見出し画像

Voy.3【これイチ】海運ルートとしての北極海航路

【これイチ】『北極海航路の教科書』シリーズ **第3航海**

北極海と北極海航路は何が違うの?

北極海航路は、その名が示す通り北極海に存在する航路である。
どちらも「海」を舞台とした言葉を表していることに違いはないが、両者の違いについて触れておきたい。

まず、「北極圏」についての定義を確認しよう。
北極点」は言わずも知れた、地球の自転軸が通る北緯90度の地点である。「北極圏」とは、北極点を中心に北緯66度33分までの間のエリアを指す。
極夜もしくは白夜が発生する北半球の最南端の場所が北緯66度33分であるため、その特殊な現象が発生するエリアを「北極圏」と定義している。

  • 極夜:冬至を中心に、太陽が昇らずに一日中暗い

  • 白夜:夏至を中心に、太陽が沈まずに一日中明るい

2018年1月の極夜(太陽が地平線から顔を出さない「薄明」が続く昼間)

北極海は、おおむね北極圏内にあるが、一部は北極圏外の海域もあったり、北極圏内の海域でも北極海と定義されていない海域もあったりする。また、世界の五大洋のひとつであり、海域面積は約140万平方kmで、五大洋の中では一番小さい。
前航海(前の記事)でも少し触れたが、「北極海航路」は北極海のなかにある、ロシア沿岸の1年の大半にわたり氷が存在する海域のことだけを意味している。実は、

北極海のなかには別の航路もあるのだ。

下の図のとおり、北極海には「北東航路」と「北西航路」、2つの主要航路がある。

北東航路と北西航路

■ 北東航路(北極海航路)
前述の通り。北極海のうち、ロシア沿岸のベーリング海峡からノヴァヤゼムリア島の間の海域。通常、北極海航路のことを指す。

■ 北西航路
北極海のうち、カナダ沿岸の諸島水域を含めた、太平洋と大西洋を通り抜ける海域。北東航路(北極海航路)に比べて結氷期間が長く、現在まで本格的な商業航路としての利用は限定的である。

上記の2つの航路は、よく対比して語られることが多い。
しかしながら、現在のところ海運のルートとしては北極海航路の方が、船舶の安全運航に必要なハード・ソフト面での整備がされており、航行実績も多い。北東航路は結氷期間が長いため、1年で通航できる期間はわずか(長くても2カ月以内)、もしくは全く通航できないため、航行する船舶も少ない。

航路として機能するためには

通常、航路といえば港湾と外洋を結ぶための通り道であったり、幅の狭い海峡を安全に行き交いできるように交通整理をするために設けられていることが多い。よって、その距離もそれほど長いことはない。
時速12ノット以上(時速約24キロメートル)の速力が出る船舶であれば、日本の瀬戸内海に設置されている航路だって、シンガポール海峡の航路だって、航路ではないがスエズ運河だって1日以内で通航することができる。

しかし、北極海航路は長い
最も短い距離で航行しても7~9日かかる。
(ベーリング海峡からノヴァヤゼムリア北端までの距離を2,300マイル*とし、12ノット前後で航行する場合)
*1マイル(1海里)=1,852メートル

船乗りの経験から申し上げると、「航路上での運航」と「オープンな海域での運航」は、全く違うのだ。

船舶の安全運航のために、何かしらの特別な注意を要するから「航路」が設置されているわけである。
北極海航路で言えば、例えば以下のようなことに注意が必要だ。

  • 水深:沿岸を航行する航路であるため、水深が浅いエリアが点在している

  • 可航幅:北極海航路にはいくつかの海峡が点在している

  • 海氷:有無だけではなく、氷の種類にも注意 (別の航海で解説します)

  • 位置通報:航路を監督する当局へ、船舶の位置情報を定期的に通報する

  • 衛星通信:高緯度であるため、インマルサット衛生通信の範囲外になることも

  • 緊急対応:航路が長距離であるため、緊急時に支援を受けるのが遅くなる

  • 動物:シロクマさんに注意!🐻‍❄️

上記のような特別な注意を払いながら、船を安全に進めていくことが必要であるが、これは、なにも船長や船員だけに「ガンバって注意してくださーい」と言う話ではない。
航路上において、船舶を安全に進めるためのは、陸上からの支援やインフラの整備などのサポートが必要不可欠なのだ。

水先案内人」というのはご存知であろう。パイロットとも呼ばれ、主に港湾での入出港の際に船に乗り込み、船長に代わって操船指揮をとるスペシャリストのことだ。
これも立派な陸上からのサポートのひとつである。

北極海航路にも「アイスパイロット」と呼ばれるサービスがある。北極海航路の海域を熟知したスペシャリストが、航路全体にわたって案内をしてくれるのである。
通常、港湾の水先制度は船舶の大きさや積荷の種類、船籍などの条件にもよるが、法令によって「強制」であることが多い。ところが、北極海航路のアイスパイロットは任意である。船長や航海士が十分な経験と資格を有している限りにおいては、パイロットを乗せなくても通航できる。

アイスパイロットの他にも、砕氷船による航行支援や、遭難救助や油濁防除などの海難発生時の緊急対応に係わる港湾設備・インフラも、航路を維持するために必要な機能であり、北極海航路においても、一応💦これらの機能は準備されている。

砕氷船の航行支援は、北極海航路に留まらず、冬季に海氷が存在する北方圏の港湾では一般的なサービスである。北極海航路における砕氷船支援は、法令により、船舶の船級(クラス)*や航行エリア、航行時期などの諸条件により、「強制」もしくは「任意」が決められる。また、ロシアの国営の原子力会社傘下の船会社「RosAtomflot」が運航する原子力砕氷船*が含まれるのが特徴的だ。

*上記の「原子力砕氷船」「船級(クラス)」などは、北極海航路を知るうえで非常に重要な要素になるため、別の航海で詳しく取り上げることとしたい。

北極海を通り、太平洋と大西洋を結ぶ海運ルートは、北極海航路(北東航路)だけではない。しかしながら、船舶の安全な運航を考えると「航路」としての機能を有している北極海航路(北東航路)は、利用できる海運ルートと言えるだろう。

続きはコチラ ↓

マガジンはコチラ ↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?