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想定外を言い訳にしない - ギンズバーグ

イーライ・ギンズバーグは「個人のキャリア形成は、生涯にわたって行われる長期的なプロセスだ」と言いました。長寿社会の今でこそ、それはそうだと誰もがうなずきますが、彼は100年近く前にそう言ったのです。

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Eli Ginzberg (1911-2002)

ギンズバーグはコロンビア大学の学生に対して、経済学者・精神科医・社会学者・心理学者の研究グループをつくって面接調査を実施して、その結果を職業的発達理論にまとめました。当初の論旨は以下3点:

①(職業選択は)青年期に行う意思決定のプロセスである ②一度選択するとそれを覆すのは難しい(不可逆的) ③個人的要因(興味や能力や価値観)と現実的要因(雇用機会)との妥協(Compromise)の結果である

しかし後にギンズバーグはその論調を変えました。キャリコン試験ではこの「途中で主張を変えた」ということが出題されることもあります;

①青年期のみならず、生涯にわたって行われる意思決定のプロセスである ②いつでも選び直すことが出来る(時が進んでからの意思決定には機会損失は伴うものの、不可逆的ではない) ③「妥協」というより「最適化」(Optimization)の連続である。

時代背景をイメージしてみましょう。米国人男性の平均寿命の推移です。ギンズバーグが誕生した1910年頃は約50歳、研究をはじめた1930年頃には58歳、理論を最初に発表した1950年は66歳、そして彼が没した2000年頃には75歳と・・・なんと、彼が生きているうちに人生の前提が25年も伸びたんですよ!あるいは1.5倍!!そら、前提も変わりますわね。

ちなみに日本人男性の平均寿命は1910年の45歳から2000年の80歳へと、この100年ほどで米国以上の急変化をとげたんですよ。生き方、変えていかざるをえないわけです。

ギンズバーグに関しては、上記論旨に加えて以下の「3つの発達段階」もよく訊ねられます。アジャイルでブーカな時代を生きる現代人にとっては、こんなに早い段階から人生決まりますというのは夢物語のようですが、まあ、人生50年時代の原型はこうだったということで頭に留めておきましょう。

 Ⅰ. 0~11歳:Fantasy - 空想期
 Ⅱ. ~17歳:Tentative - 試行期(興味→能力→価値観→過渡期)
 Ⅲ. ~23歳:Realistic - 現実期(探索→具現化→明確化)

他の学者とのかかわりで言うと、「ライフキャリアレインボー」のスーパーは、もともとギンズバーグの研究チームの一員でした。キャリコン養成学校の教科書では圧倒的にスーパーが丁重に扱われているので、最初はギンズバーグが補佐なのかなというイメージをもっていたのですが、実はスーパーのほうがギンズバーグの弟子で、彼の上記の3段階理論を発展させるかたちで、職業的発達段階の5段階(①成⾧期>②探索期>③確立期>④維持期>⑤下降期)を練り上げたんですね。

ギンズバーグは経済史、労働経済、組織論、人種と経済、伝記と自伝、健康経済などの幅広い分野にわたって、179以上の著作があるようです。興味範囲が幅広く、活発に情報発信をする人だったんですね。それで専門分野をまたいだ研究チームを組んでプロジェクトを進めたのだから、きっと、柔軟でパワフルで、人を巻き込む魅力のある人だったのかもしれません。

途中で理論を訂正たということについても、私は個人的には好感を持っています。有名になってから自論を変えるのって勇気がいることでしょう。

実は、ブーカ(VUCA)=Volatility(変動)・Uncertainty(不確実)・Complexity(複雑)・Ambiguity(曖昧)なんていうのは、別に今に始まったことじゃないんですよね。未来の予測は今も昔も変わらぬ人間の苦手科目です。むやみに恐れて縮こまることはなくて、想定外を言い訳にしないで、それこそ、柔軟に最適化を続けていけばいいのです。

どなたさまも、オプティミスティックなライフキャリアを。


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