠組み、4つのA、人類学、考古学、芸術、建築を統合する課程(コース)を設立したことが語られ、ティム・インゴルドのフレームワークが提示されています。4つのAの狙いについては、インゴルドは学生たちを「学びの狩人」にするため。そう言います。

インゴルドが常に強調しているのは、『学ぶのはあなた自身である』ということ、「学ぶことを学ぶ」こと、です。

単に情報を提供するだけでは知識を得ることはおろか物事を理解することすらできない。私たちに求められていることは、見ること、聴くこと、感じることを通して、学ぶ。それは世界が語り変えてくるものに注意を払うことだ(本書、15頁)。

2章では、四つのA課程の最初の週に、筆者が学生たちとおこなった実験が解説されています。全体の節は次のような形で構成されています。

物体を触り、素材を感じる

砂のなかの籠

物質と形状について

物質性の二つの側面

錬金術へ立ち返る

物質の謎

項目だけみても分かりませんね、何を書かれているのか笑

読み返せば読み返した分だけ発見があります。

インゴルドが強調するのは、物質を触り、感触を確かめること、そしてものと作ってみること、そして錬金術のように既存の前提知識、枠組み、つまり、化学的な考え方に囚われるのではなく、プロセスを重視すること、にあります。

インゴルドは、質料形相論からの転換を提案しています。

質料形相論(hylomorphism; hylemorphism)とは、簡単には「実体は、質料と形相から成る結合体(複合体・統合体)である」と述べる理論である。

私たちはものを作るときに、達成したいと思った頭のなかの観念や、それを達成するための生の素材を準備するところから、始まります。素材が意図した形をとったときに、完了する。小さな石が斧になり、粘土の塊が鍋になり、溶けた鉄が剣になります。

質料形相論は、物質、ものの在り方を捉えるための考え方です。机は木材を加工し、組み合わせることで作られます。となると、その素材同士の関係性、在り方を探る考え方と言えます。物質的な考え方は、現在の科学の在り方にも多くのものと投げかける考え方であり、このフレームワークを哲学的な思考の中で考えていくことも、また重要と言えるでしょう(私は哲学者でないので、この辺りの考え方については原文を当たることをお勧めします)。

それに対してインゴルドはそうした哲学的な思考ではなく、感覚的な思考を重視します。

その考え方が、『つくることを「成長」の過程と考える』、捉え方です。

最初から作り手を能動的な物質の世界に囲まれた参加者に位置付けることが出来る。ものをつくるプロセスの中で、何が現れるかを予想しつつ、それらを寄せ集め、バラバラに解き、統合し、精製しながら、物質と「力を合わせる」。

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ものを作るという結果ではなく、ものをつくる過程に着目する。インゴルドの考え方を私なりに捉えるならば、つくりてもまた素材の一つ。物質が力を合わせるための一つの媒体である、といえるのではないでしょうか。

イノベーションを結果ではなくプロセスとして理解する(Cooper, 1998)。

プロセスの中で私たちが感じ、経験し、学んだこと。

それこそが学びの本質なのかもしれません。




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