見出し画像

ぼくのBL 第四十七回

 春は魔物だ。
 冬の間に固く閉ざしていた心に、ふと、温かい風が吹きつけると油断してしまうのだろうか。
 気持ちにさざ波が立つ。
 情緒が揺らぐ。
 涙腺が緩む。
 それと同時に、浮かれ出すものがある。
 萌え立つ感覚がある。
 春は、だから危険なのだ。


 文字でしか伝えられない感情がある。
 言葉でしか届かない気持ちがある。
 歌でしか震えない心の琴線がある。

生まれ変わりがあるのなら
人は歌なんて歌わないさ

星野源「生まれ変わり」

小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることへの抗議からだと思います。

北村薫『空飛ぶ馬』あとがきより


 もし人間に永遠の命があったとしたら、きっと人生は輝きを失くすだろう。
 なぜなら、明日は、未来は、必ずやってくるものだから。
 しかし、実際には必ず終わりの時は訪れる。
 予期され、予想される最期ならばまだいい。
 不意に訪れる別れというものもあるから。

 この一年、ぼくは人生について今までにないくらい真剣に考えている。
 そのきっかけをくれたのはアイドルだ。
 こう書くと「おいまたかよ」と呆れられるのは承知している。

 ぼくが働いているのは高齢者施設だ。
 だから、他の業種の方に比べれば、人の「死」に触れる機会が多い。
 昨日まで元気に来園されていた方が、翌朝は戻らぬ人になっていたり。
 自宅で転倒して骨折、そのまま入院となり、いつのまにか訃報欄に載っていたり。
 そんなことで、「またね」の約束が果たせないまま会えなくなる人がいる。

 出会いの数だけ、別れがある。
 自分ですら、何かのきっかけで、親しい人に挨拶もできないまま現世とお別れすることになるかもしれない。

 歌うこと。
 踊ること。
 書くこと。
 描くこと。
 撮ること。

 表現や創作は、まず自分を納得させるためにすることだと思う。
 けれど、少し欲を出すと、自分の表現を認めてもらいたいという気持ちも顔を覗かせる。
 そしてもっと欲を出せば、その表現が誰かの心に残ってほしいと思う。願う。
 ぼくという人間が、この宇宙の片隅に、ほんの一瞬でも存在した証として。

 自分が、本を読み、文字を綴る人間だからなのかもしれない。
 読書が好きだったり、文章を書くことが好きなアイドルに惹かれる傾向にあることが、だんだんに分かってきた。

 いま、とても気になっているアイドルがいる。
 文章を書く人だ。
 短歌を詠む人だ。
 まだ会ったことはないけれど、近いうちにライブに行きたい。行く。そして直接お話ししたい。

 この先にある楽しみを味わえずに死ぬわけにはいかないという心の動きが、怠惰で無感動で消極的だった自分を変えてくれた。
 「推しは健康にいい」という言葉が意味するところは、とどのつまりこういうことなのだろう。

 とりとめのない文章になってしまったけれど、この気持ちはいま書き残しておいた方がいいと思ったので。ご寛恕くださいませ。

 次回は久しぶりに本の話題オンリーで行きたいと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?