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【禍話リライト】拝んだ方がいい

 すれ違った人が、何やら話していて驚いたが、ワイヤレスイヤフォンでの電話だった、というのはそれほど珍しい話ではない。ややもすれば「あるある」に含まれるくらいの経験ではないだろうか。
 ところが、このワイヤレスイヤフォン、時々変な音が混じる。禍話を聞いているときも、ノイズが入ることもあるのだから、人との会話ならなおさらだ。
 意外に、霊と親和性が高いイヤフォンの話。

【拝んだ方がいい】

 20代女性のAさんは、最寄りのバス停から自宅まで友人と電話で話すことを日課にしている。もともとは、通りが暗くて防犯のためだったのだが、半ば習慣化していた。

 先月(2023年6月)、いつものようにバイト帰りにバスを降りて友人に電話をかけた。街灯の間隔が間遠で、途中に光の届かない暗がりができてしまっている。話しながら、ある電信柱の下にお地蔵さんが一躰入りそうな、小さな祠を見つけた。
 もちろん電話中だから、立ち止まりはしない。そちらにちらりと視線をやるのみだ。家までは少し距離があるが、そこにそんなものがあったという記憶はない。会話を続けながら、歩みを進めると、
「ちょっとちょっと……」
 突然電話の向こうで友達が会話を遮った。
「何、何!?」
「いいの? 大丈夫?」
「何が? 私まだ外だよ」
「手を合わせたり、会釈というか頭を下げるだけでもした方がいいんじゃないの……」
 それまで話していたことと全く関係がない、というか、視線をやった祠についても、その存在を声に出してすらいない。
『言ってないのにな』ーー内心そう思いながら、友人に問う。
「何の話をしてるの?」
「ここ! ここ!」
 大声が聞こえたかと思うと、その声は、イヤフォンの外から・・・・・・・・・も聞こえた。
 イヤフォンを外してそちらを振り返ると、先ほど通った祠の前で、見慣れた部屋着姿の友人が立って祠を指さしている。
「えっ!?」
 怖くなって、そのまま大通りへと走る。
 途中で振り返ると、電灯の下の祠の前には誰もいなかった。手元の携帯の電話は切れてしまっている。人通りのあるところまでたどり着き、掛け直そうとして気が付いた。通話アプリの履歴では、バスを降りてすぐに電話が切れたことになっている。
 それでは、ここまでの間Aさんは誰と話していたのだろうか。
 バスを降りて1~2分話していた友人に電話をかけた。友人は、電話が切れてすぐに掛け直したのだが、つながらなかったのだと言ったそうだ。
 会話は問題なく続いていた記憶はあるのだが。

 その週末、昼間にその場所を訪れた。
 確かに見たと思った電柱の下に、祠はなかった。
 しかし、その横から細い通路があり、奥の方へ目を凝らすと、木造の祠のようなものがあったが、真っ昼間にもかかわらず、その禍々しさにそばに行くことはあきらめた。

 以来、その道を通って帰ることも、歩きながら電話することも止めた。
 Cさんは言う。
「皆さんもついつい便利なので、歩きながら電話することもあると思いますが、混線にはくれぐれもお気をつけて」と。
                        〈了〉

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出典

禍話インフィニティ 第四夜(2023年7月29日配信)

1:30〜

※しかし、は、FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。

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