見出し画像

ある初夏の旅(1) 智頭急行編

あるゴールデンウィークの頃。

私は智頭急行に揺られていました。
その日は身内の旅行で鳥取に泊まることになっていたのですが、親族たちが車で旅館に向かうなか、私のような協調性に欠けた人間はひとりで列車に乗って行くのです。

私が鉄道に夢中になり始めたことについて、最初は呆れていた身内たちも、もはやうっすらと応援してくれるようになってきました。

もともと身内の中でもすこぶる浮いている私です。
旅館の夕飯の席に一緒にいれば上出来なのです。



なにはともあれ、今回の旅のメインは、真っピンクの駅と真っピンクのSLを見に行くこと!



とはいえ、せっかく遠出するのだからほかの駅もいろいろと降りてみたいところです。

とりあえず智頭急行に乗車。
なんとなく河野原円心駅に降りてみました。




なぜここに降りたのか今となっては覚えてもいないのですが、駅から出てちょっと歩いてみました。

山にいるようなひんやりとした気持ちのいい空気を楽しみました。




その後、再び列車に乗って大原駅で下車。
ここにはなんで降りたんだろう……乗り換えだったのかなあ。
今となってはよくわかりませんが、とりあえずここで一度列車を降りたようです。




ふたたび列車に乗って、今度は山郷駅で下車。

ここは恋山形の隣の駅。

……そう、そうなの。そうなのよ。
待ち時間を利用して恋山形まで歩くことで駅数を稼ぐことにしたの。
懲りてないでしょ。
ちょっとアホなのね、私。


でも大丈夫。木次線のときみたいな激しい坂はないはずです。
時間もたっぷりとあり、前回の旅みたいな悲惨なことにはならないはずです。


山郷駅はトンネルを抜けてすぐのところにあり、なんだかちょっと怖い感じがしました。
お地蔵様でもありそうな空気というのでしょうか。
お天気が悪かったせいでそう感じたのかもしれません。


だいぶ加工してみたのですが、それでもなお暗くてごめんなさい




駅を出て、歩き始めたのですが……

ここもなかなか秘境駅感があるなと思いました。

ところどころ人家は見えるものの、人の気配が感じられずコンビニなんかもありません。

歩きながら食べ物(おやつとか)を購入したかったのですが、残念ながらお店がありません。



人いないなあ、なんと思いながらしばらく歩いていると、雨が降ってきました。

朝から天気が悪かったので、傘を持ってきています。
傘をさして歩き出したのですが、ものすごい風!
なんだか傘をさしてもあまり意味がないぐらい濡れます。

しかし木次線の旅で準備不足を反省した私は確実にパワーアップしています。

傘をしまい、リュックからレインコートを取り出しました。

レインコート作戦は極めて有効で、強風と豪雨の中でも普段どおりにさくさくと歩くことができました。

そしてそんな自分に成長を感じ、誰かにこの状況をほめてもらいたいと思い、誰もほめてくれないことに気づいて感情をゼロにしたりしました。

恋山形までの道は車もほとんど走っておらず、人の姿もほぼありませんでした。




小一時間ほど歩いたでしょうか、レインコート作戦のかいもあって、特に苦労もなく恋山形駅に到着です。


けっきょく山郷から恋山形まで、私の目につく範囲で食べ物が買えるお店はありませんでした。お菓子とおにぎりを1つしか持ってきていないので、お腹にたまるものを買い足したかったのですが……
持ってきたものでしのぐしかないでしょう。



それにしても、恋山形駅!!

なんてピンクなのでしょうか。





ディズニーの不思議の国のアリスの絵本の中で、トランプの兵たちがバラの花をペンキで塗っているシーンを思い出しました。



ものすごいピンクです。ショッキングピンクです。

ホームの外側もショッキングピンクです。

駅前にはポストがあり、ここから恋文を出すと恋が叶うとか叶わないとか。

ホームにはハートの絵馬(有人駅や車内で購入可)をかけて恋の成就を祈るスポットなどもあります。



ひととおり写真を撮り終わって、ベンチに座ってみて……

わあ、落ち着かない!!




なんだろう。なんでこんな不安な気持ちになるんだろう。

来たらいけないところに来たような気がする。

鉄道むすめのイラストのせいかしら。

女性ひとりでここにいると、なんか恋叶えたくて必死みたいに見えないかしら。

やだあ。恥ずかしいって!




違うんです。

私は恋を叶えに来た人じゃなくてただ駅を見に来ただけの人なんです。

ほんとなの、信じてください。

誰に何を言われたわけでもないのに(そもそも人がいないし)、言い訳がましい気持ちになりつつ、持ってきていたおにぎりやお菓子を食べて気持ちを落ち着けました。

やがて向かいのホームに止まった列車から若い女性が降りてきました。明らかに恋を叶えに来た人です。
写真を撮りに来る人の姿もありました。


恋山形駅は周辺に観光スポットもなくトイレもない無人駅なのですが、この強烈なピンク色には確かな集客効果があるのだなあと感心したのでした。


つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?