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【ワーママ転職活動記③】理想のロールモデルはどこにもいない

「周りを見渡しても、あの人がロールモデルだ、あの人みたいになりたい、っていう女性がいないですよね」

 社会人2年目の夏、客先から帰る道すがら、あまり何も考えず言ってしまった。30代前半男性と40代後半男性の先輩2人が答えに窮する。あ、いらんこと言ってしまったな、と思ったが後の祭り。
「まだうみさんは社内の人脈が少ないからそう見えるだけじゃない? Bさんはあっちの本部でグループリーダーしてるよ」
「Bさんだって子育てしながら仕事も頑張ってる女性社員じゃん」
 男性2人によるフォローが始まった。でも、私が言っているロールモデルはそういうことじゃない。AさんもBさんも、私がしている仕事とは全く違うし、私はAさんやBさんになりたいわけじゃない……。
 
 モヤモヤとしながら、私の中でロールモデル問題がずっとくすぶっていた。

 女性が多い部署にいたら、ロールモデルに出会えたのだろうか。私が理系だからか、経営コンサルのキャリアを選んだからか、男性の多い社会で育ってきた。マイノリティでいることはそれ自体が価値になるので、うまく渡り歩いてきたと思う。でも40代、50代のおじさんはロールモデルになりえなかった。周りのおじさんみたいになりたいと思ったことは一度もない。少し視野を広げ、社外で活躍する女性を見ても、なかなか「この人みたいになりたい!」と思う人には出会わなかった。

 尊敬する人とロールモデルは、違う。私が尊敬する人は男女問わず何人かいる。例えば、学部のラボのボスは女性教授だった。サイエンスはドラマ、人生はドラマ! と授業中に叫んだボスを、私は今も尊敬している。会社の上司は50代男性。顧客との交渉力、組織のマネジメント能力、そして未来を描く構想力、どれも舌を巻くクオリティの高さで、コンサルタントとして尊敬している(私が転職活動をしたきっかけの1つは、この上司と仕事ができなくなったからだった)。
 ただ、女性教授は人生をサイエンスに捧げ、独身で暮らしている。男性の上司はヘルスケアの仕事をしているにもかかわらず特定健診(いわゆるメタボ健診)に引っかかっている。いずれも私が目指す将来の姿ではない。

 仕事も、プライベートも、生き方も、考え方も、人間性も、自分の理想で「この人みたいになりたい!」という人はなかなかいない。仕事で超人的な成果を出している人がハラスメント気質だったり、丁寧な暮らしをしている人が偏った考え方を持っていたり、生き方にはとても共鳴するものの仕事が違いすぎて参考にならなかったり……。周りのたくさんの諸先輩方を考えても、尊敬したり、真似したい人はいても、私の理想のロールモデルがいない。

 典型的な日本型義務教育で育ってきた私たちは、答えがどこかにあるのではと求めてしまう。与えられた問題を解くのは得意。だが答えのない問題の解を見つけるのは苦手。ロールモデル問題の答えは一体どこにあるのか……。


 転機は転職活動で訪れた。私の転職先はまたもや男性社会で、しかも超男性社会で、多様性が低いことが業界レベルで問題となり新聞で取り上げられるレベル(こんな業界だから、私は女性で転職しやすかったのだと思う)。そんな中、同業界の女性が3人登壇する講演があった。もしかしたら、ロールモデルに出会えるかもしれない。この業界の女性はどんな風に輝いているのかな、と期待を持って聞きに行った。


 話を聞いて、確信を得た。ロールモデルはどこにもいない。自分は自分で自分が理想とするキャリアと人生を築いていかないといけない。外に答えがあるのではなく、自分で答えを作らないといけない。
 誤解してほしくないが、それぞれの女性は素敵な人なのだと思う。博士号を持ち長く研究してきた人もいたし、プレゼンテーションのクオリティが高い人もいた。講演を聞いただけなのでその人の考え方や人間性まではわからないが、私が今まで出会ってきた先輩方のように「真似したいところもあれば、真似したくないところもあり、自分の理想形ではない」ということになると思う。そもそもバックグラウンドが三者三様で、私のキャリアが彼女らと同じキャリアになることはあり得なかった。

 考えてみたら当然なのだが、自分の理想形が他人であるはずがなかった。そして私はロールモデルに多くを求めすぎていた。今まで出会った諸先輩方は、部分的に尊敬するところや真似したいところがあった。そのロール(役割)のみモデルとすれば、ロールモデルとして十分だった。
 でも、私は仕事も、プライベートも、生き方も、考え方も、人間性も、自分の理想となるようなロールモデルを探していた。なぜ自分の理想を探していたのか……今のところ思い当たるのは、どこかに正解があると思ってしまう思考の癖くらいしかない。

 青い鳥を探し求めてもどこにもおらず、ふと足元を見ると青い羽根が1つ落ちていた。まるでメーテルリンクの童話のように、理想のロールモデルは自分自身が実現するもののようだ。
 まだまだ私には改善点がいっぱいある。知らないことだらけだし、仕事が雑だし、お菓子を食べすぎて肌荒れするし、関西弁と標準語交じりの変な言語を喋っているし、部屋が汚いし、料理が下手だし……挙げるとキリがない。人間性は優劣をつけるものではないけれど、まだまだ未熟で器が狭い。

 今年は転職をする。新しい仕事で挫折するかもしれない。エン様(子どものあだ名)とふれあう時間が短くなり育児と仕事の両立に悩むかもしれない。生活がうまく回らなくなり泣く日もあるかもしれない。
 それでも、自分の理想形に一歩近づくために選んだキャリアパスだ。勇気をもって一歩を踏み出してみよう。
 そして10年後、20年後に、今は見知らぬどこかの誰かのロールモデルとなれたら、一番嬉しいことかなと思う。

《終わり》

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