夜の水やり

夜ご飯を食べ終わった少年は
ふと喉が渇きました
机の上の水が入ったケトルを持ち
透明なグラスにトクトクとそそぎました

少年はコクリと水を飲みました
すると頭の中に、夜に咲く花が現れました
不思議に思った少年は
持っていたグラスを机に置きます
その花を咲かすために
今から水やりをしに行こう
少年は今 ひらめきという花を咲かせたのです

少年は窓の外を見ようと後ろを振り返ります
しかし カーテンが閉まっていて
景色はわからずじまいです

そんなこんなで玄関に向かった少年は
足元を注意しました

ドアの手前の棚の下、スコップ 肥料に
花の種

少年の家には ガーデンがありましたので
もちろんジョウロもございます
ステンレスのひんやりとした感触に満足しながら 洗面台に水を汲みに駆けてゆくのです

その姿を見た母親は 少年を不思議に見ていました。まさかこれから外に出るなんて言いますまい

そのまま母親はダイニングへと向かいってしまいました。

ジョウロに三分の一ほどの水を入れた少年は
静かな笑顔で水面に映る洗面台のライトの照り返しを眺めました

夜に咲く花もこんなふうにキラキラとしているのだろうか
少年はワクワクが止まりません
少年は水がこぼれないように
抜き足差し足忍足
そこのけそこのけジョウロが通る
夜の水やり しゃららんと

こっそり靴を履いた少年は勢いよくドアを開けました

ガーデンまでの小道は暗くて見えにくい
そのため、も一度
抜き足差し足忍足
そこのけそこのけジョウロが来たぞ
夜の水やり しゃらりんしゃらりん


その夜は美しい夜でした
静かな夜
穏やかで優しい夜
空を統べるは明るいお月様

今宵は満月でした。

さまざまな花たちが眠いっている中、
少年はお月様の光を目一杯浴びている一輪の花を見つけます

見つけた これが探していた夜に咲く花
この花にもっと美しく咲いてもらいたい
そのために水やりに来たんだ
少年はジョウロを傾けました

しかしジョウロからは水が出てきません
なぜでしょう
少年は考えました
水が入ってなかったんだ
少年は答えを出しました

美しい花は月の光を浴びています
まるで水などいらぬと
そう伝えているかのように
その姿は力強かったのです

少年はその姿を見守り 見届け 記憶しました
そしてジョウロを美しい花の前に置き
家に戻っていきました

自分の部屋へ戻った少年は
勉強机の上に置いてある
日記帳を開き
ペンにインクがあるのを見てから
今までのことを書き記しました
それはそれはネズミの尻尾のような字で

たくさんたくさん 綴りました

ふと少年は思いました

喉が渇いたな と

少年は自分の部屋を出て、水の入ったケトルのあるキッチンへ、
足をすすめるのでした

夜の水やりは まだ始まったばかり

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