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詩集

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これから追加されるとしたらすべて新作です。
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2020年1月の記事一覧

プロポーズ

わざと吹雪が強くなった頃合いをみてあの人は またなと言って笑顔で帰ってしまった 見送らなくていいから 風邪を引くと悪いから あの人は歯痒いほど意地悪だ 私が思いやろうとする気持ちを いつもやんわりと吸い取ってしまう 吹雪の中を帰ろうとする方が心配だよ 私がそう言ったのを覚えていたのかあの人は 曇った窓から見送る私に気付くと 下手なバレエを真似て跳躍したり回転したり ひらひらと雪の中で踊ってみせる 後ろ向きで歩きながら大きく両手を振って まるで子供のように無邪気に笑って

狼男のバレンタインデー

チョコが貰えないのは分かっているから 今日は真っ直ぐ家に帰るよ いつまでも学校に残っていたりしない 寄り道をして街をうろついたりもしない 今日に限って女なんていらないと思っている そんな俺って孤独な狼みたいでカッコいいだろ だけど視界の隅にあの子が入ると 手のひらに箱を持っているんじゃないかと思って こっそり息を止めている 会いたいってどうして思うんだろうな 話したいってどうして思うんだろう バレンタインが来る前に さっさと告白すればよかったんだ さっさとこの日が来る前

思いとどまったぼくたちは

思いとどまったぼくたちは ずぶ濡れの体で 泥だらけの足で ぺたぺたと河川敷の舗装道路を歩いた さっきまでは 手首を結び合い腰を縛り合っていた 今は距離をおいて 疲れたように二人で歩いている 闇夜に押されて 一言も話さずに 思いとどまる前のぼくたちは 世の中を倦み 別の違う世に行くことを切望した 水に還ることで ここにある体を抹消して 魂を切り離そうとした 濡れた体を引き摺り 闇夜を歩き続けて やっと気付いた どこにも行けないと 永遠に落下し続けるだけだと 思いとどまっ