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季語×グラデーション〜秋の章〜【前編】

はじめに

 コピック会議アカウントでやっていた企画、「コピック会議四季譚」の秋の章について書きます。

 約1年前にスタートしたこの企画の記念すべき第一弾です。管理人2人で作ったグラデーションが並んでるの見るだけで感慨深い……。そして、皆さんにたくさん見ていただいたものでもあります。ありがとうございます。
 当時を思い出しながら語っていこうと思うので、良かったらお付き合いください。


 夏の章について語った記事はこちらをご参照ください。企画の概要なんかも書いています。




1.白帝(はくてい)

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 何を隠そう、企画がスタートして一番最初に私が選んだ季語です。なんなら「白帝」だけやりたかったまである。過言ではなく。「企画、こうしていこうか〜」って話し合いしてた時にはもう既に選んでサンプルに使ってました。

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 サンプル作ったときにはまだ具体的な色番号を選んでたわけじゃないけど、これ見る限りでも完成形はイメージ通りにできたんじゃないかな〜って思います。E07とは出会ってまだ日が浅いですが、良い個性をお持ちです。好きな色です。

 「白帝」という季語は、この企画を通して知った言葉の一つです。「白」って言葉だけでもものすごく魅力を感じるのに、それの「帝(みかど)」って格好よすぎない!?っていう、一目惚れの如く選んだ季語だったわけですが、実際にグラデーションや文章を考えるうちに「何で秋って白なんだろう?」という疑問が湧いてきたんですよね。
 夏のあの彩度で殴ってくるほどの鮮やかさはないにせよ、秋には彩りがあるし、どの季節よりも深い色をしていると思うのに、秋の異名はその全てを否定するみたいな言葉に見えた。

 だからこの時の私は、世界と神様は別物で、神様の色を世界に分け与えた結果、神様の方が真っ白になったのかなぁなんて考えていました。
 

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 日本語には、色を表すためだけに生まれた言葉は「赤、青、黒、白」の4つしかないといわれています。“色”の概念よりももっと手前の、「明るい」「暗い」「濃い」「薄い」って大雑把な表現の仕方だったみたいですね。
 中でも「白」の由来が“しろし(著し)。はっきりしていること”ことから、“濃い”に該当していたそうです。もう、一気腑に落ちました。なんだ、濃いんじゃん…!!っていう。
 まあ、この季語を選んでグラデーションを考えていた当時の私はそんなことは知らなかったんですけど(笑)

 でも、今思うとそうだよなって納得するしかなくて、「白」って色の中でも一番不透明で、濃ければ濃いほどその存在が確立されていく。他の色ではないことをちゃんと証明しないと認識してもらえない色だと思うから、透明でも無色でも許されない。だから「白」っていう存在は尊い。

 コピックで「白」に該当する色はありません。イラスト上では影を塗ったり、白抜きしたり、ホワイトで加筆することができるけど、今回のグラデーションではそういう表現もなかなか難しくて、0番で色を抜きつつ、紙の白さを利用した感じてす。
 きっと、別の画材を使うときもそうですよね。白色だけでは「白」は表現できない。なのに、他の色が混ざりすぎてもダメ。「白」ってほんと、繊細だし、勝手だな。
 そんな色を異名に持つ秋に、世界が染まり始めましたね。



2.冬隣(ふゆどなり)

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 直接的な言葉を使わないで表現できる言葉って良いですよね。言葉遊びみたいで。 
 冬の隣にいる秋は少し寒そうな感じだろうなと思って寒色系にしました。雪原の朝みたいな…?(秋…?)
 普段のイラストではなかなか使わない組み合わせだけど、綺麗にグラデーションできたんじゃないかと自負しています。
 B90番台とBG70番台のくすんだ色の組み合わせが好きです。



3.色無き風(いろなきかぜ)

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 企画を始める少し前に知った言葉です。風で色を語ろうなんて、風情か。っていう感嘆の突っ込みを入れたくなるくらい素敵な言葉ですね。こんなの選ぶしかない。

 画像の文章にも書いてあるとおり、「色無き風」と聞いて真っ先に思い浮かんだコピックの番号はBG70でした。「OceanMist」の名前を持つ、淡く彩度の低い青緑です。大好きな色です。

 BG70について少しまとめた記事はリンク先からどうぞ。
 (「冬隣」でもBG70は使っていますが、メインはBG72の方だったのでこちらでご紹介)

 E81は本当にアイボリー?って思うくらいには緑が混った色をしていて、私の中ではすごく「生きてる」って感じの色です。植物の「白」や「緑」を表現するときによく使ったりします。
 「色無き風」が、枯れていくお花畑の名残を風がさらってるようなイメージだったので、植物によく使うこの色を淡いBG70に溶かす組み合わせにしました。

 「色無き風」の文章を考えるにあたって、「白帝」で神様が世界に色を与えたって設定にしたのに「世界に吹いている風に色がないってなに!?」っていう最大の矛盾が自分の中で渦を巻きました。
 (この時点では知らなかったんですが、五行説で秋が白に当たることから来てる言葉でもあるっぽいですね。いや、色が無いのは白色じゃなくて無色でしょ、と突っ込みたくなる気持ちは置いておいて。)

 矛盾を埋めるように考えた末、晩秋の頃に思いを馳せて季節が冬に移ろうように、与えられた色たちを神様に返した世界からは徐々に色が無くなっていった、というストーリーにしたところです。
 「色が無い」が「白」を指すのなら、白秋の風は矛盾はしてないんですけどね。当時の私も「不透明な風」と表現しているあたり、そういうイメージはあったのかも…?

 枯れていくだけが役目なら、夏の生命力よりもずっと強い使命感でいなければいけなかった。花を咲かせて、実って、収穫をして、冬の墓場へ案内をする。
 神様、また夏に会えますように。

 秋は夏の奴隷だ。



4.竜胆(りんどう)

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 「悲しんでいる貴方を愛する」ってどんな心情なんですか。 

 花言葉ってしばしば利己的だなって思うけど、これはすごい利己的。人が人を愛するとき、「私のために泣けますか」っていう問答をしたとして、きっとその最適解がほしかった人なんだと思う。
 心がぎゅっと締め付けられて、涙になって現れて、そういうのは、人間が獲得してきた財産だから、センセーショナルに恋をしているんでしょう。
 こういうね、「一緒に幸せになりたい」とか「笑顔でいたい」とか、そんなポジティブな未来を願う気持ちよりもずっとずっと拗らせてる感じがたまらなくいいですよね。だから竜胆の花言葉はズルい。

 竜胆は、中国でも漢方薬として伝わっていました。しかし、この味がとても苦く人々に受け入れられず、その苦さを表現するために、「竜の肝の様に苦い」と例えたことから「竜胆」と書くようになったそうです。竜の胆って苦いんですね…でも人間も胆汁って苦いですもんね。
 また、竜胆の花は、天気の良いときだけ太陽に向かってまっすぐに開花します。くもりや雨、夜には花を閉じて咲かないそうです。拗らせたひまわりですか?って感じしません?
 夏の章で書いた「紫陽花」とはまた違ったズルさを持ってると思います。

 グラデーションにはB79という、B系でありながら紫みたいな色を持ち、尚かつB系の70番台はこの色だけっていう孤高のブルーを選びました。すっごい綺麗な青紫です。色名は「Iris」なんですけど、そこは愛嬌で。葉っぱ部分の色味としてG40を選びましたが、とても好みの色合いになって満足です。



5.コスモス

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こんな小春日和の穏やかな日は
あなたの優しさが浸みてくる

 世代でない私でも、「コスモスといえば」って聞かれたら挙げてしまうくらいには有名な曲ですね、山口百恵の「秋桜」。
 とはいえ、サビのこの部分しか知らなかったのでこれを機に聴いたり、歌詞を見たりしたんですけど、なんか、思ったよりも涙を誘う歌詞だった…。お母さん…。

 秋の寂しさは異様なほどの静かさで、泣きわめいて別れを惜しむのに合う季節じゃない。いつの間にかお祭りが終わって、世界から色がなくなるのをしみじみと感じているだけ。穏やかだって思う。
 子どもの頃からコスモスって花の名前はメジャーで、秋になると歩道の脇に咲いていたくらい身近だった。コスモス畑なんかも、わりとよく見かける。「秋って普通こうだよね」っていう普遍的なものを象徴するみたいで、世界が変わっていくことをこの花が教えてくれるわけじゃないことを知っていた。
 明日には嫁ぐこの曲の主人公とその母の世界も、ゆっくり、穏やかに、でも確実に変わっていく。そういう秋めいた心情を表現してるの、すごいなって思った。

 一方で、夏の暑さがやっと和らいで、秋晴れの空を気持ちいいと思う日に、少しばかり遠出をしたくなったりします。今はこのご時世なのでなかなか難しいですが、コスモスがゆらゆら気持ちよく揺れていると、歩数を稼いでみようかな、なんて思ったりする。

 「コスモス」の季語は最初から選んでいたわけではなく、10個の季語が出揃ったところでバランスを見て追加したものです。入れてよかったなと思いました。ピンク可愛いです。色濃いめのコスモスが好きなのでドピンクです。

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 コスモス描いたことあるよってアピール。3色縛りで、E04、R22、YR000を使ってます。今回のグラデーションと色被ってないですね(笑)
 少し話は逸れますが、E04大好きな色です。近々色名が変わるらしい。今日も穏やかですね。



おわりに(後編へ)

 秋の章の前編、いかがだったでしょうか。
 企画がスタートしたのが2020年の11月。右も左も分からない中で2人で相談し合って形にできたこと、すごく感動したのを覚えています。
 スタート地点になった「秋」の季語もグラデーションも、やっぱり印象に残ってるものが多くてまた長いこと語ってしまいました。なんかもう「色」に取り憑かれてない?ってくらい色の話ばっかしてますね。

 後編はいつになるか分かりませんが、秋が終わるまでには更新したいと思います。

 それでは、また。