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スクールアイドルミュージカルは確かにラブライブ !である

2022年某日『スクールアイドルミュージカル』つまりラブライブ !シリーズにおけるミュージカル作品が発表された。

完全新作と謳う通りこれまでのμ'sやAqours、虹ヶ咲、Liella!とは違う完全にミュージカルオリジナルのキャラクター達で行う作品だ。

たまにラブライブ !の舞台をやってほしいという意見はインターネットで見たことがある。しかしそれは無印やサンシャイン!!の既存作品の舞台化というニュアンスであり、完全オリジナル作品をミュージカルで行うというのは舞台をやってほしいという意見の中でも想定外のことであったことだろう。

兵庫と大阪、関西に位置する二つの伝統校。
芸能コース選抜アイドル部の活躍で、ブランド化に成功した大阪・滝桜(タキザクラ)女学院と、昔ながらの進学校、兵庫・椿咲花(ツバキサクハナ)女子高校。
対立する2校の理事長の娘である二人の少女が
アイドル活動を通じて出会うことで、彼女たちを取り巻く小さな世界に、大きな変化が生まれていく―。

大事な約束より大事なことを探して……。

新たな舞台(セカイ)で始まる、「みんなで叶える物語スクールアイドルプロジェクト」。
いま、スクールアイドルをはじめよう!!

公式サイトより

さて、私は当ミュージカルのチケットを確保し今公演の日を待つばかりなのだが、期待半分、恐ろしさ半分という気持ちが正直なところだ。

ラブライブ !シリーズの最大の特徴として言われれば1になく2になく、『キャストとキャラクターのシンクロ』と呼ばれるものがある。
それは地上波のテレビ番組では「キャラクターのダンスパフォーマンスをキャストが再現する」という意味合いだけで取り上げられがちだがそれだけではない。
いかにそのキャストにキャラクターを見出すことが出来るか、そのステージに立つ姿に「キャラクターがそこにいる」と思わせてくれるのか。
ラブライブ !といってもアニメだけではなく楽曲、ライブやキャストの活動まで含められる。キャストの人生や中にはラブライブ !というコンテンツの歴史まで含めて作品の物語と現実の物語が相互にリンクしあうような関係であり、2次元と3次元という2本の線真っ直ぐ伸び時おり交わる線どころの話ではなくロープのように絡み合いほどけないものとなったコンテンツである。

さて、当のスクールアイドルミュージカル!というものにそれを見出すことが出来るのだろうか。私の最も懸念している事項がここである。
例えばこれが無印やサンシャインを別キャストで舞台化するという話だったら(それそのものを賛否はともかく)頷くことができただろう。
しかし本作品にはキャストから見出すはずのキャラクターが存在しない。キャラクターイラストは存在しているのだが、キービジュアルがキャスト写真であるようにあくまでサブ的な存在である

2.5次元舞台が流行り数年、数多くの作品が舞台化されているが、2次元と3次元のクロスという意味では先陣を切ってきたラブライブ!のミュージカル化は満を辞してという感はある。
伝説の無印1話で突然歌い出し多くの人を惹きつけたラブライブ !がミュージカルとの親和性が低いはずは無いと思う。
そして最初から2つのグループがライバル関係のように存在しているというのはこれまでのシリーズでも無いものだ。単純にストーリーも気になるし、どんな楽曲を見せてくれるのかという期待値も高い。

と、ここまでが私の上演を観に行く道すがら書き残していた文章だが、心配することは無かった。全力でお勧めできる新作が爆誕したことをここに報告させていただきたい。

以下はこのゲネプロの第1幕のダイジェストに含まれる程度ネタバレ込みのオススメポイントと全力のネタバレで分けたのでもし迷ってる人はここで引き返してほしい。本当は何も知らずに見て欲しいところではあるが……。


オススメポイント

驚くほど親和性が高い

真っ先に挙げるべき点であり、上記で私が期待していた点をまさにドンピシャで撃ち抜いてきた点である。
ラブライブ !では彼女達が歌い出しステージを展開することを領域展開だの固有結界だとの言う人がいるが思えば無印の第1話から突然歌い出し多くの人を魅了したアニメがミュージカルとの親和性が高くないはずが無かったのである(2度目)
ヤンキーが拳に気持ちを乗せて殴り合いで気持ちを伝えるようにスクールアイドルは歌に思いを乗せてライブで伝える訳で、ミュージカルというフォーマットは非常に相性が良いのである。
すでに音源が発売されている「未完成ドリーム」以外にも何曲も劇中では披露されているが、いろんなバリエーションで披露されており場面ごとにバシっとハマるようになっている。

パフォーマンスの質が高い

メインキャストにAKB経験者やジュニアアイドル歴の人たちを揃えているだけあり、そのダンスのキレや歌は話題作りで集めた寄せ集めなどとは言わせない凄みがあった。
ラブライブ!のコンテンツに常駐しており他のコンテンツと合同のフェスに参加すると彼女達のダンスの分量はおかしいと言われることがしばしばあるが、ミュージカルの彼女達はずっと歌って踊ってこそいないものの2時間動きっぱなしであるため、フルライブと遜色ないのではないかと思うほどである。

劇中の最後にはライブパートがあり、ペンライトを振ってもいいようになっているのだが、振っていいタイミングになったら演者から「振ってね〜!」とお言葉があるのでそれまではペンライトを振りあげてはいけない。タイミングが分かりにくいがちゃんと教えてくれるので間違っても言われるまで振ってはいけないのである。

これ、ラブライブ!で観た!

本作はこれまでのラブライブ!シリーズ1話〜3話に焦点を当て約2時間に広げた作品と言えば伝わるだろうか。
アニメでは約25分×3話のところ本ミュージカルでは1幕50分、2幕50分、スペシャルステージパート20分なので約1.5倍の分量となっている。
あらすじでは本作は二人の少女がアイドル活動を通じて出会うとあるがその実際は物語スタート時点では赤い制服の滝桜女学院のみが芸能コースの宣伝も兼ねてアイドル部が設立されている。
一方ルリカはアンズらのステージを見てファンになりステージに上がって歌って踊るってどんな気持ちなんだろうと勉強が疎かにになるほどに想いを馳せる。どこかの髪先が緑色のツインテールの少女はステージに上がりたいという気持ちを持つことは無かったが、ルリカは自分も歌って踊りたいと夢に見るようになる。アイドルに憧れて自身もアイドルになりたいと思う関係はこれまでのA-riseから穂乃果、μ'sから高海千歌、せつ菜→歩夢を想起させるものがある。

そして椿咲花とアンズの出会いからファーストライブまでが本ミュージカルの流れとなっているが「これ過去作で観た!」というようなエッセンスを含みつつも2時間という尺に綺麗に、綺麗すぎるほどにまとめ上げている
ルリカの突っ走る姿やアンズの部長でこそないがセンターとしているからこそチームがまとまるという姿は穂乃果だし、とあるシーンでルリカのくじけそうなときに誰よりも先に駆けつけたユズハはシリーズの幼馴染達を想起させるものがある。余談だが、私の本作の推しはユズハである

大人たちの物語

本作ではシリーズでもメイン軸に描かれることはなかった大人達の物語にもスポットが当たっている点にも注目である。
Wヒロインの滝沢アンズと椿ルリカの母親はそれぞれの学校の理事長であり、彼女達の娘への過度の期待を寄せている。アンズの母親であり滝桜女学院理事長滝沢キョウカは娘にアイドル部長として学校の発展を、ルリカの母親であり、椿咲花女子高理事長の椿マドカは生徒の入学率に伸び悩み、娘に理事長を継いでもらう為に勉学に励むことを押し付ける。
伝統を重んじるが故に進歩的に考えられないマドカと進歩的過ぎて商売のように学校経営を考えるキョウカは学生時代からの剃りが合わなかったと作中が語られている。なんとシリーズ屈指の最も歴史の長い幼馴染である。
そしてさらに特筆すべきは、理事長たちも、歌う
キャスト的にもベテランの実績を持つ彼女たちがいることで、大人からの期待と自分のやりたいこと、という間で揺らぐ2人が描かれる物語がより締まって見えるのだ。

本作の相関図



以下はより核心に迫る感想である






2次元では出来ない表現を

シンクロについて舞台見に行く前の不安について話したが、これは以外にもスッと入ることが出来た。というより、要らぬ心配だったというのが正直なところだ。実際見ているとそんなことは気にならなくなるのである。これは完全オリジナルかつ2次元イラストがSDイラストしかないがゆえに(当初はなんで?と思っていたがリアル等身のキャラデザがあった場合、逆効果だったことだろう)先入観なく見れたところは大きい。
というより2次元でやると表現できないであろう歪さを表現してきた時は「なんだと…」と驚嘆した

上記でルリカがアイドルを夢見るようになると書いたが、本当に夢の中で踊りだすシーンがある。その中で自分だけステップがうまく踏めない演技がすごい

物語の最後に滝桜女学院の文化祭の特別ステージとしてルリカ達椿咲花女学院アイドル部のライブシーンがあるのだが、それは本来アンズがいることを想定し作られている動きのため、アンズ抜きのパフォーマンスは一人欠けた形となり歪さ、音程にもぎこちなさが産まれていた。
上記の夢の中でのライブシーンもそうなのだが、そこに肉体を持っている人がいるからこそ、その歪さを表現でき、それを生で観ているからこそ感じ取ることが出来るという、2次元の嘘、とでもいううべきアニメ表現を如何に落とし込むか苦心してきたラブライブ!が3次元でしか出来ないものを見せ付けたのである(そしてアンズがライブに加わった時の完全体になったという気持ちもまたひとしおである)

本ステージはセットが回転式になっており、回転させることで滝桜と椿咲花への場面転換の役割を果たしているのだが、ステージの回転が途中で静止し、ステージと舞台袖にいるメンバーを表現するという舞台装置まで最大限に生かしたことを繰り出してきた。

おそらく配信などが予定がされていないのもそういう生で見るからこそ得られる部分を狙っているが故ではないか、と睨んでいる。配信が難しいならば再演や、円盤化を願うところであるが……。

アニメ的表現をキャストライブで落とし込んでいたラブライブだが発想の転換とでもいうべき演出の妙技に

スクールアイドル第0話

本作ではラブライブ!という名前が出てこない。それどころかスクールアイドル!という言葉は劇中で一度発せられるのみである。作中の時代設定については明言こそされてはいないが、スーパースター1話では「学校でアイドル!ってやつ?」とよく知らなかった澁谷かのんですら知ってるほどスクールアイドルはメジャーなものになっていることを考えるにμ'sより以前、スクールアイドルという概念すら存在しなかった時代なのではないかとにらんでいる。
ルリカ達が路上ライブを行うシーンで「下手でもいい!やりたいからやる!だって部活だもん!」という言葉からルリカは『スクールアイドル』という言葉を生み出すのだが、穂乃果の「私やる!やるったらやる!」を彷彿させるものである。
ラブライブ!シリーズの始まりの言葉のリフレインというだけなく時系列的にもラブライブ!ひいてはスクールアイドルが生まれた瞬間なのではないかと思った時、本作のタイトルにラブライブ!の文字がないことの意味を理解したのである。
バッタの改造人間をいつしか誰かが仮面ライダーと呼ぶようになったように、いつしか学校でアイドル活動をするものをスクールアイドルと呼ぶようになった…そんな世界のスクールアイドル第0話、なのかもしれない。

本作の主題歌「未完成ドリーム」を作詞したシリーズのレジェンド作詞家畑亜貴はパンフレットでこう語る

新しい始まりを応援したい、始まりの情熱を伝えたい……。
その想いを歌詞に込めました

パンフレット、畑亜貴のコメントより

どうしてアイドルをやりたいのか?という彼女たちの始まりの想いに焦点を当てた少女たちの物語はまごうことなきラブライブであり、このコンテンツの新たな可能性を感じさせてくれるものだった。実際観劇した人たちの中でも好評を呼び東京公演は終わりを迎えた。まだ見ていない1人でも多くの人に見て欲しいという思いであり私自身ももう一回味わいたくなり、大阪まで行くか頭を悩ませている最中である。


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