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砂に埋めた書架から

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書評(というよりは感想と紹介文)です。 過去の古い書評には〈追記〉のおまけが付きます。
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2024年5月の記事一覧

秋谷りんこ『ナースの卯月に視えるもの』《砂に埋めた書架から》71冊目

 満床であっても、真夜中の病棟は静かだ。この特別な静寂を知っているのは、長期療養型病棟に勤務する看護師ならではなのかも知れない。物語の主人公卯月咲笑は、早期に回復する見込みのない患者を受け入れる、長期療養型病棟の看護師である。一般病棟と違い、完治の困難な重症患者が多く、ここに入院したまま人生の終焉を迎える患者も少なくない。死亡退院率四十%という現実に日頃から向き合っている看護師たちにとっては、この真夜中の静けさに、通常とは違う雰囲気を感じているであろうことが想像されるのだ。