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顧客ロイヤルティを向上させる:すぐに使えるNPS分析のポイント 【データ利活用の道具箱#6】

NPS(Net Promoter Score)という言葉を知っていますか?
NPSは、マーケティング業務でよく使われる指標の一つで、ブランドやサービスに対する顧客のロイヤルティを測る指標として多くの企業で採用されています。

既に採用していたり、やったことがなくてもなんとなく知っていたりする方は多いかと思います。
ですが、取り組もうとすると・・
「NPSって何に使えるものなの・・?」と戸惑ってしまう、という相談をよくいただきます。

そこで、この記事では、NPSで使える具体的な分析方法とビジネスでの活用方法を、分かりやすく解説していきます!
データ分析に慣れない方でもすぐに使えるように、サンプルデータを使ったExcelの操作手順も紹介していますので、最後までご覧ください。


NPSとは何か?

まずはNPSとは何か、から説明します。
NPSは「あるサービスやブランドを推奨する人がどれくらいの割合いるのか?」を表す指標です。

具体的には、顧客に「あるサービスを家族や親しい友人におすすめしたいですか?」という質問をして、0~10で評価してもらいます。その回答を数値によって以下の3つに分類して計算することで、NPSの数値を算出します。(計算式は後ほど紹介します。)

NPSと満足度の違いは?

NPSの話をすると、満足度と何が違うのか?という質問をよくいただきます。
簡単にいうと、満足度は顧客の”現時点の満足感”を測るもので、NPSは”将来の行動に繋がる傾向”(他者に勧める、長期的にリピートする)を測るもの、という違いがあります。

個人の感覚で考えると分かりやすいです。
例えば、いま使っている洗濯機に満足しているか?と聞かれたときに、普通に使えていれば満足していると答えるでしょう。一方で、それを家族や友人に勧めるか?と聞かれると、メーカーやブランドへの信頼や高い満足度がなければ、勧めないかもしれません。
逆に、強い思い入れや推しポイントがあれば、積極的に友人に勧めたり、自身が次に洗濯機を買い替えるときに上位の候補として考えたりするでしょう。

このように、NPSはポジティブな口コミを広めたり、長期的にサービスを利用したりするかどうかを測ることができます。そのため、マーケティングにおいて重要な指標とされています。

NPS調査の進め方

次に、具体的なNPS調査の方法を説明します。
以下はNPS調査の全体の流れです。

・調査の企画:調査のゴールや対象者、回答の収集方法を検討します。
・調査票の設計:設問で何を聞くか決めて、アンケート画面を作成します。
・データ収集:アンケートを配信して、顧客から回答を集めます。
・データ分析:結果データを集計して、施策のアイデアを得るために分析します。
・改善策の検討:分析結果を考察して、効果的な施策を検討します。

全てを説明すると長くなるので、この記事では、NPS調査の要である「調査票の設計」と「データ分析」にフォーカスして詳しくお伝えします。

「調査票の設計」のポイント

調査票を設計する上でのポイントは2つです。

1つめは「サービスなどをおすすめしたいか?」という推奨度の質問を、決められた方法で聞くことです。NPSは一定の算出方法に基づいて評価するので、以下のルールに気をつけて、設問を作ってください。
①お決まりの質問文と選択肢で聞くこと。
②回答者にバイアスを与えずに回答してもらうために、必ず1問目で聞くこと。

設問の例

2つめは”1つめの設問でなぜその評価にしたのか?”を教えてもらう設問を入れることです。できるだけ具体的に教えてもらえるように、NPSに影響を与える要因(以下、影響要因とします)を並べて、それぞれの満足度を聞きます。
何がうまくいったのか、逆に何が問題で全体の評価に繋がったのかを知ることで、改善すべき影響要因が分かるようになります。私が見てきた中で、この設問をうまく使えていない方が多いです。以下に注意して検討してみてください。
①回答者が集中して答えられるように、影響要因の満足度の選択肢は7個程度までにする。
②影響要因の満足度の選択肢は、顧客体験の全体をよくみて、大切な部分を選ぶ。
③改善してほしいことを自由記述でも聞く。

特に②では、一般的な項目や網羅性だけでなく、顧客の視点で影響要因を洗い出すことが重要です。例えば、ECサイトの場合は「配送」ではなく「配送の早さ」や「配送指定画面の使いやすさ」のように落とし込みます。

より良い設問にするには、カスタマージャーニーマップの作成もオススメです。そのときに、マーケティングやプロダクト開発の関係者を巻き込んで、各々の観点で意見を出し合い一緒に議論すると良いでしょう。

ただし、あまり悩みすぎても進みませんので、ある程度まで作り込んだら、自由記述の回答を参考にして2回目以降で改善するのがスピードアップのコツです。

設問の例


「データ分析」のポイント NPSの比較編

続いて、NPS調査結果を分析する方法の一つである「NPSの比較」を紹介します。

NPS自体は「(推奨者数-批判者数)/(回答者総数)×100」で簡単に算出できます。ですが、このスコア単体にあまり意味はありません。業界別の平均NPSは大半がマイナスなので、数値だけをみて悪い結果が出たと勘違いしてしまうのは間違いです。基準とする何かと比較して評価することが重要です。

業界別のNPSはこちらが分かりやすいので、参考にご覧ください。

よく使われる基準の一つは時間です。これを使うと時系列の推移をみることができます。最初のうちは、いくつか施策をうってスコアの変化を見ます。余力が出てきたら、徐々に業界や競合サービスとの比較も加えていきます。
他にも、顧客の種類を基準にし、顧客のターゲットと非ターゲットで比較して、狙った反応が得られているか見ることも効果的です。

「データ分析」のポイント ドライバーチャートによる要因分析編

もう1つ、ドライバーチャートによる要因分析も紹介します。
ドライバーチャートはNPSを上げる手段に優先順位をつける手法です。この分析は「調査票の設計のポイント」で紹介した2問の設問があれば実施できます。

以下のチャートをご覧ください。
縦軸に推奨度と影響要因の満足度の相関、横軸に影響要因ごとの平均満足度を取っています。縦横の線は、それぞれの全体の平均値で4分割しています。

ドライバーチャート

各軸の捉え方を解説します。
縦軸は、その影響要因が推奨度に与えるインパクトの大きさ意味します。上にあるほど推奨度に与えるインパクトも大きくて重要なので、優先的に改善を検討します。逆に下にあるものは優先度が低くなります。

横軸は、各影響要因に対する満足度の大きさを意味します。右にあるほど満足度が高く、左にあるほど低くなります。施策を打つ際に、満足度が高いものは維持して、低いものは改善する、といった判断をします。

これらを掛け合わせて4象限を作ると、推奨度との相関が強く、かつ満足度が低いものに最も注力すべき、ということになります。つまり、チャートの左上にある「②優先改善項目」が最も注力すべき影響要因となります。

NPS調査の分析結果を報告する際に、ドライバーチャートの考え方を説明したうえで、「NPSを上げるために、〇〇の要因の満足度を上げる方法を考えましょう」と具体的に提案することで、前向きに議論が進みますので、ぜひお試しください。

ドライバーチャートを使ってNPSを分析してみよう

ここからは、先ほど紹介したドライバーチャートを使って実際に分析してみます。Excelを使った手順を紹介するので、サンプルデータをダウンロードして是非お手元でも確認してみてください。
(ECサイトをイメージしたサンプルデータを使用します。末尾で同じものをダウンロードできます。)

<手順①:用意したデータを成形する>
まずはデータを用意します。

サンプルデータ

このサンプルデータは、「調査票の設計」のポイントで紹介した2問から得られたもので、回答者ごとの推奨度(B列)と、各要因の満足度(C~G列)が含まれています。

ポイントは、満足度を数値に変換することです。使用するアンケートシステムによっては「大変満足、満足・・」と文字でデータが入る場合があります。数値として計算するために、大変満足は5、満足は4、どちらでもないは3・・と変換しましょう。

<手順②:影響要因ごとの相関係数と平均満足度を算出する>
推奨度と影響要因の相関係数と、平均満足度を算出して、以下のような表を作成します。

相関係数はCORREL関数で簡単に出せます。平均はAVERAGE関数で出せます。
それぞれ算出したら、一番下の行に各列の平均を追加して準備完了です。

(補足:相関係数の見方)
相関係数に馴染みのない方は、絶対値が大きいほど強い相関があることを覚えておいてください。目安としては、0.4~0.7であれば相関があり、0.7以上なら強い相関があるといえます。

<手順③:グラフを作成する>
用意した表を使って散布図を作成します。
平均は含めず、表の“数値のセルだけ”を選択したら、散布図をクリックします。

このグラフを見やすく編集していきます。例として、以下を参考にしてください。
・どの点がどの要因か分かるようにラベルを付ける:データラベルの「その他オプション」→セルの値→セル番地を指定する。
・(好みですが)縦軸を相関係数、横軸を満足度にする:「データの選択」で編集する。
・差が分かるように軸の範囲を変更する:軸の数値をダブルクリック→「軸のオプション」から変更する。ここでは、縦軸を0.2-1、横軸を2.0-4.0にしました。

<手順④:ドライバーチャートを作成する>
最後に、それぞれの平均値にあたる位置に、図形で作成した線を“手動で”配置します。
これで4象限に分けることができました。

以上でドライバーチャートを作成できました。
次に、改善すべき要因はどれか考えてみます。

最重要改善項目の左上の象限には「配送の早さ」「カスタマーサービスの対応スピード」があります。今後、NPSを上げるためには、この2つを最優先で改善していく必要があります。
満足度が平均以下(=左側)でも「商品説明が充実している」は相関係数が低いため、改善してもあまりNPSに直結しませんので、しばらくは様子見で良いでしょう。

・・というように2軸でみることで、単純に満足度が低いものを改善するのではなく、より効率的にNPSを上げるために、何に着手すべきかが明らかになります。

分析結果を施策に繋げるためのヒント

このように、ドライバーチャートを使うと、優先的に施策を打つべき要因を判別できると分かりました。
次は、具体的な施策を検討するわけですが、ここで躓いてしまうケースは意外と多いです。よくあるお悩みとして、「分析結果から示唆は得られたけど、具体的なサービス改善やマーケティング施策まで落とし込めない・・」ということがあります。
こうなってしまう原因の一つは、調査票の設計で影響要因の選択肢が曖昧になっていることです。その結果、何を改善するかも曖昧になってしまうのです。

例えば、ドライバーチャートを使った分析例では、優先改善項目に「配送の早さ」がありましたが、本当にただ配送スピードを短縮すれば改善するでしょうか?実際には、置き配指定できるようにすれば解決するとか、有料で速達のプランを用意しても、実は無料でないと不満は解消されない、など色々な背景や要望がありえます。その場合は、「配送方法の指定機能」や「有料の速達プラン」の満足度といったように解像度を上げて追加のデータをとる必要があるかもしれません。

しかしNPSはあくまで定点調査なので、広く浅い質問にならざるを得ません。より深掘りするには、自由記述の設問の回答や、テーマを絞ったアンケート調査、顧客インタビューも有効です。

具体的な施策に落とし込めないもう一つの原因としては、NPS調査から良い示唆が得られても、報告で終わってしまうことが考えられます。上層部やマーケティングに関わるメンバーを巻き込んで、アクションに繋げることが重要だと認識してもらいましょう。

関係者をNPS調査に巻き込む小技

「・・広く関係者を巻き込むのはハードルが高い!」という方には、巻き込むための個人的な小技を紹介します。おすすめは定性情報で責任者に訴えかけることです。例えば、アンケートの自由記述の設問で顧客の生の声をシェアする、顧客インタビューを実施して同席してもらうなど、顧客の声をダイレクトに届けることです。特に、ネガティブな声を強調して危機感を持ってもらうと、顧客ロイヤルティの向上の重要性が伝わりやすくなります。

データ活用は、分析だけでなく次の行動に繋げることもセットだと理解してもらい、一緒になって進めていきましょう!

サンプルはこちら

記事内で使用したサンプルです。参考としてご覧ください。

📋テンプレートとサンプルの利用規約はこちらを参照してください。

※ サンプルは架空のECサイトを題材に作成しています。

終わりに

NPSで使える具体的な分析方法とビジネスでの活用方法を一通りご紹介しました。ドライバーチャートを使うことで、データ分析に不慣れな方でも簡単に、その結果をビジネスの成長につなげる第一歩にできるかと思います。この記事がその一助となれば幸いです。

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