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2022年にテニスの王子様に踏み入れた者の末路

この1、2年、漫画の無料公開などをきっかけに漫画を読む機会が当社比で数百%増しになったが、2022年になりまさかこのコンテンツに踏み入れることになるとは思わなかった

テニスの王子様である

きっかけはこれ

テニスの王子様は現在『新・テニスの王子様』として今なお連載中だが、無印テニスの王子様は大きく分けて都大会編、関東大会編、全国大会編に分けることが出来る。その3章に分割して配信されたわけである。新テニスの王子様も一部は配信されて前クールに放送されたアニメ『U-17 WORLD CUP編』に飛べるようになっている

私のテニスの王子様の知識は無印のアニメは飛び飛びで観ているので青学メンバーの名前と跡部くらいは知っているが、話のストーリーとしてはほとんど覚えておらず、ミュージカルが今でも大人気なこと、ニコニコ動画の某動画とたまに流れてくるテニス……テニス?と疑いたくなるコマであった。全巻無料ならせっかくだし、「越前、お前は青学の柱になれ」と手をつけてしまった。これが全ての始まり。

インターネットでネタにされている通り、最初は出来そうな人間を繰り出しているもの、次第に人間は到底出来そうにない技から、だんだんこれテニスか?と疑問に思う技(磔にする、悪魔化する、海賊を召喚する、波動球で相手を客席に吹き飛ばす、打球が光り壁を吹き飛ばす、相手の五感を奪う、処刑する、ブラックホールでボールを受け止める、どうみてもプレイヤーが巨大化してるとしか思えない)の数々、だがキャラクターの想いや展開そのものは激アツなので読者のツッコミと展開のボルテージが比例していく、隙が無さすぎる漫画だった。(そしてセルフパロが天才的にうまい)

無印だと関東大会の乾VS柳がめちゃくちゃ好きである(「俺は今からデータを捨てる」は当然として「頑張れっ乾先輩!!」って絶対言わなさそうな越前が言うのが良い…)

無料公開分を飛び越え、アニメを飛び越えU-17ワールドカップ戦ドイツ戦まで怒涛の勢いで読んでしまった。

その中でも私が最も惹かれた男はこの男

幸村精市である

詳しくない人に簡単に説明すると幸村精市はテニスで全国制覇を数度成し遂げている立海大附属中学の3年生、部長でありその異名は「神の子」。2年の冬に難病を患い、テニスを続けられないと言われていたが血の滲むリハビリでチームに返り咲き、奇跡的に回復。主人公越前リョーマの前に全国大会決勝の最終戦のシングルス、すなわち無印のラスボスとして君臨した男である。

彼のプレイスタイルはド派手な必殺技こそないがどこに打球を打っても完璧に打ち返されてしまうため対戦相手はテニスをしているうちに
「どこに打っても打ち返されてしまう」
「なのになんでこんな苦しい想いをしてテニスしてるんだろう」
と相手の自信を喪失させテニスさせることすら嫌にさせイップス状態に陥ってしまい、相手の五感が失われていくというプレイスタイルなのだ。(文章に起こすと頭痛くなってくるな…)

その試合で越前も五感を失われてしまうが『天衣無縫の極み』というテニスをすることを心から楽しいという想いから発現する究極の境地に到達することで五感剥奪から抜け出し越前は幸村に勝利、無印テニスの王子様は青学の優勝で幕を閉じた。

そして続編である『新・テニスの王子様』では高校生と中学生のみでのワールドカップが開催されることになる。再び集められた競い合った中学生達、日本代表という壁として立ち塞がる高校生達、そして海外の新たなライバル達…というストーリーである。

私は無印の幸村も好きだったが、立海の中では切原赤也のバーサーカーキャラでありながら壁である幸村達を越えたいとあくなき努力をする、でありながら普段はチームではムードメーカーというキャラの独特さの方が好きだった。(磔にされた後デビル化し逆転勝利したときなど痛快ですらある)そのため、幸村に対してクソデカ感情!!とまではならなかった。

幸村精市という男に明確に感情を抱きはじめたのは新に入ってからである。新・テニス王子様はワールドカップに入る前に中高混じっての強化合宿、ワールドカップに向けての日本代表選抜戦などがあるが幸村の五感を奪うテニス(五感が失われていくのか、自分の意志で五感を奪っているのか境界が曖昧になっていく)は健在でありその存在感は高校生の濃いキャラクターが加わっても尚消えていない。

興味深かったのは幸村は無印終了の時点ではさして救済がなされていない。上記の越前との試合では天衣無縫の極みに到達した越前に「(テニス)楽しんでる?」という問いかけに「ふざけるな!テニスを楽しいだと!」と吐き捨てるように返す。
ここで越前に触発され敗北するも『テニスを始めた時の楽しいという気持ち』を取り戻す…という展開にはならなかった。ならなかったのである。その後まさかの原作者によるエンディングテーマ(JASRAC申請中)が漫画で流れる展開があまりに衝撃的過ぎて気づかなかった(強いて言うなら越前が幸村に握手を求めるシーンがあるが)
つまり、彼は敗北こそしたが成長したわけではなく、未だ1敗したかつてのラスボスとして健在、ということである。
(上記のOVAでは試合後に幸村から越前に「また試合をしよう。今度は楽しむテニスで」というアニオリの言葉があるのだが、新テニが連載スタートする前なのもあり、これはこれで幸村に示された道しるべなのかもしれない)

さらば幸村精市

そして、ワールドカップのエキシビジョンマッチ。ドイツ代表の高校生かつ現役プロのボルク、シュタイナーとの試合に出るメンバーを選ぶにあたり幸村は「俺がやってもいいかな?」と自ら名乗り出て、徳川カズヤとのダブルスを行う。

試合中、幸村は相手の五感を奪うが、幸村は逆に自らの五感を奪われてしまう。五感を奪われ動けなくなり、立ち尽くす幸村。徳川は幸村を守るためブラックホールで壁を作るが防戦一方で攻められていく。

「俺は幾多の対戦相手の五感を奪ってきた」
「五感を奪った先はこんなにも暗く、不気味で恐ろしい世界……。正直……怖いよ」
「あのボウヤはこの状況をどうやって克服したんだろう。(中略)誰もがテニスをするのが嫌になるこの状況でどうやってあのボウヤは」
越前「テニスって楽しいじゃん」
「テニスを楽しむ?勝利だけを追い求めてきた俺に、それができるのか?」

新・テニスの王子様U-17 world CUP第3話「一瞬先の未来」

幸村にとってテニスを楽しめというのは地球をひっくり返せと言っているに等しい。それは彼の所属する立海大付属中学という「常勝」を掲げている場所のトップとして勝利を追い求めてきたこと。何より彼を蝕んだ病。

『天衣無縫の極み』にたどり着かないと勝てないのか?テニスを楽しめない人は勝てないのか?
幸村は思う、かつての血の滲むリハビリを。勝利には苦痛が伴う。自分にはテニスを楽しむことなんてできない。
しかし、幸村は思う。「テニスを諦めない。」と。病から這い上がった自分にとってテニスが出来る喜びは誰よりも強いことを自覚する。天衣無縫の極みに到達出来なくてもテニスを諦めないと彼は強く思う。

「五感を奪われている時間なんて無いんだ!!!」
と幸村は自力でイップスから抜け出す。
かつて主人公を陥れたラスボスが同じ状況に陥り、主人公とは別の道で克服する。幸村……お前、めちゃくちゃかっこいいよ……。
私にとって明確に幸村への感情が芽生えた瞬間である
このエキシビジョンマッチは圧倒的な幸村達の敗北に終わるが幸村は最後にボールでドイツ国旗に打ち当てボルクらプロに日本の意地を見せつけることになる。

越前、そして彼以外にも作中で数人がたどり着いた『天衣無縫の極み』は厳密にはそんなものはなく、テニスを始めたころには誰にでもあるテニスが楽しくて仕方のない気持ちであり勝利を追い求めるにつれ、あの頃の気持ちを忘れていくものであると作中で語られている。少年漫画、特にスポーツ漫画であるテニスの王子様で、最初のプリミティブな想いが最後の逆転のカギであるというのは非常に熱い、少年漫画らしい結論であるといえる。
しかし、新・テニスの王子様ではそれだけではないという結論にたどり着く。「楽しむ心が大事」というのは違いない。しかし光が刺せばそこには影が生まれるように、様々な事情があり必ずしも楽しむことが出来ない、屈折した想いを抱える人もいる。
それでも、と自身が相手に与えてきた絶望を返されても立ち上がる幸村、熱い。熱すぎる。なんて熱い漫画でなんて熱い男なんだ。
少し前の回のナンパの王子様で五感を奪ってナンパした(していない)とは思えない。私が女性だったら夢女子になっていたと思う。

余談だが幸村が高校生である徳川を「徳川さん」と呼ぶのが礼儀正しくてかわいい。無印では最上級生であった中学3年のキャラが先輩と接するとどういう対応するのか見えるのも新テニの良さである。

テニスを楽しむというまほろば

まほろばとは:理想郷。住みやすい場所という古語

ただでさえ中学生が多い中、高校生まで増えたため、日本代表選抜されても幸村の試合数自体は多くない。だがその試合はどれも重要な試合である

幸村、徳川VSボルク、シュタイナー(ドイツ、エキシビジョン)
幸村、真田VSジャン、クリス(オーストラリア)
幸村VS手塚(ドイツ、準決勝)

ここではVS手塚戦の話をする。
幸村VS手塚の話をするにあたり何故手塚が日本代表ではなくドイツへいるのかの話をしなくてはいけない(知ってる人は飛ばしてほしい)。手塚国光は青学の部長であり、元々その能力の高さからプロからのスカウトがかかっていたが「日本のため、青学の為」と断り続けてきた。彼はチームの為に自らを犠牲にすることを厭わない、数々の試合で肉体を限界まで酷使してきた人間だった。

しかし、彼は日本代表としての合宿の中でかつての青学の部長であった大和部長に出会い彼との試合の中で「チームの為ではなく自分の為に戦ってもいい」ことを告げられ、覚醒。越前がかつてなったように『天衣無縫の極み』に辿り着く。そして彼は日本代表合宿から離脱し、スカウトされていたドイツへ渡ることになる。手塚が旅立ち、彼の想いなどは跡部を筆頭に受け継がれ、いずれ戦うべき壁として彼は立ち塞がる。

そしてワールドカップ準決勝の日本はエキシビジョンマッチ以来のドイツとの再戦となる。シングルス2に出場する手塚、それに相対するのはなんと、幸村。その前のシングルス、ダブルス(あの『デカ過ぎんだろ…』で話題になった試合)も非常に熱かったがこの試合はどちらにも勝って欲しいし、手塚が勝たないなんてあり得ないだろ!という気持ちとたくさんの仲間の想いを背負った幸村が負けるわけないだろ!という想いと、これほど一生決着がつくのが怖い、決着がつかないで欲しい…と心から思った対決だった。

新・テニスの王子様 第297話 手塚への挑戦状

ドイツに渡った手塚と戦う候補はたくさんいた。それこそ越前、不二、無印からの因縁である跡部など。数々のドリームマッチを実現させてきた新テニ。一体誰が手塚と戦うことになるのか!?

まさかの幸村!!!!!!

これまであり得そうであり得なかった組み合わせ。しかも手塚は天衣無縫に到達しているため、幸村にとっては自身の天衣無縫というトラウマとの戦いでもある。それは劇中でも幸村本人が後輩の切原に語るように「天衣無縫になれなくとも勝てるということを証明する為の戦い」でもある
そして何より、幸村の病は完治していたという事実。ワールドカップが終わったらアメリカで完全治療のために渡るつもりだったが、実は彼の病は完治していたということが明かされる。
つまり幸村にとっての「病」と「天衣無縫」という彼の時間を止めた二つの楔の一つが消滅したことになる。楔の消えた彼の顔は、明るい。

試合の流れはこうだ。箇条書きにすると知らない人は何言ってるか意味が分からないと思うのだが事実なので仕方ない。(というか今でも振り返るとえ!?となるのだが読んでるうちはスイッチが入ってしまうため読み過ごしてしまう)

1:幸村、仲間たちの手塚のデータ、対手塚の対処を元に手塚ゾーンを打ち出せない回転をかける(蜃気楼の鏡:ミラージュ・ミラー)で押す。
2:幸村は手塚の五感を奪うが手塚は天衣無縫で無効化する。
3:幸村は天衣無縫のプレッシャーから身を守るために自分で自らの五感を閉ざしテニスに必要な感覚のみを研ぎ澄まさせる(零感のテニス)、天衣無縫に対し優勢を取り1セット目を奪う
4:手塚、至高のゾーン(アルティメットゾーン)を発動。逆回転かけたら手塚ゾーンに 回転かけなかったら手塚ファントムになるゾーンを作る。なんかキャラソンっぽいものが流れる。天衣無縫と至高のゾーンのダブルで駆使し手塚が1セット奪う。
5:幸村が辛うじて手塚の五感を奪うも圧倒的手塚優勢。
6:幸村、これまでの数々のラリーの中で手塚が失敗したコースに誘い込むことで相手の心理を揺さぶり、ミスをさせる。幸村、手塚の「未来を奪う」宣言
7:幸村、怒涛の勢いでゲームを奪っていくが手塚は「未来を塗り替える」宣言

テニスに五感は不要だった……?

幸村は、仲間たちの思いを一身に受け、更には自分の五感を奪うという自分が得てきたものを最大限使ってでも勝利を渇望し、あくまで天衣無縫ににならずとも勝てることを証明しようともがく。
天衣無縫を発動した手塚を前に、コート外には越前。
そして幸村にとっては呪いのようなあの「ねえ、テニス、楽しんでる?」というエールなのか挑発なのかわからない言葉。
かつての越前との試合がフラッシュバックする幸村の脳内。

それに打ち勝ち1セット奪った時の言葉が
「あ~~~~スッキリした!」って。

幸村、これは意趣返しなのか?もしかして世界一かっこいい男なのか?(これまでの数々の発言とスッキリ発言でほぼ確信したが幸村はだいぶいい性格をしている)
1セット奪い己の過去を清算した幸村。過去の先には当然今があり未来がある。過去を清算するということと過去を否定することとイコールではない。仲間達の想い、何より勝利を至上としてきた自分のテニスを証明するために至高のゾーンに1セット奪われても喰らいつく幸村。

「手塚国光、いつまでキミは新たな攻略を重ねるんだ」
「こんな心の底から突き上げてくる昂揚感ははじめてだ!!」
「でもこれが『テニスを楽しむ』というまほろばならば、やはり勝つことでしか証明できない!」

新・テニスの王子様 312話 誰かの為じゃなくて 

ファイナルセット、幸村の未来剥奪により5-5ゲームまで追い上げるも手塚は未来を塗り替えはじめ6-5ゲームに逆転する。更なるゲーム。

真田「最後まで諦めるなよ…幸村」
幸村「俺も今あの時のことを考えていたよ…」
幸村「色々諦めなくて良かった」

新・テニスの王子様 314話 無言の声援

越前にとっての原初は「テニスって楽しいじゃん」があるように、幸村にとっての原初は(それこそオーストラリア戦での真田と幸村のダブルス、そしてこの試合で回想されたように)「諦めない」になるのだろう。

何せ天衣無縫は愛しさと切なさと心強さに精神派生があることが語られているくらいである。彼なりの極みにたどり着いたが故の「色々諦めないで良かった」なのではないかと思う。今の自分を幸村はようやく肯定できたのだ。
だが幸村は手塚の未来を奪うことはできなかった。
勝者は手塚。

「俺も未来を塗り替えよう」とは試合に決着がついた時の幸村の言葉だが、あまりにも良すぎて震えてしまった。
思えば、新テニでは数多くのキャラがこれまで『過去の自分』を乗り越えてきた。
亜久津、不二、仁王、跡部、白石。そして手塚。彼らのように、過去を清算し、今の自分を肯定した幸村はようやく未来に足を踏み入れたのかもしれない。

え、これ最終回なのか?人間の、人生なのか?
幸村…本当にかっこいいよ……。
幸村がいずれ天衣無縫になれるのか、なれないのか、正直どっちになってもいい。幸村の未来は無限に開けているのだから。

正直ここまで突き刺さる男が20年近くもいたのに気づけなかった自分の不運を呪い、リアルタイムでこの感動を味わいたかった…と同時に、今ここで食い止められてよかったという心が二つあるが、今は幸村、もっと君のこと知りたいよ…という気持ちである。

えっ、幸村のキャラソンがある!しかもフ、フルアルバム!?

氷帝VS立海のOVA!? 

3、3年後って何!?

い、Yeah~~~~~!!!!!!(20年積み上げてきたコンテンツの無限の供給の溺れる音)





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