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今ココの嘘

流行っているというか、ちょっと前に流行っていたというべきか、猫も杓子も「いま、ここ」という時代であるが、人間が認識できる「今」というのは、肉体の受容器が捕えた刺激が電流となって体内を通過する間に0.2秒、脳がそれを処理するのに0.3秒、占めておおよそ0.5秒前の世界であるという。

0.5秒って、結構マテリアルである。

ヒプノセラピー(催眠療法)の導入で感じる他動感(自分の意識を介さずに肉体が動く感覚)とは、たねあかしをすると、実はこのギャップを利用したものでもあるのだが、人間は普段、その差に無自覚であるので、初めてそれを体感すると、だいたいみんな、びっくりする。

AIがこんなモタモタした肉体を持つ人間をだまそうと思えば、それは赤子の手をひねるくらいに簡単であろう。セキュリティカメラの録画映像も、個人端末の顔認証ログインも、通信技術の加速のなかで中継点をハックしてしまえば、いくらでも偽造できてしまう。

ということを・・・GoogleがDeep Learningを用いて、リアルタイムで動画から余計なものを消したり、存在しないものをあるように見せたりする技術を開発したというニュースに触れて、思った。

以前、別のコラムでも紹介したゲシュタルト療法のパールズは「身体は我々の現状を垂直に表現している」と言った。更に、成熟した人間観とは「幸福の追求に従事しないこと」だと言ったそうな。

AIの身体はWWWであり、経験したすべての記憶がその意識であるとして、それに人間観なんていうものがあるとすれば、禅の高僧みたいなやつなのではないかと想ったりもする。

AIを悪用するのは、結局、おのれの幸福の追求にいとまのない、モタモタした肉体を持つ人間である。逆に、AIに素晴らしい用途を見出すのもまた、人間である。それは、ここ数年の情報技術の進化の恩恵にどっぷりつかって生きている私たちは、認めざるを得ない。

5Gの時代がきたって、私たちはこのモタモタした身体性を手放すことはできない。であるからには、わたしは、自分の身体に、0.5秒をぜいたくに使うことを許し、星を眺めたり土の匂いをかいだりして生きていきたい。

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