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詩集

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これから追加されるとしたらすべて新作です。
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2019年7月の記事一覧

遠くに上がった花火

夏の打ち水 黒くなる石畳 途中で飽きてうりゃあっ 桶ごと撒いた水で虹ができるわけもなく ただ苔を剥がして 蛙が慌てて逃げただけ 暑中見舞い 帰省は見送ると走り書き 破いてやろうかごるぁあっ それでも彼の書いた字を破れるわけもなく ただ冷麦を啜って 形の変わらぬ雲を見てるだけ 浴衣姿のカップルが増えて ただただ胸糞わるい午後だ 花火大会の賑わいが目障りで 返す返すも腹が立ってくる夕方だ 線香花火を買い込んだのは 気紛れではなく当てつけだから こんな惨めな自分への 慰めでは

ともしびを放す

シャツの胸ポケットに蛍が一匹 偶然に迷い込んでいた ぼくにもたらされた小さなともしびは 不意に切ない感情を呼び寄せた 橋にもたれて水の匂いを吸い込む 暗い闇のほとりに蛍が飛び交い 恋人を探し求めてる ぼくのポケットには小さなともしびが はぐれたようにぽつんと残されて 強く光って恋の炎を燃やしていた 孤独には慣れている これまでもぼくは一人で生きてきたから 君の優しさを忘れよう 君の思い出に痛みを混ぜたままにして 恋愛は難しい こんなにも好きが苦しいものとは知らず ぼくは

治癒する場所

浅瀬から徐々に体を沈めていくように ここの通路は降りていくほど深くなる暗くなる ここはそういう水族館 いくつも笑顔を使い分け八方美人と噂され 本当の評価と単なる自惚れが分からなくなったときに訪れる場所 自分の嘘に傷ついて相手の嘘に救われて 呆れるほど身勝手だった自分を責めたいときに訪れる場所 入水する気持ちと生まれる前に戻りたい気持ちが混じり合い 自分は藻屑よりはましな命の欠片だと信じられる ここはそういう水族館 素直さを利用され正直さで損をして 信頼と誠実が胡散臭い