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【5】音楽の話-1:バルトークとカフカ 舞踏組曲とルーマニア民俗舞曲の名演の紹介 2022.5.3

 遥か昔のことですが、僕は高校に入ったらクラシックに取り組んでみようと思っていて、一年の春に何の知識もないまま小さなレコード屋さんに入って買ってしまったのがブルックナーの交響曲第9番で、それをきっかけにクラシックの世界にのめりこんでいったのですが、その一年の時の秋の文化祭で3年生の男子が音楽室でバルトークに関する発表を行っていたのでした。バルトークなんて初めて聞く名前でしたが、レコードとっかえひっかえしながらバルトークの音楽を熱く語る姿はすごくかっこよくて、その時点でその音楽が理解できたわけでは全くないのですが、バルトークと聞くとその時のことを思い出すのです。
 そのバルトークに「舞踏組曲」という作品があります。当時は中々レコードを買えず、ユーチューブなどまだない時代でしたから、僕はひたすらFMのエアチェックでクラシックのレパートリーを増やしていました。
 そんな当時、NHKFMが何曜日かの深夜12時からクラシックを放送してくれていて、僕は毎週その番組を楽しみにしていたのですが、番組の冒頭に流れるのが「舞踏組曲」の最初の部分だったのです。その不安定な変拍子の土俗的なリズムは今も鮮明に記憶に残る強い印象を与えるものでした。

 僕はバルトークというとなぜかカフカのことを併せて思い出してしまうのです。その世界の謂われなき不安感、孤独感、絶望感という不条理な空気感が共通しているような気がしていて、もしカフカの作品を映画化するなら背景には絶対バルトークを使うぞとか思っていました。
 今回少し二人のことを調べてみてその印象はあながち間違っていなかったのかもしれないと思うようになりました。
 ベーラ・バルトークは1881年、フランツ・カフカは1883年に生れ、バルトークの「舞踏組曲」は1923年に発表され、カフカの僕が一番好きな作品の長編「城」は1922年に執筆されていて、生きた時代、活躍した時代はぴったり重なっていたのです。
 生まれたのは現在の地図で言うとバルトークはハンガリー、カフカはチェコになりますが、当時はどちらの国もオーストリア=ハンガリー帝国の一部でしたから二人は同国人だったのです。
 そのオーストリア=ハンガリー帝国は1918年に崩壊しています。その理由は1914-1918年の間、ドイツ、オーストリア・ハンガリー、オスマン帝国等の三国同盟とイギリス、フランス、ロシア。アメリカなどの連合国側の間で戦われた第一次世界大戦で同盟側が敗れたことにあります。
 バルトークとカフカが創作活動をしていた時代というのは、第一次世界大戦の戦われた時代、そして敗れて国が崩壊し、天文学的な賠償金を連合国側から課された希望のない暗い時代だったのでした。大戦が起きた原因は複雑で必ずしもどちらが良いとも悪いともいえないというのが後世の見方のようですが、ベルサイユ条約で勝者が敗者に全責任があるとして押し付けた過酷な賠償金に対するドイツ・オーストリアの怨嗟は後にヒットラーの台頭を生むことになっていきます。このような時代の空気というものがバルトークとカフカの作品に反映したということは有得ることのように思えます。

 ちょっと話が脱線しましたが「舞踏組曲」の話に戻ります。この曲の名演というと、僕は少し古い録音になりますが、下のドラティ指揮のハンガリーフィルの血の通った演奏が一番好きです。アンタール・ドラティさんはブタペスト音楽院でバルトーク自身に教えを受け1924年に若干18歳で指揮者としてデビューを果たしているという方ですから、まさに本家のバルトークといえるでしょう。

 Bartók: Dance Suite, Doráti & Philharmonia Hungarica (1958) バルトーク 舞踏組曲 ドラティ - YouTube

 ちなみに先に述べたNHKFMで流れていたのはフリッツ・ライナーさん指揮のシカゴフィルの演奏でした。今回探して見たのですがユーチューブでは見つけられませんでした。

 バルトークの曲には他にも、弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽管弦楽のための協奏曲等々の名曲がありますが、ここではもう一つルーマニア民俗舞曲を掲げます。
 この曲は、ハンガリー王国の一部であったトランシルヴァニア各地の民謡を基にしており、初めはピアノ曲として作られ、後にバルトーク自身により管弦楽版が作られていますが、今では下のようにとても様々な形態で演奏されていてどれも面白く聴き比べると楽しいです。

オーケストラ版

Muzsikás: Bartók: Romanian Folk Dances / with Danubia Orchestra - YouTube

 Béla Bartók - Romanian Folk Dances for String Orchestra Sz.56 BB 68 - YouTube
        
      弦楽五重奏版

Romanian Folk Dances, B. Bartok/ルーマニア民族舞踊 −バルトーク -
YouTube

     バイオリンとピアノ

Vadim_Repin_and_Nikolai_Lugansky_play_Bartok_Romanian_Folk_Dance.mp4 - YouTube 

ピアノ版

Hélène Grimaud Plays Bartók Romanian Folk Dances - YouTube 

 どの演奏も夫々に皆面白いのですが、僕の一番のお薦めは下のマンドリンとピアノによる演奏なんです。

 Alice Sara Ott - Romanian Folk Dances - Bartok - Avi Avital (Live) - YouTube

 マンドリンの演奏はイスラエルのアヴィ・アヴィタールさん、ピアノがアリス紗良オットさん、オットさんについては筆を改めて別稿で述べるつもりですが、ピアノが単なる伴奏ではなく、マンドリンを挑発して受けて立って、煽って煽られてすごいテンポになっていく気心の知れた同士の掛け合いがスリリングで壮快です。
 おしまいに、この曲で実際にフォークダンスを踊っている動画がありました。意外とシンプルな踊りなのが笑えます。

  2018 - Datina - Romanian Folk Dances (Bela Bartok) - YouTube

  音楽の話-1:最後まで読んでいただき有難うございます。
 もしよかったら下の記事もご覧ください。


【6】音楽の話-2:Rain, In Your Black Eyes/Ezio Bosso |宇治海鳳:すべての美しいもの、笑えるものに目がないあなたへ|note  
 


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