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十一の短編の覚え書きとネムキリスペクト

 こんにちは。
 初めての方、はじめまして。


 昨年、私は十一編の短い小説をnoteに投稿いたしました。

 年の初めに、その自作の覚え書きを書くのが私の毎年の習わしになっております。興味のない方からは、すぐに回れ右をされてしまうという年に一度の自己満足記事ですが、どうかお許し下さい。

 さて、投稿した十一編が書かれた理由には、共通していることがあります。それはnoteユーザーであり詩人であるムラサキが主催する『眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー』に参加するために執筆した作品だということです。

 このアンソロジーは、通称「ネムキリスペクト」とも呼ばれており、毎月ひとつのテーマが投票によって公平に決められ、月末を締め切りとして作品を募り、その後、参加者から寄せられた作品が翌月の初めに一つにまとめられ、主催者による全作品の解題とともに、アンソロジーのマガジンが編纂されるというものです。

 私はこのアンソロジーに、昨年はありがたいことに毎月参加し、一編だけ過去作を提出した他は、すべて新作を発表することができました。そこで、ネムキリスペクトの昨年のテーマとともに、自作を振り返りながら、自分のための備忘録とも言える「覚え書き」をつらつらと記していこうと思います。得になるような情報は提供できませんが、最後までお付き合い下さると嬉しいです。(でも6000字あります。ご無理はなさらないで下さい)

◇◇◇


01.『夜行列車』の覚え書き

だめだ、だめだ、想像しちゃいけない。いくら裸を知っていても、それは失礼だ。今夜のぼくは自制心のある紳士でいたいんだ。

『夜行列車』より


一月のテーマ【夜汽車】

「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー」、昨年最初のテーマは【夜汽車】でした。
 旅情や郷愁を誘うロマンチックな響きがあり、年の初めに相応しいテーマですが、このとき私が提出した短編は、空いている夜行列車で、現役のAV女優と偶然にも隣に乗り合わせることになった青年の話でした。
 この作品では、先入観による誤解と品位のある行動のコントラストを描こうとしました。私自身、子供の頃に乗り物酔いで気持ち悪くなったことがありますが、小さい子が粗相をして親が狼狽えている、という状況に遭遇したとき、この人はなんて格好いいんだ! と尊敬できるのは、この短編で描いたような行動を目の当たりにしたときではないでしょうか。


02.『失恋ソングの使い方』の覚え書き

「今夜は悲しい歌を歌おう。こんなときは歌が効く」

『失恋ソングの使い方』より


二月のテーマ【紫】

 テーマが色の名前です。聖徳太子が制定した冠位十二階でもっとも高貴な色が紫だったと記憶していますが、「色」は範囲の広い言葉で、何をチョイスし、どう創作の中で調理するのか、そのセンスが問われます。悩んだ挙げ句に私が選んだのは紫のブラジャーでした。(センス……)
 この作品では、一九八〇年代の日本のアイドル歌謡、ロック、ニューミュージックの名曲を、登場人物たちにカラオケで歌わせるという形で登場させました。八〇年代に限定したのは、私がもっとも聴いていて、曲もたくさん知っている時代だったという作者の都合によるものです。小説の最後に登場する「学園天国」は、七〇年代にフィンガー5というグループが先に歌っていましたが、八〇年代縛りにしたのでカバー曲の方を採用しました。ぎりぎり八十九年の発売だったので、書きながら安堵したことを覚えています。


03.『ろくろ首の胴の方』の覚え書き

ラジオと怪談は相性がいい。ラジオほど想像力を刺激して、怪談の恐怖を増幅させるものは他にない。

『ろくろ首の胴の方』より


三月のテーマ【ラジオ】

 テーマが【ラジオ】に決まりました。その前の年に私は『銀のチャームとガムテープという短編を書いており、それはラジオが重要な役目をする話でしたので、(うーむ、ラジオのネタはもう書いてしまったなあ、どうしよう)としばらく思案の日々が続きました。ネムキリスペクトは、怖い話や不思議な話が重宝されるアンソロジーでもありますので、自分が子供の頃から好きだった「妖怪」が出てくる話を全力で書こうと思い立ちました。その昔、TOKYO-FMで、毎週土曜日の午後五時から放送されていた、「サントリー・サタデー・ウエイティングバー・アヴァンティ」の愛聴者だった私は、印象に残っている放送回を思い出せる限り再現したり、金縛りなどの実体験をそのまま主人公に体験させたりと、この作品は大いに楽しんで書いたことを覚えています。

 ちなみに、この月から「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー」は、投票によって優秀作品を選ぶ従来の方式が変わり、まったく新しい「コメント師」という、合評形式に変わりました。


04.『めでたし まことのお体よ』の覚え書き

いくつも路地を曲がり、狭い道に入っては引き返し、自分ひとりだけの足跡を往復で雪上に残し、そのうち迷路に嵌まったように方向がわからなくなった。

『めでたし まことのお体よ』より


四月のテーマ【迷路】

 ここで告白しますが、テーマになった【迷路】は私の提案でした。テーマの公募に参加するようになってから、初めての採用です。嬉しかったのですが、書きたいことがあって応募したわけではなく、投票を盛り上げようみたいなお祭り気分での提案だったので、いざ【迷路】に決まって一番焦ったのは私自身でした。書けなかったです。ずっと書けずにいて、最後に絞り出したのがハッシュタグ「観光案内」。地元の観光資源を頼りにしました。三月なのにクリスマスシーズンの話を書いているのも苦しかった証拠です。作品のタイトルは、モーツァルト晩年の教会音楽『アヴェ・ヴェルム・コルプス』の邦訳。とても美しい合唱曲で、作品の中でも使わせてもらいました。


05.『ズボンの膨らみ』の覚え書き

テントが張っている状態をクラスの女子に見つかったら、卒業するまで変態扱いされるぞ、という松野の言葉を当時の自分たちは信じた。

『ズボンの膨らみ』より


五月のテーマ【知らなかったんだ】

 思春期真っ只中、桃色の妄想に支配されていた中学生時代を、大人に成長した青年たちが回想するお話です。実のところ、中学時代の私はむっつりスケベの中二病男子だったので、おおっぴらに性を語るような明るい青春時代は経験しておらず、そういう意味では、せめてこの作品のような中学生時代を送りたかったという理想を描いています。いずれにしろ、しょうもないスケベな中学生であることに変わりはありません。意外なのが、自作の短編の中では、この作品の全体ビュー数が二番目に高いことです。わかってくれる人が多いのでしょうか。ありがたいです。


06.『花とカササギの招待状』の覚え書き


「皆川くん、君はどう思う? この花のふっくらとした花弁を見て、美味しそうだと感じないかい?」

『花とカササギの招待状』より


六月のテーマ【招待状】

 食べ物でないものを食べてしまう「異食症」を取り上げていますが、元々このアイディアは、アンソロジーのテーマが【スイーツ】だったときに使う予定でした。このときは数週間で短編を仕上げる自信がなくて見送りましたが、そのうち、毎月ひとつは書けるようになったことから、ようやくそのアイディアが実作として実を結んだというわけです。この作品で、冒頭の一文を長くしたのは、主人公の言い訳したい気持ちと含羞の心理を表現する狙いがあったことと、一度こういう長めの文を実作でやってみたかったからでした。この【招待状】のテーマも、提案したのは私です。祭りだワッショイ目的の提案だったので、この回も書くものが決まるまでたいへん追い込まれました。


07.『母星』の覚え書き

私たちはお母さんを捨ててこの星にやって来たのだろうか、それともお母さんから捨てられてこの星にやって来たのだろうか。

『母星』より


七月のテーマ【明日、地球が粉々になっちゃうんだって】

 主催のムラサキ氏も、「ネムキリスペクト史上、最も具体的、かつ長大なテーマ」とおっしゃっておられましたが、このテーマに決まったときは両手で自分の頬を挟んで瞬きを繰り返しました。地球が壊れるシチュエーション。そんなスペクタクルな引き出し、自分にはなかったからです。けれども、なんにもないところから何かを絞り出すのが創作です。私にとっては初めてのSFになりました。変則的な構成で、連作の性質を持つ四つのエピソードを分割し、それをシャッフルして配置した群像劇の体裁にしています。しかし、SFの洗礼と申しましょうか、書いている先から数々の科学的な矛盾点が見つかり、これも修正、あれも修正、どれを修正? ああ、もうだめ、ギブです、となり、矛盾があっても目を瞑ることにしました。太陽系外惑星について勉強が足りなかったです。すみません。

 このアンソロジーに集められた作品を拝見すると、参加した書き手の皆様がそれぞれのやり方で地球を壊したり壊さなかったりしています。自分にはなかった発想ばかりで、その眺めは壮観です。公開後の合評企画で、コメント師の小牧秋さんが提供して下さった図が素晴らしくて、とても感動したことを覚えています。


◇ 【intermission】◇


八月のテーマ【懐中電灯】

 過去作で参加しました。

『ミッション』(2018)

 実は、テーマ【懐中電灯】も私の発案でした。これで三度目の採用です。ありがたいやら嬉しいやら。こんなにも幸運が続くと自分の中ではもう十分になり、これ以降、テーマの応募は控えて投票のみにしています。現在は面白いテーマ候補が激増していて、投票から決定が今まで以上にスリリングになっていると感じます。


08.『窓に立つ足』の覚え書き

静一は拍動が激しくなり、興奮が収まらなかった。自分は変態だと思った。自分はあの足に狂っていると思った。

『窓に立つ足』より


九月のテーマ【うどん】

 変態が登場します。足フェチです。過去作でも足フェチを書いたことがあるのでこれで二度目の登場です。
 【うどん】がテーマなのになぜ足フェチに行き着くのかというと、何の発想も降りてこなくて追い込まれたとき、私の中には解決策があるのです。「困ったときは変態を書く」。今回もその信条に従いました。うどんを足で捏ねるとコシが強くなる、と聞いたことがあり、これだ! と閃きました。どういうわけか閃いたのです。足フェチでもないのに。
 この作品は三人称で作りましたが、油断していると一人称の書き方になっていることがあり、非常に苦心して書いたことを覚えています。


09.『二の坂』の覚え書き

体型がずいぶんとぽっちゃりしていて目方もだいぶあるように思えた。彼はここまでどうやって来たのだろう。

『二の坂』より


十月のテーマ【まがいもの】

 追い込まれました。何も浮かびませんでした。それでも、なんにもないところから何かを絞り出すのが創作……というわけで、こういうときに頼りにするのがハッシュタグ「観光案内」。地元の出羽三山神社でわさんざんじんじゃを題材にしました。主人公は私自身と重なるところがあります。小学生に「戦場カメラマン」と言われたことも事実ですが、顔は似ていません。最後の場面は実際に体験したことを小説に取り込みました。テーマの【まがいもの】が生かせなかったところに、苦しんだあとがみられます。


10.『膜』の覚え書き

私は一日の大半を俯いて過ごす。誰かに見られないためではなく、自分の視界に誰かを入れないためだ。

『膜』より


十一月のテーマ【フォビア】

 追い込まれました。色々と書き出してはボツにして、このままでは間に合わないとなりました。そんなとき、詩を短編にしたらどうかと思い立ちました。私には小説的なストーリー展開のある詩がいくつかあり、藁にも縋る思いで『膜』という詩を『膜』という掌編に改編することにしました。激ムズでした。思ったよりもたいへんで、脳室がぱんぱんになりそうでした。特に新たに加える部分はさんざん迷いました。完成後、何事も簡単にはできないという教訓を得ました。でも、また追い込まれたとき、自作の詩に材を求めることがあるかも知れません。アンソロジーには掌編として提出しました。掌編は難しいです。


11.『知冬のからだ』の覚え書き

「私、体の一部が透けてしまうんです」

『知冬のからだ』より


十二月のテーマ【透明】

「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー」、昨年の掉尾を飾るテーマは【透明】でした。美しいテーマです。
 私は今回も追い込まれて、ようやくクリスマス頃から手を付けました。題材は古典的なテーマ「透明人間」です。たくさんコメントを頂いて、製作秘話や裏話といった覚え書きは、ほぼその記事のコメント欄に書いてしまいました。嬉しいです。ありがとうございます。海亀湾版『透明人間』の投稿は、年をまたぎ、元日になってしまいましたが、たくさんの方から読んでもらえたので、完成できてよかったなあと思いました。

◇◇◇


 覚え書きは、以上です。十一編もあるのでだいぶ長くなりました。ここまでお付き合い下さった方々、本当にありがとうございます。

 ネムキリスペクトに参加したことで、私の中から作品を生み出すことができました。そうでなければ、この世に存在しなかった創造物です。主催のムラサキ氏にあらためて感謝を申し上げます。そして、アンソロジーに参加した皆様、いつも投稿している常連の皆様、毎度ぎりぎりの投稿になる私は、皆様が先に投稿したのを知るたびに、自分も間に合わせなければと自らを奮い立たせ、同時に励みにしております。ありがとうございます。エンドマークを打てた作品が多ければ多いほど、自分は上達していると信じたいです。

 最後に、初めて訪れて下さった方、noteで私をフォローして下さっている方、貴重な時間を割いて、私の作品を読んで下さった方、スキを押して下さった方、コメントを下さった方、コラボをして下さった方、そんな風に私と交流して下さった皆様方に、心から深く感謝を申し上げます。皆様がいるので、続いています。


◇◇◇

※「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー(ネムキリスペクト)」とは

 ムラサキさん主催のアンソロジー。毎月選出されるひとつのテーマの元に集められた、note内に埋もれている新作及び旧作の、小説、エッセイ、詩、漫画、ルポ、コラム、イラスト、音楽、動画……。それらは毎月のマガジンにまとめられ、一部のコアなファンに読まれています。noteユーザーであれば、自薦、他薦、どなたでも参加できるとのこと。不穏、妖艶、魑魅魍魎、SF、エロティシズム、アンダーグラウンド。これらの言葉に心が躍る方は、きっと楽しめるアンソロジーではないでしょうか。
 寄稿している執筆陣の顔触れは、note内でも文学性が高く、娯楽性にも優れた実力派が揃っていると感じます。

 また、参加されると、合評企画のときに、どこからともなく現れるコメント師の方々から、コメントを頂けることがあるかも知れません。きっと今後の創作の励みになることでしょう。




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