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本の記憶

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記事一覧

あわいの景色(「車のいろは空のいろ 白いぼうし 読書感想文」)

空を飛べると信じていました。 雲に包まれたいと思っていました。 たんぽぽの綿毛を追いかけて、つつじの蜜を味わいました。 夕立後の土の匂いに分け入って、草木のジャングルを冒険しました。 渡り鳥の歌を聴きながら、落ち葉の布団で眠りました。 舞い落ちる雪をそのまま食べて、夜空の星に手を伸ばしました。 草木も花も星も動物も、みんなと話ができました。 感じたことのひとつひとつの風景が、心の奥に沁みてゆきました。 ***** たくさんの知識を身につけて、大人と呼ばれるようになりま

きつねのフラときつねずし

里山の風景が好きです。四季折々の里山の風景を眺めていると、心があたたかくなってとても落ち着くんです。 はじめて出会う風景であっても、どこか懐かしく、「あれ? この風景はどこかで見たような・・・。どこだっけ?」という感覚になることもあります。 それはなぜだろうと考えていたら、子どものころに読んでいた1冊の絵本が影響していることに気がつきました。 「きつねのフラときつねずし」という絵本です。 この絵本に描かれていた里山の風景。それが、僕の心の中の原風景になっているような気

宇宙新時代についての論考

11月16日(日本時間)に、宇宙飛行士の野口さんは、宇宙船「クルードラゴン」に乗って宇宙へ飛んだ。打ち上げから27時間後には、クルードラゴンは、ISS(国際宇宙ステーション)へのドッキングに成功。野口さんは、半年間、ISSに滞在するという。 本書は、宇宙飛行士の野口さんと、ジャズシンガーの矢野顕子さんが、宇宙に関する様々なテーマについて語り合う対談本である。クルードラゴンに対する野口さんの豊富も語られている。 ISSは肉眼で見ることができる(http://kibo.tks

本の記憶#6 中原中也詩集 中原中也著

中原中也のことを知ったのは、中学1年生のときだった。 ただ、そのときの僕は、中原中也という名前を知ったというだけで、実際に作品を読んだのは、それから少なくとも10年は経っていたと思う。 当時、中原中也のことを僕に教えてくれたのは、1学年上の先輩だった。 ***** 先輩は、色白で背が高く、長い髪をいつも後ろで1つに束ねていた。 落ち着いていて物静かな印象。でも、明るくて優しい人だった。たぶん、彼女がいつも笑顔だったからだろう。 僕と先輩は、全部で6人いる生徒会メン

本の記憶#5 どんぐりと山猫 宮沢賢治著

午前中、日が差していたので、木陰側の道を歩いていました。 すると、上から何かが落ちてきて、僕の頭に当たりました。 思わず見上げると、木漏れ日だけが見えました。 何が落ちたのだろうと、視線を下げたら、足元に小さな枝が落ちていました。 ***** その小さな枝を拾い上げると、葉っぱが4枚と、小さなどんぐりが6個、くっついていました。 6個のどんぐりは、まだ青みがかった若いどんぐりで、帽子をつけたまま、枝にくっついていました。 帽子をつけた6個のどんぐりたちは、なかな

本の記憶#4 フル・ムーン マイケル・ライト編

子どものころ、キラキラしたものが好きで、特に、星を眺めるのが好きでした。 当時は、渋谷に五島プラネタリウムというのがあって、よく親に連れて行ってもらいました。 天体望遠鏡がどうしても欲しくて、親にねだったのですが、高価なので買ってもらえませんでした。 ***** 「宇宙のことを考えれば、小さな悩みなんて吹っ飛ぶぞ。」と、誰かに言われたことがあります。 そんでもって、宇宙のことを考えていたら、「自分は何者なんだろう」と思い詰めてしまい、恐怖のような不思議な感覚になって

本の記憶#3 窓ぎわのトットちゃん 黒柳徹子著

小学生のとき、放課後は学童保育クラブに通っていました。 あるとき、ハンバーグをつくることになりました。 僕は、何かに取り憑かれたように、タマネギのみじん切りを果てしなく小さく切り刻み、キャベツの千切りを果てしなく細く切りました。 すごく時間がかかったのですが、学童の先生は、とがめることなく、僕が納得して作業を終えるまで、辛抱強く見守ってくれました。 ***** 中学生のとき、一時期の数学の授業はほとんど聞いていませんでした。 教科書の隅っこに、円周率が何桁も載って

本の記憶#2 雄気堂々 城山三郎著

想像していた印象と違っていました。 僕は、その人のことを、一本槍のような人だと思っていたのです。 一度決めたことは決して曲げずに、誰に何と言われようとも突き進む。「いいから俺についてこい」タイプ。勝手にそう思っていました。 でも、実際には、実にしなやかに、柔らかく生きた人だったんですね。 時代の変化を巧みに読み取り、先を見据えて行動する。行動には、緻密な計算の裏付けがあり、だからこそ、常に結果を出し続ける。志は果てしなく高いが、判断は冷静で実利的。 そういう印象でし

本の記憶#1 方法序説 デカルト著

「学校の勉強なんて、何の役にも立たない!」 そんなことはない。いや、そんなことあるのかもしれません。 デカルトも、同じようなことを言っていましたので。 ***** 「我思う、故に我あり」で有名なデカルトさん。 1596年生まれだそうで、400年以上も前の方ですね。 若い頃から、たぶん、スーパー頭がよかったんでしょうね。 学校では、他の人が学んだようなことはすべて学んで、手に入る本はすべて読破して、書物から学べるようなものはすべてマスターしたそうです。 でも、面