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会計学と会計の違いを意識してみる:会計学の定義をまず考えてみる(3)


今日は藤枝の向島園さんで高校生の皆さんを連れてのフィールドワークでした。事件は現場で起きている(違う)。ということで、現場に行くことも欠かしません。有機栽培でかなり有名な向島園さん。ここのお話には農業とマネジメントの要素が詰まっている格好のケースです。原価もきっちり計算している茶園さんはそうはいない!


1. 振り返り

 これまでの会計学をどう捉えるのか、について経済学などの他の学問と比較しながら考えてきました。

これまで2回のnoteでは、会計学は他の学問と比べた場合にどこに強みがあるのか?という事を問題意識として出発しました。その結果、

・会計学においてシンプルな定義が存在しない(経済学と比較した場合)。

・会計学は実務から発展した学問である。

の2つの点が浮かび上がってきました。

2.会計「学」と会計を学ぶ意義

ではこのことを踏まえた上で、今回は会計学を学ぶ意義を考えていきます。

今、学んでいることが、会計なのか、会計「学」をなのか?意識する人はほとんどいないと思います。

これは私の中での切り分けなのですが、普段、技術論に特化した、もしくは基準論に特化した会計の講義は、正確には会計学ではないと思います。

学問とは、一定の体系化された理論や知識体系があって初めて学問として成立します。ですが、仮に簿記で言えば記帳技術、会計でいえば会計に関連した基準に関する説明、だけでは、それは「学問」としての学びではないでしょう。法律で言えば、条文を覚えているだけ、ということですね。

会計教育が学術的ではなく実務的すぎる、すなわち会計「学」は学術的ではないのではないか、という指摘については、以下の太田先生の論考でも取り上げられています。

太田康広「会計研究の危機と日本の会計学界」『現代ディスクロージャー研究』 No.10、2010年3月

Demski, J. S., 2007. Is accounting an academic discipline? Accounting Horizons 21, 153-157.
Hopwood, Anthony G., 2007. Whither accounting research?
The Accounting Review 82, 1365-1374.

太田先生の論文は、Demski やHopwood(画期的な研究業績が欠如している)の指摘に基づいて会計研究がパターン化しており、革新的な研究を生みにくくなっている現状を指摘し、その事を踏まえた上での日本の会計研究について意見を提示されています。彼らの意見もいわゆる「肌感覚」に基づいたものなので、Demski やHopwoodの指摘が今でも当てはまるかについては検証が必要と思います。少し時間が経ちましたが、今でも面白い、と思える内容です。

とはいえ、『会計学が学問として成立しているか?』という問いは重要です。

というのも、財務会計論の教科書をみると分かるように、学部の授業では、普通にやってしまうと、技術論と基準論に特化した講義になってしまいます。実務に直結する講義といえば、聞こえはいいのですが、研究者でなくても教えられる内容、いや実務を実際にやっている人の方が実感を込めて教えることが出来る内容になってしまいます。

会計学の講義とはいえません。やはり、そこにある理論的な体系(たとえば、取得原価主義、時価主義に関する話、個々の会計処理にある理論的な背景)を説明して始めて、会計学として成り立つのだと思います。

基準などの会計処理の説明を行わないで、学ぶことが出来るか?といわれるとそれは難しいと思います。というのも、会計は実務から出発しているので、実務的な要素を説明することなしに、理論的な説明を行うことは難しいからです。

つまり、「実務の会計処理、基準も説明しながら」、「その背景にある理論も説明する」という二つを融合した展開を行う必要があります。

たとえば、その二つを融合した教科書としては齋藤静樹先生が執筆された「企業会計入門」があります。

とても入門と思えないぐらい、高度な内容なっていて難解なのですが、一つ一つを読み解いていくと、会計の理論を体系的に理解することができる良書です。会計を学びたい、というよりは会計学を学びたいという人向けです。

こちらの本もかなり理論的なところが体系的に書いてあり、おすすめです。


3. 会計学を学ぶ意義はどこにあるのか?

 膨大な会計基準を全て覚えて対応するということは不可能な時代になりつつありますし、その価値は低下してきています。会計士試験、税理士試験などの資格試験勉強としての意味以外はあるか?と言われればちょっと答えられません。こうした試験では現実とは乖離した問題が出されています。ただ、難度の高い会計処理を覚えることが受験者の処理スピードや忍耐力を養うことには一定の貢献をしていると思います。会計士試験や税理士試験では、当日の試験もそうですが、長期間勉強する必要があり、それに耐えうる人材でないと試験をパスすることは出来ません。難度の高い試験を通じて得られるものもあるでしょう。

そうした意味で日商簿記検定などの各種試験も一定の有効性はあると考えています。ですが、答えのある問題、処理能力の速さだけ、AI・IoT時代、すなわち機械化、自動化されていく時代では不十分だと思います。今後求められるのは、「会計学」を通じて実際の経済的な事象を捉えて、観察し、判断できる能力であり、会計専門職者であれば、適正な会計処理がなされているかの判断する能力なのだと考えています。

では、会計学を学ぶことがどのように実際の経済的な事象を捉えるのに役立つのか?ということについて次に考えていきたいと思います。



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