Dororonえん魔くんメ~ラめら(オリジナルサウンドトラック/再録)

 異色の組み合わせが実現した。73年に放映された名作アニメ『ドロロンえん魔くん』のリメイク版の音楽を、なんとムーンライダーズが手掛けた。同じ永井豪原作の人形劇を題材に、ブライアン・メイ(クイーン)がイメージアルバムとして製作した『STAR FLEET』(『Xボンバー』)以来の衝撃。一時期、イメージアルバムを精力的に手掛け、ゴドレイ&クレームのようにコミック文化と音楽の融合を謀ってきたのはファンにはおなじみだが、今回はオリジナル作品への参加である。原作の舞台、昭和の風俗を再現するリメイク版の本編アニメに併せ、「70年代ドラマ風の音楽を」という監督からの要請で、ムーンライダーズが指名されたという。中山千夏が歌うオリジナル版『えん魔くん』のカントリーフォーク調のED曲が、76年のライダーズ劇伴デビュー作、山田太一脚本『高原へいらっしゃい』と遠い記憶で呼応する。最近やたら70年代づいているライダーズだが、映画『ゲゲゲの女房』主題歌に続き、立て続けに妖怪モノを手掛けるようになったのは偶然だとか。

 発売元のキングレコードはもともと前身バンド、はちみつぱいの所属レーベル。アニメ専科のスターチャイルドは、同じ学芸部内にあったベルウッドを雛形に、「ライオンマークを外して自由度の高い音楽制作を」を掲げて生まれた経緯もあったという運命的邂逅。それを受けた悪ノリか、今回の主題歌の編曲クレジットは“鈴木慶一とムーンライダーズ”。デビュー作『火の玉ボーイ』(76年)以来ではないの。実はメンバーの岡田徹、かしぶち哲郎は、『機動戦士ガンダム』のスピンアウト作で音楽を務めた実績があるのだが、全員参加でアニメ劇伴を手掛けるのは、今敏監督の映画『東京ゴッドファーザーズ』以来。ムーンライダーズ名義でアニメサントラがリリースされるのも、以来8年振りになる。

 マンガ、アニメ界に熱心なライダーズファンが多いのは有名。『新世紀エヴァンゲリオン』には曲名に因んだチャプターがあり、キャラデザイナーの貞本義行がベスト盤のジャケットを描き下ろしたことも。今敏監督の遺作(未完成)となった『夢見る機械』のタイトルも、ライダーズの同名曲を意識させる。大島弓子原作の『綿の国星』を出したビクターには、以降10作品を越えるイメージアルバムをメンバーは残しているが、フライングドッグはそもそも鈴木慶一が立ち上げたレーベル。現在、菅野よう子を擁するフライングドッグとスターチャイルドという、アニメ音楽界を支える2大レーベルが、ともにムーンライダーズと深い関わりがあるのも運命的である。

 今回の作業は、70年代をキーワードにした監督からの楽曲依頼書を受け取り、リーダー慶一がメンバーに曲を割り振って、作曲者がアレンジまで完成させる、ビートルズ『ホワイト・アルバム』の形式で作られた。白井良明がシタールを弾き、岡田徹が「ドコモダケ」を思わせるコミックリリーフ曲を提供。過去にも『アニマル・インデックス』(85年)という充実作を生んだメンバー6人のセルフプロデュース方式で、各々が得意技を披露。できあがった素材を、最終的に鈴木慶一がまとめている。

 すでにオンエアが始まっている本編も、70年代設定から大いにブレて、時代考証をはみ出す、ゲバゲバなサイケギャグの連続。60年代イディオムを得意とするライダーズのメンバーを刺激して、ゴーゴー、スパイ音楽、ラーガロック、パヤパヤスキャット、『ウィークエンダー』風(『鬼警部アイアンサイド』のテーマ)、ハマーフィルム風怪奇音楽まで、多彩な曲調が飛び出てくる。ライダーズには珍しい井上尭之バンド風の鈴木博文/岡田曲は、「『太陽にほえろ!』風の追跡曲を」というオーダーに応えたものとか。「赤色エレジー」風ジンタは、はちみつぱいファンの心の琴線を直撃。途中「だるい人」のヴァースが挿入されてる慶一の曲は、クレージーキャッツへのオマージュか。主題歌を含むトータル41曲、60分の大ボリュームで、濃密なライダーズ・ワールドが展開される。

 本編では毎回、昭和の名曲をムーンライダーズが調理するという、ファンハウス時代のカヴァー盤『B.Y.G』的趣向が聴き所として用意されており、第1話では資生堂CM曲「ふりむかないで」を取り上げて、オリジナル版『えん魔くん』主題歌を書いた小林亜星にオマージュ。本アルバムにも、日本3大童謡のひとつ「どんぐりころころ」のライダーズ・ヴァージョンを収録している。ベートーヴェン「第九」をレゲエ編曲で仕上げたシングル「No.9」(ビートルズ曲とのダブルミーニング)以来の、大胆な改作ぶりに驚かされる。

 OP曲を歌うのは、ライダーズ初共演となるロックヴォーカリスト、遠藤正明。米たにヨシトモ監督ら同チームが手掛けた、『勇者王ガオガイガー』以来の続投となったもの。ED曲はyoko(上野洋子)と鈴木慶一のデュオで、ライダーズの初期代表曲「すかんぴん」の再演的なノリが楽しい。オリジナル版EDに通じるフォークロック風の曲調が、公害問題などを反映した70年代版『えん魔くん』と、リメイクされた2011年の社会背景の共通項を匂わせて、思わずため息が漏れる。

(了)


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