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普通の人生

百年前
ぼくがいなかったように君もいなかった

百年後
ぼくはいなくなっていておそらく君もいない

ぼくたちはたった百年の間の
しかも二人でいられるたった数十年を一緒に過ごし

たった数十年のうちのたった数年間を
愛し合う時間に使った

ぼくたちはおそらく歴史には残らない
もう死んでしまった昔の人と言われて一括りにされ
名もなき人の中に混ざり合って最後は消えていく

それでいい
それが普通の人生
百年後に何も残さない
人々の記憶に長く名前を覚えてもらうことをせず
生きてきた証しを刻み付けることもしない

それは寂しいだろうか
何か意味がないと生きてもつまらないだろうか

ぼくはこの限られた百年の間に君と出会った
これはぼくの歴史に燦然と輝くことなんだよ

誰も知らないし誰も語り継いだりしない
けれどもこの百年の間で
これがもっとも素晴らしい出来事なんだ
それだけは間違いないんだよ

誰も憶えていないことを成し遂げ
誰かの役に立っていずれすべて忘れ去られる

それは存外に覚悟が必要で
それは意外に勇気も必要なのだが

これが普通の人生
君と二人で選んだ
どこに出しても恥ずかしくない
誇りある普通の人生

ぼくはいいときに生まれた
君と普通の人生を送れるのだから



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