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【禍話リライト】幽体離脱のあと/覚えていた風景

 本編でかぁなっきさんも言っていたが、幽体離脱はかなりメジャーな怪談のテーマだ。その手の本に1編は入っているといっていい。ただ、バリエーションはそれほど豊富ではない。
 これは、そんな幽体離脱の変則バージョン2話。

【幽体離脱のあと】

 かぁなっきさんが過去に話を聞く中で、こんな問いかけをされた。
「これは友人に聞いた幽体離脱かな? という話なんですが」
 『かな』と言うのが分からない。幽体離脱なら、結構はっきりとわかるだろう。

 Aさんが学生の頃、林間学校の晩に怪談大会になった。
 ただ、普通と違ったのは、実体験縛りだったことだ。
 それほど、恐怖体験をしている人がたくさん周りにいるとは思えない。
 案の定すぐにネタが尽きて、ガキ大将のBがこう聞いてきた。
「夢の話でもいいか?」
 もちろん、実話のみという縛りで皆のネタも尽きてきていた。
 Bの話はこうだった。
 幼稚園の頃、目が覚めると、屋根裏にいた。
 体が浮いており、後頭部が屋根の梁に当たっている。
 視線は下を向いているが、埃が積もった天井板が見えるだけだ。
『不思議だけど、夢だとしたら醒めないな』
 そう思っていたという。
 すると、『天空の城ラピュタ』で坑道にシータが下りてくるように、ゆっくりと高度が下がっている。
 どんどん、埃が積もる天井板が近づいてきて、ギュッっとつま先に埃が触れた。
「汚いっ」と口に出した時に目が覚めた。
 これを聞いて周りは口々に「それ、幽体離脱じゃない?」と言うが、Bは「自分が寝てる姿を見てないから違うんじゃない」と譲らない。
「いや、それ幽体離脱なんだけど、お前の場合飛びすぎて天井板を越えちゃったんだよ」
 普通は、ベッドなり布団なりで寝ている自分の姿を上から見るのだが、Bの場合は飛びすぎたのだと。
 結局、話は次の人に行ったので、この話はここで終わりになった。

 しかしAさんは、埃を踏むくだりがとてもリアルだったので、話を終えて自室へ戻るときに言ってみた。
「さっきの話、夢かどうか分からないということになってるんなら、天井裏に懐中電灯を持って入ってみればいい。場所大体分かってるんだったら、そこを見れば」
 Bは少し考えてこう返した。
「同じことを思って、翌朝、父ちゃんのでっかい懐中電灯を持って入ってみた。そしたら、大小いろんな足跡があって、どれが自分のか分からなかった」
 真顔だったので、返す言葉もなかった。何とかこう絞り出した。
「電気の配線工事でもあったの?」
「無いよ。だから、何の足跡か分からない」
 詳しく聞くと、明らかにネズミや猫などではないそうだ。

 この話を聞いて、一言多いので有名な多井さんがこう言った。
「家族全員が幽体離脱しまくってんじゃないの?」

【覚えていた風景】

 幽体離脱の結果、全然知らない場所に行くと良くないらしい。
 Cさんが子どもの頃、幽体離脱をした。
 服は寝たときのパジャマのまま。眼下には自分が寝ており、飛ぶこともできる。
 次の瞬間、ボロボロの洗濯機と乾燥機のあるコインランドリーに居た。
 いくつかある丸椅子の二つはボロボロでとても座ることはできない。
 『何、ここ。帰りたい』
 思った瞬間、ベッドの上で目が覚めた。
 そんな店は実家の近くにはない。

 それから10年ほどたって大学になった時に、先輩に安い洗濯屋を教えてもらったのだが、まさに、子供の頃に夢に見たその店だったという。
 コインランドリーなどどこも同じだという人もいるだろうが、椅子の壊れ方が同じだったという。
 なぜ、そんな店を見たのか、全く分からないという。
                        〈了〉
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出典
禍話インフィニティ 第三十三夜(2024年3月2日配信)
36:00〜 幽体離脱のあと
41:20~ 覚えていた風景

※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
ボランティア運営で無料の「禍話wiki」も大いに参考にさせていただいていま……

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