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あの頃

小さなおひざを立て 両手を組んで
神様にお祈りをした

「麻疹にかかった弟をお救いください」

私は泣いた


高熱でうなされる弟を 思うと 本当にかわいそうで 切なくて悲しくて とてもつらかった

あの頃

幼いのは 私たち二人で
姉たちは 学校に通っていたから
ちゃんと自分達でご飯を作った


幼さは 実は宝で とても尊いものと
大人は気付けない 
この世には 良い親なんていないし
良い家庭もないと
実は誰のことも信じなかった


みんな別の心で 違うことを考えているからだと


あの頃
ただ さみしかった 
それは 最愛の父が居なかったからだ

だから 本ばかり見ていた 
誰に対しても 心を開かなかった 
そんなことより 本に夢中だった
物語の中には 夢があった

そしていつの間にか
自分が物語の 主人公みたいになっていた



姉たちが 聖母女学院に通っていたせいで 毎日聖書を読んだ

私も 何かを求めて
聖書をよみふけった

初めは マリア様が聖母だと教えられる
その子どもで マリア様の体を通してお生まれになったイエス様を知った のちに昇天される


幼い私は思った 
神は愛であるのに

キリストは亡くなり 脇腹から流された血潮ほど永遠に痛いものはない その御身に すがることは 本当は 私には 出来ないと

私のゴルゴダ 血に染まる 主の丘
泣き続ける私に イエス様はおっしゃった
「我が子よ 泣いていないで目を上げなさい 世の中にはもっと悲しいことがあるのだよ」と


今年は三月三十一日日曜日が復活祭だった

何百年も イースターをお祝いしている


「神様


この私は 何もかも失っても まだ 
生きています
この命が 何かのお役に立つように これからはあなたが灯火を下さるように」


「あなたがたは 地の塩になりなさい

イエス様はそうおっしゃいました

今 私は地の塩

そして 私は葡萄の木 あなたがたはその枝であると
私は命であり道であり真理であると」

イエス様は全てであるのに私は無能で無力だ

あの頃
何も分からなかった
だけど

無我夢中で生きただけだった


私はいつも全力を出すことをした
誰かに良く思われたいからではなく

神様を慰めたかったから

あの頃
何も知らなかった
父の事情も 母の事情も

「もう どうか
あの頃の 私を ゆるしてください

猪突猛進して 振り返ることもしないで
必死で生きることしかできなかった不器用で無愛想で 周りの人を無視した私を 
失敗ばかりして 人を傷付けていたいた 私を」


「今頃
誰かのために 生きたいと言っても
何もかも失って 何も持っていない私を」


「それでも

構わないとおっしゃるあなたは

今度 私は 下駄でも ほうきでも 雑巾でも 使い捨てでも構わないのです

あなたが 使いやすい 何かの道具になさいませ」



「ただ
私の幼かった頃 あどけなく かわいい盛りに あの頃につけた傷だけは きれいに無くし 跡形もなく消し去ってくださるように 
誰にも見つからず 気づかれませんように 
そしてもう 私自身から 全ての記憶を無くして欲しいのです」


「これから

きっと

ご飯の食べられない子供達のところに参ります

そんな時

私が
あの頃を思い出して 動けなくなったら
終わりですもの」


「神様
私が人生で 出会った もう一人のお母さんの様に 分け隔てなく包み込み 無償で愛する三人目の母の様に」




「あの頃
忘れかけていた 陽だまりに 寝かせてくれた姉たちの子守唄を もう一度聞きたいと 願えば 叶えてくださいますか


そしてその姉たちも 悲しみの淵に立ちました
一人の姉は子供を亡くし もう一人の姉は伴侶を亡くしました 自分がなくなってしまうよりも辛いことですから」


「神様


何かが 残酷で 容赦ないのです


だから

本当は何の罪もないお方が 命を捧げ
世界の悲しみを 洗おうとされました」


「ですから
私を
何かの
足しに
なさいませ



もうこれ以上
自分の力で
生きることは
出来ないからです

きっと
この世に
生きながら


星になった
気持ちです


あこがれを 失い

星に なって見つけました




あの頃
一番なりたかったんです」

20240402 teo


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