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詩集

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これから追加されるとしたらすべて新作です。
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#桜

誰にも見られることなく

誰にも見られることなく散っていく桜よ おまえは可愛い 誰にも褒められたことのない灰色の幹よ おまえは立派だったぞ 誰にも気に留められなかった蕾の頃 おまえは咲くのを楽しみに待っていたんだよな 誰にも顧みられることのなかったその枝ぶりに おまえは一番美しい姿を飾ろうとしていたよな 誰にも見られることなく満開になった桜の頃 急に降り出した細い雨を 身をかわして避けながらたどり着いた小鳥のために おまえは鞠のように集まった満開の花たちで 雨除けになってくれたよな 月の出て

ベンチ

ふたりで会うのがこれで最後なら 私は幸せのぬかるみに浸かることができる そんなふうに心を決めると 足どりが軽くなりました 静かな公園で落ち合い このベンチに 鞄を置いて隠した冷たい指を繋ぎ合って こうしてつらつらと思い出すのは 出会ったときから私たちの立つ地面には いつも大きな蒸気船の影のようなものが かぶさっていたということ あれは何だったのでしょう 細いガラスの管をかりんかりんと折ったときの そんな音に似た小さな女の子の笑い声が いつもひらひらと薄い光の破片になって そ