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90年代のゲームと僕ら:押切蓮介「ハイスコアガール」

松本零士先生はその昔、一人で夜行列車に乗って旅をしている時、
「隣に美女が座ってるといいなあ」という妄想から、
銀河鉄道999のメーテルというキャラの創作につながったという。

押切蓮介著「ハイスコアガール」は、
当時の我々の希望、欲望、渇望、
「こうであったらいいなァ」
というのを全て凝縮している。

「当時」というのは90年代中半から後半、
いわゆる格ゲー全盛期である。

ストリートファイター2シリーズはもちろん、
ストリートファイターZERO(1995)、ZERO2(1996)、EX(1996)、3(1997)、ZERO3(1998)、
龍虎の拳(1992)
餓狼伝説スペシャル(1993)
バーチャファイター1(1993)、2(1994)
サムライスピリッツ(1993)
真・サムライスピリッツ(1994)
ヴァンパイア(1994)
ファイターズヒストリーダイナマイト(1994)
ワールドヒーローズ2JET(1994)
ヴァンパイアハンター(1995)
ファイティングバイパーズ(1995)
キングオブファイターズ'94(1994)、'95(1995)、'96(1996)
鉄拳2(1995)、3(1997)

この辺りはかなりプレイしていたなあ。

あとはそこまでハマらなかったけどモータルコンバット(1992)とかソウルエッジ(1996)とかもあったねえ。

こうしてリストにしてみるとなかなかすごい数であるΣ(゚Д゚)
当時の友達がNEO GEO(NEO GEO CDじゃない!高い!)を持ってて、
その友達の家で一晩中対戦やっていた後、
ゲーセンに行って腕を試していた。

格ゲーの他にも、
シューティング(レイフォース(1994)、ダライアス外伝(1994)は今でも伝説のゲームだ)や、
パズルゲーム(タントアール(1993)、イチダントアール(1994))
などにもハマっていた。
特にシューティングは、上手ければ1コイン(100円)で結構な時間を遊べたので、
暇つぶしによくやっていたものだ。
ダライアス外伝はハマりすぎて、秋葉原に行って基板を買いたいとマジで店(基板店)に通っていたぐらいである。
「ハイスコアガール」の漫画本編にはあまり出てこないが、アニメ版OPにはこのレイフォースとダライアス外伝の画面が登場する。スタッフさん分かってるなーという感じである。

まあとにかく当時の格ゲーのブームはすごいもので、
エロゲーでも出てたぐらいである(人形使い(1992)とか)。

「ハイスコアガール」の中で描かれているのは、
その他、SFC(スーパーファミコン)、PCエンジンなどの家庭用ゲーム作品も多いが、
特にゲーセンが一番勢いのあった頃じゃないだろうか。

さてそんな中である。
いきなりだが私は大学受験の時、3浪している。
そして3浪目、私は東京の町田市近辺に住んでいたのだが、
高校・1浪目・2浪目に続き、ゲーセンに入り浸っていたのである(勉強しろよ!(;´Д`))

いや言い訳をさせてもらえるなら、受験のプレッシャーとストレスにヘロヘロになっていたのであろう。
関西で実家に住んでいた高校時代や1浪目ではまだ一緒に遊ぶ仲間もいたのだが、
遠く離れて一人暮らしをした時は、
そんな友達もいなかった。

その時、私は孤独に、
来る日も来る日もゲーセンに通っていた(だから勉(ry

全く見えない将来への不安。
襲い掛かる受験へのストレス。
いくらゲームをやっても埋められない虚しさ。

そんな中、
ゲーセンでゲームをしながら私が思っていたのは一つ。
「彼女欲しい……」
だった。
当時のゲーセンはカップルで来ているのも多く、
キャッキャウフフと楽しんでいるのを見るたびに、
私の心はザワついて、自分の現実を顧みて打ちのめされていた。

さて、それを踏まえた上での、この「ハイスコアガール」である。

・一緒に格ゲーをやってくれる女の子(しかも強い!)
・一緒にゲーセンで遊んでくれる女の子
・家に来て、自分がゲームをやっているのを、「後ろから見るのが好き」って言って、部屋のベッドに座っている女の子(しかも女の子は一人ではなく二人も!)

これ全部、松本零士先生の「メーテル」と同じく、
この作者の妄想であったのだろう。
そして、この、「ゲームをやってる自分の隣に女の子がいればいいのになァ」
という狂おしいまでの妄想は、
間違いなく当時の、
私だけでなく私と同年代の、
全ての彼女無し童貞達の、血の滲むような渇望であったと思う。

できることなら、
一日中ゲーセンで遊んだ後、
一緒に帰りにファーストフードでも食べて、
夕暮れの中、その日の振り返りをしたかった。
ゲーメスト(当時のゲーム雑誌)片手に、
「今度はストゼロ3かー。ダンはまだいるかな?」
とか女の子と話したかった。

結果的に私は、
その狂おしいまでの渇望がいい感じにエネルギーになったのか、
3浪目にしてようやく大学に合格し、
3回生の時には彼女もできて(ゲームの話はできなかったが)慎ましやかな幸せを掴めたのだが、
この「ハイスコアガール」を読んでいると、
あの、90年代に住んでいた所から通っていた町田駅周辺の、
ゲーセンの帰りにトボトボ歩いていた夕焼けの街を思い出す。

「ハイスコアガール」は、当時を知らなくても面白いが、
当時ゲームにハマっていた者からすると、
ものすごいぶっ刺さってくるマンガなのである。

(追記1)
本作品をこれから読もうと思っている人へ。
現在1巻~5巻は「ハイスコアガールCONTINUE」でしか手に入れるのが難しいが、
CONTINUEは無印の加筆修正版なので、こちらで読んで問題はない。
ちなみに無印は、5巻(2013)が出た後、著作権がらみでSNKから告訴されたため、中断になってしまった。
どうやら、SNKのゲーム(サムスピとか)画面をマンガ内に登場させていたが、スクエニがSNKに許諾を撮ってなかったらしい。
で、一時期、この告訴事件のため、
6巻以降が出ることはもうないと噂されていたのである。

読んだ人ならわかるが、5巻のラストは、
「ここで終わりかよ!!!!」
みたいな、絶妙な引きである。
これで「6巻はもう出ない」と噂されたもんだから、
もうたまったもんじゃない。
それこそベルセルクの絶筆以上に、
当時のたうち回ったものである。

その後、スクエニとSNKは和解し、
1巻~5巻の問題の箇所が大幅に加筆修正されて「CONTINUE」として生まれ変わった後、
無印6巻も無事に刊行されたのだが、
いやー、その時は本当にホッとした。
続きが読めて本当に良かった。

(追記2)
アニメ版も最初の方は見ていたのだが、
原作にあった小春の「ほへー」というセリフの、
声優の演技(アクセント)が、
私の想定していたものと全く違っていたので、
そこから見るのをやめた。
小さい所だが、こういった所が大事なのである。
ちなみにopとedは映像も曲も好きかな。

(追記3)
本マンガで好きなシーン(たくさんあるが……)。
その1。
小春が「脱いで押し倒すなら私にもできるわよ」と言うシーン。
要はファイティングバイパーズのハニーを使ったネタ(分かる人には分かる)なのだが、
これなんかも、上で書いた、当時の我々世代の妄想をモロに反映させている。
その2。
10巻の飴を咥えた晶の表情。
最高の表情で、見事に前半の伏線を回収している。

(追記4)
3浪目に無事に合格した大学で、
1年目だけ漫研に入っていた。
結局合わなくてすぐに抜けたのだが、
まだ彼女のいなかった私はやはり当時、
「女の子と同人活動したいなー」
という妄想があった。
余談だがその妄想を形にしたのが、
甘詰留太の作品「いちきゅーきゅーぺけ(199x)」であろう。

(追記5)
勢いで続編の「ハイスコアガール DASH」3巻(最新刊)まで読んでしまった。
DASHは最初シリアスなダークものかと思っていたら、
途中からゲームはちゃんと出てくるし、
懐かしいキャラも出てくるしで、
やはり最高である。

調べてみると、Switch版のストⅡシリーズもヴァンパイアシリーズも出てるようで。
もう30年振りくらいだろうか。
久々にやりたくなった。

ちなみにストⅡシリーズは、ZERO2を一番やったけど、
実はポリゴンのEXも好きだった。
あれのお陰で、私は真空波動拳が出せるようになったと思う。
でもこれSwitch版には移植されてないんだなあ。
やはりシリーズの中では異色な作品だったのだろうか。

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