#53 革新続ける老舗。祖父の哲学受け継ぐ「両極端」と「バランス」の経営/札樽観光株式会社 杉目茂雄さん #BOSSTALK(廣岡俊光)
北海道を愛し、北海道の活性化を目指すボス達と北海道の未来と経営を楽しく真剣に語り合う「BOSS TALK」
ゲストは札樽観光株式会社 取締役の杉目茂雄さんです。
杉目さんに革新を続ける老舗料亭の秘訣をうかがいました。
■ 新卒で人材サービス系企業へ。転職でベンチャー企業も経験
――「杉ノ目」といえば老舗の料亭として知られる存在ですが、杉目さんで何代目ですか?
私で4代目です。小樽で祖父がビアホールを始めたのがスタート。おしるこを提供する純喫茶、キャバレーを営み、今の業態になりました。
――小さなころから会社を継ぐことは意識していましたか?
まったくありませんでした。兄がいたので、兄が継ぐ前提でした。自由に自分がやりたいことをやる考えで就職活動しました。
新卒で世界最大手の人材サービス会社に就職して、その後ヘッドハンティングの会社に転職しました。
家業を継ぐきっかけは2つあって、1つ目は会社を継いでいた兄が急死してしまったこと。2つ目は新型コロナの影響。飲食業界全体が大変だった時、同じように厳しい状況でした。
一方で、私の務め先はコロナを機に大きく方向転換し、新サービスも立ち上げ非常に好調でした。そのギャップを感じた時に「家業がこのままだとまずいな」と思いました。
このまま何もせずに、東京でサラリーマンとして生きいくことも幸せですが、何もせずに家業がつぶれてしまうと後悔するなと思い、一念発起して、会社に「辞めます」と伝え北海道に帰ってきました。今考えると、よく決めたなと思います。
――ご家族の反応はどうでしたか?
母には何も言われなかったです。そもそも「帰ってこい」とも言われてなかったので。本心がどうかは分かりませんが、東京でサラリーマンとして順風満帆に仕事をしていたので、「帰ってこい」とは言いづらかったのではと思っています。
――戻ってからは、立て直しにどこから手を付けていったんですか?
札幌では知られているとはいえ、まだまだ知らない人がたくさんいるなというのは感じていました。
まずは足を運んでもらうきっかけ作りから、ということで、杉ノ目の店内ツアーを企画し、無料で見学してもらいました。延べ400人が見学に来てくれました。
お客様一人一人に接客し説明するという企画です。「中がこんな風になっていたとは知らなかった」「この空間でお料理を食べてみたい」という反応が多かったです。
――コロナ禍で飲食業は大きな影響を受けたと思います。その間はどんな手を打ったんですか?
新型コロナで自宅療養を余儀なくされていた人に限定して、お惣菜を宅配しました。
友人がコロナで自宅療養の中、外に行けず美味しいものが食べられず不満を抱いていました。暖かいご飯と一緒に食べるのがとても大事だと思いました。おかずだけを宅配し、温かいご飯とお味噌汁で食べていただこうと始めました。
多くの人に認知されるにはメディアに取り上げられることが効果的です。取材してもらうために考えてやっていました。そこに関しては、ベンチャー企業時代の経験が生きたと思っています。
■ 生産者学べるECサイトや産直旅行…飲食業の先の新業態
――杉目さんの新しいことへ挑戦する姿勢や、マインドの原点はどこにあるのでしょうぁ?
祖父のDNAが強いんじゃないかなと思っています。名前が同じ「しげお」。祖父は「繁雄」、わたしが「茂雄」と漢字は違いますが。
祖父は色々な業態を作り上げた人。世の中から求められていることをすぐに具現化していく人だった。
飲食をやりながらホタルの人工ふ化を北海道で初めて成功させたりも。共感できる部分がありますね。
場所、食事、雰囲気・・・とにかく人が喜ぶことを世の中にどんどん出していった人だったと思います。
――今後の北海道との関わり方はどう考えていますか?
北海道の地の利を生かしたことをやっていきたいですね。
北海道食材の美味しいものを提供していくのは当たり前。飲食業だけではなく、生産者を学んで買えるちょっと変わったECサイトや生産者に直接会いに行ける産直旅行を考えています。
新業態も生み出したい。北海道食材を使ったグルメバーガーの店もいいですね・・・。うちの歴史を紐解き、うちがやるべき業態を見極めたいです。
――BOSSとして目指していることは?
「両極端のことをバランスよくやる」ことを大事にしていきたいです。歴史を守ること、北海道の食の次の時代をつくることを体現できる人間になりたいと思っています。
先輩の経営者に言われたことがあります。「老舗は革新し続けてこそ老舗だ」と。
会社は今年75年目、経営者は私で4代目です。働いている従業員も代替わりしている中で、皆でバトンを渡していくことは、かけがえのない、尊いものだと感じます。残すこと、新しい時代を築くこと。両方やらないといけないと思っています。
■ 編集後記
「両極端のことをバランスよく」。戦後の昭和の時代から、平成、そして平和と、時代を超えて愛され続ける『杉ノ目』の看板の凄みを感じるとともに、そのイズムが茂雄さんにも確実に引き継がれていることを確信することばでした。
歴史を大切にしながら、一方で次なる「うちがやるべき業態」をどこに見出し、その一手を打つのか。今後の手腕にも本当に注目です。
<これまでの放送>
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#48 【株式会社 光映堂】 代表取締役 関山亜紗子さん