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第ゼロ感 

THE FIRST SLAM DUNK のネタバレになります。
第ゼロ感の歌詞の前半部分。
勝手に解釈して、あらすじつけてます。




ごつごつとした革の手触り。

─── 沖縄。
気が付けば手元にあった、紫と黄色のツートーンカラーのバスケットボール。
兄ソータのものだった。
大きくて強くて速い兄は、ミニバスでレギュラー。
チームメイトからも慕われ、兄にボールが渡れば会場が湧くエースだった
そして、僕の憧れ。

父さんが死んだとき、ソーちゃんとした約束がひとつあった。
「俺が家族のキャプテンで、リョータが副キャプテン」
寂しさを隠した声で、優しくそう僕と約束してくれた。

僕が9歳のあの日、ソーちゃんは海から帰ってこなかった…
いつもと同じように、海沿いのバスケットコートで、朝からソーちゃんに勝負をした日だった。
いつもと同じだったのに。
僕の手元に残されたのは、その日、兄がコートに忘れた赤いリストバンドひとつだった。

ソーちゃんがいなくなった家族は、いつもどこかほの暗さを抱えた。
口には出さない、出せないでいるけれど、べっとりと張り付いた喪失感。
忙しく働く母と無邪気な妹との間で、僕はどんな態度でいたらいいのかいつも分からなかった。

兄とバスケがしたい。
毎日、日の暮れるまで練習したあのコートで。
負けても負けても悔しくて立ち上がり、涙をにじませながらも兄に何度も勝負を挑んだ。
「いっつも心臓ドキドキよ、だから、めいっぱい平気なフリをする」と笑うソーちゃん。
やっとのことで、シュートを1本決めれば、「元気あった」と抱きしめてほめてくれた。

それが、今は、空にシュートを放つばかりで、揺らすネットもソーちゃんの腕もない。

…どこにいったんだよ。

家族の中にも居場所が見つけられなくなった僕は、独りで闇の中をさまよっているようだった。
真っ暗なその世界の中で、ソーちゃんを探し続けた。
全てを飲み込む夜の海みたいな世界の中で。

ソーちゃんのいない世界で、今、ソーちゃんと繋がれるものはこれしかないと、すがるような想いもあって、バスケットだけはどうしても手放すことができなかった。
生きる支えだった。
母が、バスケをする僕の姿にソーちゃんを重ねていることは、なんとなく気づいているけれど…それでも。
続けていれば…きっとソーちゃんに会える。ソーちゃんと一緒に居られる。
だから、母さん、許してほしい。

神奈川に引っ越すことが決まった。
兄がいたことも、いなくなったことも感じるこの家には戻ってくることがない。
いやだ、まだここに居たいと叫ぶ心を、どこかにぶつけることもできず、ソーちゃんとのあの秘密基地に、赤いリストバンドをそっと置いてきた。
ソーちゃんとの思い出と一緒に。

───神奈川
転校生、しかも沖縄からともなれば目立って仕方がない。
新しい生活なんてくそったれだったけれど、学校はもっとくそったれだった。
バスケがしたい、バスケがしたい、バスケがしたい。

神奈川の家のそばにも海があった。
この海は、沖縄とつながっているんだろうか…
真っ暗で何もかも飲み込みそうな、まるで、沖縄の海とは違う新しい海にも、同じように風が吹き、夜が明け、朝が来る。
ふと、腕に赤いリストバンドをしたソーちゃんが、横に立っているような気がした。

高校に入り、バスケを続けたが、周りとはうまくいかなかった。
やる気のないへたくそ、くそまじめな堅物ばかりで試合にも勝てはしない。
引っ越してきてすぐの頃、一人で練習していた時に会ったソーちゃんに似たあの人もいない。

冬になるころ、学校でソーちゃんに似たあの人に会った。
くそつまんねぇチンピラになってて、お前がバスケを汚すんじゃねぇと思った。
あの日、見せてくれたきれいな放物線を描く3ポイントシュートは、遠くから暗闇に差し込む光のようだったのに。

もうなにもかもがどうでもいい。
くそつまんねぇくそつまんねぇくそつまんねぇと繰り返しながら、バイクにまたがった。
自然とアクセルを握る手がこわばった。目的地なんてなかった。


が…トンネルを抜けるとそこは、沖縄だった。

死にきれなかった。

怪我が治り、沖縄に足を運んだ。
他でもないソーちゃんに会いたかったからだ。
住んでいた家、近所のばーちゃん、毎日通ったストバス。
そして、秘密基地の洞窟。

あの頃と何も変わらない洞窟は、俺たちの秘密基地のままだった。
釣り竿、おもちゃ、…そして、バスケットボール。

古い鞄の中からは、王者山王が表紙の月間バスケットボール。
そこには、マジックで、「に勝つ!」とソーちゃんの字。
そして…兄が左腕にいつもつけていた赤いリストバンド。


確かにここにあった兄との約束。
自分で傷つけて、ボロボロにして、捨ててしまおうとしていた。
そうじゃなかった。そんなもんじゃなかった。

ソーちゃん、ありがとう。
もう、きっと大丈夫。

焼かれるような想いで、手離そうとしたバスケを取り戻した。
もう決めたんだ、ここでのし上がってやると。
くそったれは俺だった。でも、もうここに置いていく。

砂浜を走り、ケガの具合を確かめる。
沖縄の燃え上がるような砂浜は、心までジリジリと焦がすようだった。
ボールをつく音は、鼓動と重なっていく。
もう、前しか見えない。
命綱ももういらない、全てをかけてやってやる。
そのくらいスリリングな方が、俺には似合ってる。

「王者山王に勝つ」
旅はまだ始まったばかり。
ようやく届いたインターハイの舞台。
眩むような大歓声と煌々と照らされるコートが俺を待ってる。

”いってくる”

ごつごつとした革の手触り。
カラダの一部になったこのボールを二度と手放さない。


第ゼロ感

群れを逸れて夢を咥えた
それが最後になる気がしたんだ
獣は砂を一握り撒いた
それが最後になる気がしたんだ

不確かな夢を叶えるのさ 約束の夜に(whoa,whoa)
微かな風に願うのさ 静寂の朝に(whoa,whoa)
遠い星の少年は
その腕に約束の飾り
まだ旅路の途中さ 幻惑の園に(whoa,whoa)

霞んで消えた轍の先へ
それが最後になる気がしたんだ
手負いの夢を紡ぎ直せば
それが最後になる気がしたんだ

熱砂を蹴り抗うのさ 約束の前に(whoa,whoa)
命綱は無いのさ サーカスの夜に(whoa,whoa)
まだ旅路の最中さ
あの場所に加速する さらに
雨上がりのシャンデリア 幻惑の園に(whoa,whoa)


ありがとうございます!