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Voy.4【これイチ】海上物流網再構築で注目される北極海航路(スエズ運河座礁事故との関係)

【これイチ】『北極海航路の教科書』シリーズ **第4航海**


スエズ運河座礁事故からの教訓を活かせ!

2020年初めより世界中に新型コロナウイルスの脅威が広がり、物流の世界にも大きな混乱を生じさせた。いわゆる「巣ごもり需要」によって個人消費材の世界的な貿易量が拡大したことで、国際物流網の需要が一気に拡大したのだ。平時であれば、この活況は歓迎すべきことかもしれない。しかし事態はコロナ渦だ。外出制限や時短勤務などの制約により港湾労働者が減少され、港湾機能が著しく低下してしまった。これにより、各港での貨物荷捌量が需要の増加に追い付くことができず、港で大量の貨物や船舶が滞留するようになってしまった。
これにより2020年中ごろから、海上輸送の需要と供給のバランスが大きく崩れ、輸送サービスの供給不足が常態化し、貨物の海上輸送費が高止まりしている。
特にアジアから北米に向かうコンテナ輸送の路線では、コロナ騒動前に比べて、10倍近い運賃となる異常事態となっている。

そんな中、さらに追い打ちをかけるように、2021年3月に世界の海上物流網の大動脈であるスエズ運河にて、ある事故が発生してしまった。
3月23日、日本の船主企業が保有し、台湾の海運会社が運航する全長400メートルの巨大なコンテナ船「EVER GIVEN」がスエズ運河を地中海方面へ北上中に座礁事故を起こし、運河を完全に封鎖させてしまった。
事故発生から6日後に離礁したが、この間に369隻もの船舶がスエズ運河の入り口での待機を余儀なくされた。また、南アフリカの喜望峰経由のルートへと大きく迂回する船も多くあった。

スエズ運河を航行する巨大コンテナ船(事故を起こした船ではありません)

この事故の原因を含む詳細は「参考URL」を参照いただくとして、この事故によって世界の海上物流網のリスクについて、再検討課題を与えた事実について注目してみよう。今となってはヨーロッパとアジアを繋ぐ海上物流には欠かせない存在であるが、スエズ運河は歴史から見ると、フランスをはじめとするヨーロッパ諸国の支援により建設に至ったが、現在は完全にエジプト政府の管理下で運用されており、いわばエジプト政府の勝手な都合で開通にも封鎖にもできる「チョークポイント」となり得るリスクを抱えている。

このことが「北極海航路」のセールスポイントにさらに脚光を浴びせることとなった。

スエズ運河はライバル!

ロシアから見れば、スエズ運河はライバルである。

スエズ運河も北極海航路も、アジアとヨーロッパを結ぶルート上に存在する航路であることは共通している。そうなると、当然それぞれの利点を生かした競争が起きるのが自然だ。また、利用者(この場合、荷主・海運会社などがあてはまる)にとって、選択肢が増えることは良いことでもある。
北極海航路における砕氷船支援に係わる料金設定も、「スエズ運河の通航料よりも安くなるように設定されている」と言われているくらいだ。

では、現状の成績はどうなっているか見てみよう。
過去5年(2016年~2020年)における年間あたりの通航船舶数で比較してみると、

  • スエズ運河:17,000~19,000隻

  • 北極海航路:18~62隻

桁違いである!

この数字では、北極海航路側が一方的にスエズ運河をライバル視していて、スエズ運河側は北極海航路なんて「眼中にない」と言われてしまいそうだ。

スエズ運河封鎖事故を受け、ロシアのN.コルチュノフ北極国際協力特任大使が次のようにコメントしました。

「スエズ運河に代わる輸送路を開拓しなければならない。とりわけ、北極海航路の開発が必須であることが、今回のスエズ運河の事故によって示された。北極海航路の魅力は、短期的にも長期的にも高まっていく」

https://globe.asahi.com/article/14328918

このGLOBE.Asahiの記事からもわかるように、ロシア側の意欲は高い。
そもそも、スエズ運河を通航する船舶は、すべてが極東とヨーロッパ(この場合、北海に面した地域を対象とする)を結んでいるわけではない。途中の、中東やインド、シンガポールなどに寄港しながら運航されている船もあるし、東アフリカに向かう船だってある。
単純に通航数だけを比較しても意味がないようである。

スエズ運河ルートと比較した時に、北極海航路にもメリットはある。
代表的なものとしては、

  • 距離が短い

  • 海賊のリスクが少ない

  • 船舶輻輳海域を避けて航行できる

  • 海象が比較的穏やか

  • チョークポイントが少ない

などである。距離の短さについては既知であろう。

「いまだに海賊?」と思われるかもしれないが、シンガポール・マレーシア海峡やソマリア沖・アデン湾などでは、現在においても尚「海賊」のリスクは存在する。ソマリア沖・アデン湾での海賊事案発生件数は2011年の237件をピークに減少してきており、2019年・2020年は0件であったが、同エリアを航行する船舶に対する保険料上乗せは解除されていない。北極海航路経由であれば、沿岸国は日本、ロシア、アメリカ、ノルウェーだけであり、海賊事案はほとんど報告されていない。

輻輳海域」とは「船が混んでるところ」という意味で、シンガポール海峡は、世界的に見てもトップクラスの輻輳エリアである。北極海航路経由のルートであれば、一切の輻輳海域を避けることができる。

北極海航路経由のルートであれば、夏季はインド洋アラビア海、冬季はビスケー湾(フランス西側の湾)などで発生する偏西風による荒天を避けることもできる。船酔いしやすい船員(私もそのひとり)にとってはうれしいルートだ。

スエズ運河ルートの主要ポイント

チョークポイント」とは海上ルートのうち、狭い海峡などを沿岸国が政治的・軍事的理由から容易に封鎖できる地点を意味している。スエズ運河やパナマ運河、ペルシャ湾入り口のホルムズ海峡、シンガポール海峡などが、主要な海上物流網におけるチョークポイントとして認識されている。
地政学的にも重要な概念であり、北極海航路のメリットについて考える際の重要な要素である。
北極海航路経由のルートにも地理的にはいわゆる「狭い海峡」がいくつか点在している。ロシア自身が政治的・軍事的な都合により、同航路を封鎖するリスクはあるが、北極海航路の利点をアピールするロシアのセールストークに当リスクが登場することはないだろう。

北極海航路の実績はまだまだではあるが、世界情勢のさまざまな変化から、国際的な海上物流網を再構築する上において、将来の選択肢のひとつとして、その存在感を示したことには間違いはない。

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