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詩集

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これから追加されるとしたらすべて新作です。
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2019年10月の記事一覧

膜が顔を覆っているようで息が苦しい 他人から見られているみたいでとても気になる 膜はいつから自分の肌に喰い込んできたのか 顔に爪を立てて膜を剥がすように掻き毟ってみたが 膜はびくともしない 見られている 苦しい 町のスーパーで妊娠している女性を見た 隣でショッピングカートを押しているのは旦那だろう あの二人はセックスをしたのだ セックスをしたことを堂々と公の場で宣言しているのだ 駅の改札付近で体を寄せ合っている高校生の男女を見た ただの友達関係でないことは腰から下を密着さ

あなたのいる背景

あなたのいる背景に雨の降る景色を置いてみる するとあなたはとても悲しそうだ どうか泣かないでください あなたのいる背景に 小鳥の群れが飛び立つような白いさざ波を置いてみる するとあなたはどこか不安げな顔だ なにも心配することはないのに 街には初恋の匂いが漂い 絵のような日々が一枚ずつめくられていく 無関係なものまでがひどく懐かしいのは 人は空気のなかに思い出を残すことができるから あなたのいる背景に 五月の明るい緑と葉を揺らす風を置いてみる するととびきりの微笑があなた

ロマンティック

乗り込んできたのは間違いなく君だ バスは夜桜の夢の中で停車している 何年ぶりだろう それを数えるまもなく 甘い香水が先に腰掛けてきた ぼくの隣に そろえた膝頭 肌色のストッキング ライトブルーのスーツは襟元まで 真正面を向いているぼくに見えるのはそれだけ 憧れで終わらせていた人だから 声はかけられないし顔を覗くこともできないが ずいぶんと綺麗になった ぼくにはわかる 革製のバッグの上に組み合わされた君の手は 触ればヨーグルトデザートのような感触だろうか 運命とは結果がで