ドラクエウォークのBGMに涙する〜音楽は人生のセーブポイント〜

2019年9月、位置情報ゲーム「ドラクエウォーク」の配信がスタートした。

アプリを起動すると、自分が歩いたぶんだけゲーム内のキャラクターも歩く。イヤホンをつけると、ドラクエ3のフィールド曲が流れる。
タイトルは「冒険の旅」3連符主体のマーチ、行軍するための曲である。

ゲームへの没入感がぐんと増す。自分自身が主役となってゲームの世界観に入り込める。それだけではない。涙がでるほど懐かしい。
背景に流れるこの曲が、ドラクエ3をプレイしていた当時の自分を連れてきてくれるのだ。

ドラクエの曲を聴いただけで、その曲が流れていた場面が思い浮かぶ。そんな経験はないだろうか。
大魔王との激闘、瀕死でたどり着いた町、ラーミアに乗ってわけもなく世界をひとめぐり……

思い出すのはゲーム内のできごとだけとは限らない。
ドラクエをプレイしていた小学生の自分、当時の気持ち、住んでいた町の風景、季節や空気感。

曲とともに過ごした瞬間がBGM(バックグラウンド・ミュージック)にひも付けられ、保存される。そして、思い出はふたたび曲を再生したときに蘇る。

BGMは、場面にふさわしい感情を誘発したり、情景を思い描く助けとなる。
それと同時に、その時代の自分のセーブポイント。もしくは「ふっかつのじゅもん」となりうるのだ。

心の中で自分の過去を追体験するヒトの能力を「メンタル・タイムトラベル」と呼ぶ。音楽はこの状態を呼び覚ますスイッチになりやすいと言われる。それはなぜか。

たとえば言語に関することは「言語野」という場所で処理される。
しかし、音楽に関しては「音楽野」といった場所はなく、脳のあらゆる場所が使われる。そのなかには、記憶をつかさどる部位である「海馬」も含まれているのだ。

音楽を聴くと、聴覚に関する分野だけでなく記憶や感情にかかわる分野も刺激を受けることになる。
曲にひも付いてさまざまな記憶が呼び覚まされ、過去の自分へのタイムトラベルが行われるのである。

ドラクエの曲が大好きなあなたに、日常生活にBGMを取り入れることをおすすめしたい。ジャンルはクラシックでもジャズでも、民族音楽でもいい。

ただし声楽曲は好ましくない。人間の声は主張が強いため、BGMとして聴くよりもそれ自体を目的として聴くのに適しているからだ。

スマホにお気に入りのBGMを忍ばせ、イヤホンを身に着けて町に出れば、そこは自分の物語のフィールドとなる。
さまざまな時代の自分のもとへ、未来の自分が戻ってこられるようなセーブポイントを作ってみて欲しい。

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