何百年もかけて築いてきた       歴史、文化や伝統が原発事故で水泡に  私たちには何の落ち度もないのに

 福島県南相馬市小高(おだか)区に住む、元小高町長の江井績(えねい・いさお=77)さんのインタビューを掲載する。

江井さんのインタビューを本欄で報告するのは2回めである→1回目のインタビュー(2016年2月)はこちら。 前回江井さんは「帰還者は高齢者ばかりで、中学生以下の世代がいない。このままでは10〜20年後には高齢者が自然減して地元コミュニティが消滅してしまう」と過酷な現状を指摘していた。

江井さんが生まれ育った「小高」は、2006年に合併して南相馬市になるまで「小高町」だった。江井さんはその小高町の最後の町長である。南相馬市の南端に位置する「小高区」は、福島第一原発から20キロラインの内側に入ってしまった。当時でいう「警戒区域」である。2011年4月22日、住民も強制的に移住させられ、20キロラインの内側は立入禁止になってすべての道路が封鎖された。

 北隣の「原町区」は強制移住や立入禁止にはならなかった(30キロ圏内に入り、屋内退避が敷かれた)。南相馬市の中で、小高区だけがざっくりと切り取られたように封鎖され続けたのである。

その間、私は何度も南相馬市に取材に行った。まるでベルリンの壁のような封鎖ラインが田園地帯を走り、南相馬市を分断していた。(下の写真は封鎖の3日後の2011年4月25日、南相馬市の20キロ封鎖ラインで撮影。封鎖ラインの内側には津波が運んできた自動車の瓦礫がそのままになっていた)

私が江井さんの証言を報告に値すると考え、再度話を聞きに東京から南相馬市まで足を運んだ理由はいくつかある。

1)江井さんは、小高町が合併して南相馬市になるまでの最後の6年間、小高町長だった。
2)それ以前も、高校卒業後、町役場の職員を経て助役になるまで、一貫して町行政の当事者だった。
3)2011年3月11日の福島第一原発事故から約1ヶ月後、住んでいる小高町一帯が汚染による「強制避難」の対象になり「避難者」になった。
4)それから2016年7月12日の解除まで、5年以上「強制移住」を強いられた。
5)1〜4までの理由で、江井さんは行政と原発事故避難者の立場を両方熟知している。
6)1〜5までの理由で、小高住民の声が江井さんのところに集まる。
7)国や市が公開している統計数字に基づいた見解を話す。
8)小高住民321人は、東京電力を相手取って「ふるさとを失ったことへの精神的賠償」総額110億円の損害賠償を求める民事訴訟を起こした(提訴:2014年12月19日)。江井さんはその原告団の代表である。2018年2月7日、東京地裁は11億円の損害賠償を認める判決を下した。

私が江井さんに会って聞きたかった要点は次の通りである。

A)小高は、原発事故による汚染で強制移住を強いられた市町村の中で、一足早い2016年7月に避難を解除した(避難指示を解除する権限は国にあるが、地元自治体の首長の同意がないと事実上国は解除しない)。
その半年後、2017年3月末に飯舘村はじめ多くの町村が解除に踏み切った。
「先行例」として、小高の現在の姿は他町村がどうなっていくかの参考になる。
B)訴訟を起こした真意は何だったのか。
C)判決が出て、どう受け止めているのか。小高の生活は変わったのか。

 インタビューは、2018年4月19日、福島県南相馬市小高区の江井さん宅で3時間行った。以下に報告する。

→なお、インタビューの中では「小高」という表現が頻出する。「合併前の町名としての小高」と「合併後の南相馬市小高区」が混在している。が、空間としては同じなので、そのままにしておく。

 また、国は「警戒区域」「避難指示区域」などと複雑に呼称を変えるため非常に分かりづらい。が住民からすれば「強制的に避難・移住させられた」ことは同じなので、「強制移住」と表記する。

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何百年もかけて築いてきた       歴史、文化や伝統が原発事故で水泡に  私たちには何の落ち度もないのに

烏賀陽(うがや)弘道/Hiro Ugaya

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コメント2件

このような福島での現状がある中、東電を応援する人々が多いことに驚愕する。家庭向け新電力の契約数の割合は9.5%、企業向けでは30%である。これは、価格ではないなにかのために、東電を応援している個人が管内の90.5%もいるということである。(2018年2月、経産省調べ)そのなにかが、福島の現状を後押ししているのだ。恐ろしい
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