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詩集

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これから追加されるとしたらすべて新作です。
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2020年4月の記事一覧

誰にも見られることなく

誰にも見られることなく散っていく桜よ おまえは可愛い 誰にも褒められたことのない灰色の幹よ おまえは立派だったぞ 誰にも気に留められなかった蕾の頃 おまえは咲くのを楽しみに待っていたんだよな 誰にも顧みられることのなかったその枝ぶりに おまえは一番美しい姿を飾ろうとしていたよな 誰にも見られることなく満開になった桜の頃 急に降り出した細い雨を 身をかわして避けながらたどり着いた小鳥のために おまえは鞠のように集まった満開の花たちで 雨除けになってくれたよな 月の出て

十四日目

核シェルターの中で暮らす男が毎日ラジオを聴いていた ラジオは汚染された地上に残っている誰かが 死のリスクを抱えて発信している番組だった 男はある日気付く まったく同じ内容の放送を以前聞いた覚えがあることに 男は不安になった 翌日の放送もそのまた翌日の放送も聞いた覚えがあるものだった 次の日もまた次の日も聞き覚えのある放送が続いた 男は色々な想像を巡らした 十四日目 男はシェルターから出る決意をした 核シェルターの中で暮らす女が毎日ラジオを聴いていた ラジオは無人島に何かひと