瀕死の白鳥

9月12日、ウクライナのトップバレエダンサーであったオレクサンダー・シャポヴァル氏がロシア軍との戦いで亡くなったとの報道が出ている。同氏は志願兵として今回の戦闘に参加していたとのこと。
多くのウクライナで活躍していたバレエダンサーは、既に再開している劇場でバレエを続けているか、または海外の退避先にて何らかの形でバレエに携わっている人が多いと聞くが、こうして自ら志願して戦争に参加していた人もいたのだった。

また、ウクライナ人の女性ダンサーは、再開した劇場や退避先で公演を行う際、「瀕死の白鳥」を踊ることも多いと聞く。
「瀕死の白鳥」とは、1905年サンクトペテルブルグで初演となっており、湖面の傷ついた白鳥が生きようと必死にもがきながらも最後は息絶えてしまう3分間足らずの短い作品である(Wikipediaより)。
もがき苦しみながらも一生懸命生きる姿に、バレエとしての技術や美しさだけではなく、踊り手の心情やメッセージが強く込められており、死を迎えるにあたっての死生観だったり、生への執着や生きることへの讃歌だったりする。
ソ連時代、かの有名なマイヤ・プリセツカヤは、反政府・反体制への想いを込めて踊っていたとも言われている。
こうした歴史的背景が、死に直面しながら生きるために戦っている今のウクライナの現状と重ね合わされ、踊り手たちから物言わぬエールが送られているのだろう。

ウクライナ語:
よくウクライナ語とロシア語ってどれくらい違うの?という質問を受ける。
標準語と関西弁くらいか?いやいや津軽弁くらい違うのでは?といったやりとりとなるが、実際のところウクライナ語の話者ではないので判断できない。しかし、実際にはかなり異なると言われている。
先日の日経ビジネスの記事にロシア語で病院を意味する「バリニーツァ」は「痛み」が語源となっているが、ウクライナ語の病院「リカルニャ」は「治癒・治療」が語源となっており、語源が異なる単語も相当多いとのこと。
この記事によるとスペイン語とポルトガル語くらいの差ということらしい。
それがどれくらい異なるのかも分からないが・・。

一方で、どの方言か?と言うやりとりからも垣間見えるように、ウクライナ語は地方の言葉と捉える人が多いのだろう。
特にロシア人こそ歴史的背景もありその傾向が強いと感じる。そもそもウクライナという言葉そのものが、ウ(場所を表す前置詞)+クライン(端っこ)という構成になっており、そのまま訳すと「辺境」とい意味になる。
これをウクライナはロシアの端っこと拡大解釈することで、ウクライナはロシアの一部との意識となり、この意識が侵略戦争を起こすきっかけとなっているのかもしれない。
今回の戦争によってウクライナ人のアイデンティティ・脱ロシアの感情は高まっており、長い年月は掛かるものの「脱ロシア」「脱ロシア語」の流れは最早止まらないだろう。

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