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第21.5夜 合わない

 今年の夏は、テレビでもネットでも昨年にも増して怪談が多く花咲いた。怪談そのものをテーマにした番組も多かったが、その周辺、例えば怪談師の深津さくらさんにスポットを当てた「セブンルール」(フジテレビ)など、少しずつ世の中に浸透しているようにも思う。

 また、書籍も多く刊行され、秀逸なものがそろった。上記、深津さん『怪談まみれ』(二見書房)、昨年は出ずにさみしい思いをした中山市朗先生の『怪談狩り:黒いバス』(角川ホラー文庫)、多くの怪談師が参加して話をつなげる『黄泉つなぎ怪談』(竹書房)、三木大雲和尚の『怪談和尚の京都怪奇譚:幽冥の門篇』(文藝春秋)などだ。また、どこかで細かく紹介したいと思う。

 さて、過去にも書いたが、怪談の種はあちこちに転がっている。上記のように怪談にスポットを当てていなくとも、その断片が垣間見られると思わず反応してしまう。あるいは、そのようなときの方が強烈に印象に残る。

 NHKのETV特集「私の欠片(かけら)と、東京の断片」は、社会学者岸政彦氏の『東京の生活史』(筑摩書房)という1200ページを超える書籍を映像で追いかけたもの。書籍は150人の人が、150人に生活史について話を聞き、綴るインタビュー集だ。

 そんな多くのインタビューの中、アートギャラリースタッフの東さんという方が聞き集め、メモをされていた不思議な話というメモが映った。文字にピントもあっていたので、内容を読まれてもかまわないとの判断だったのだろう。面白い話なので、下記にアレンジ(リライト)して記す。

【合わない】

 Aさんのマンションからは、誰もが知る大阪の観光名所が眼前に見える。ある晩秋の未明、窓際の机に向かいながらパソコン仕事をしていた。Aさんは、夜遅くまで仕事をするより、朝早く起きて集中して仕事をするのが性に合っていたのだという。

 ふと、窓の外に目をやると、白いワンボックスカーが路肩に停まりハザードを出している。珍しいことではないし、この時間といえど幹線道路には少ないながらも車が行きかっている。Aさんの側からは、100メートルほど先の車を斜め後ろから見るような角度だった。何気なしに見ていると、バックドアが開いて、二人の男女が下りてきた。そのまま、その有名観光地に向けて歩いていく。性別は服装からの判断だから、実際はわからない。その時は、「変なところから降りるな」と思っていたのだそうだ。もう少したって日が昇れば、周辺に広がる公園には24時間出入りができるため、散歩やジョギングの人が集まる。

 仕事をしながら嫌でも目に入る車から、5分ほどしてさらに2人。さらに数分ほどして同じように2人が下りたのだという。どれもこれも高齢のカップルだった。ここで、疑問に思った。「そんなに、車に乗れるものなのか。乗車人数と合わないのでは」と。

 さらに3組続いて、怖くなってカーテンを閉めた。もちろん(法定人数は越えているものの)車に乗れないこともない人数だが、これ以上続くのが受け入れられないと思ったのだそうだ。20分ほどしてカーテンの隙間からこわごわのぞくと、車が扉を閉めて走り去るところだった。いったい何人が載っていたのか、またどんな目的だったのか今もって分からないし、それ以降そうしたものを見たことはないという。


 車から、明らかに乗車人数を超える人が下りてくるというのは、マジックでもあるネタだが、未明の道路わきで実演する必要はないだろう。ずっとみていたら、相手に気付かれていたかもと思うとさらに怖い。

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