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2020年六つの短編の覚え書き

 こんにちは。
 初めての方、はじめまして。

 私は昨年、自作の短編小説を全部で八本ほどnoteに投稿しました。そのうち新作は七本。人生において、こんなに生産したことはありません。

 今回紹介するのは、それぞれの作品を執筆したときの「覚え書き」です。全八本のうち、二本はすでに「覚え書き」を投稿済みですので、今回は割愛し、全部で六本の紹介となります。これまでも同様のことをやってきており、同様の言い訳をしているのですが、これは私個人の備忘録として機能するもので、究極の自己満足の記事になります。


◇◇◇


1.『銀のチャームとガムテープ』についての覚え書き


尻尾があって、丸い背中があって、大きな頭部には目のようなものがあって……私には、孵化したばかりの魚のようにも、卵の中で成長を始めたサンショウウオのようにも見えた。困惑している私を見かねたのだろう、先に男が答えを教えてくれた。
「実はこれ、母胎の中にいる人間の赤ちゃんがモチーフなんです」

『銀のチャームとガムテープ』より


 現時点での最新作になります。そしてムラサキさん主催の眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー(ネムキリスペクト)」※ に参加させて頂いた作品でもあります。

 ネムキリスペクトには、毎回投票によって決まるテーマがあるのですが、先月発表されたのが【壁にガムテープ】という極めて個性的で特殊なものに決まったため、参加者、執筆陣の多くが、頭を抱えたり、悶え苦しんだりしながら、最終的にはきっちりと秘めた実力を発揮してしまう、という回でした。

 私自身も、日本料理屋のささやき女将に囁かれるまでもなく頭の中が真っ白で、アイディアらしきものが降りてくるのを待つほかありませんでした。折しも世間はクリスマス・シーズン。頭の中に浮かぶのは……雪、暖炉、煙突、四角い入り口……あ、(ピコン!)これだっ!

 こんな風にして、12月22日頃から書き始め、大晦日に完成しました。私は遅筆なので十日間で仕上がるのは極めて珍しいです。

 系統発生のエピソードは、今から何十年も昔、ある有名なコピーライターが、学者か誰かとの対談の中で話されていたことをヒントにしています。どの本で読んだか、雑誌だったか、小冊子だったか、憶えていません。出典を提示できないのは私自身の不徳の致すところです。

 作中には、名古屋に実在する素敵なアクセサリーショップSipka(シプカと、そのオーナーことり隊長さんが登場します。感想のコメントも頂戴しました。深くお礼を申し上げます。

 以下、参考まで。作中、スナックの中で最後に流れていた曲、ジェイミー・カラムの『ターン・オン・ザ・ライツ』




2.『半月たちの哀歌』についての覚え書き


「八田くん……私のも見てくれる?」
 涼子は前に屈んで両腕を伸ばし、ワンピースの裾に手を掛けた。八田宏哉が見ている前で、スカートを捲り上げる。誰の目にも触れさせたことのない白い素足が、白いカーテンを透過して届く光に初めて晒された。

『半月たちの哀歌』より


 私がnoteに投稿した小説部門で、初めて〈十八歳以下の閲覧制限〉になった作品です。官能表現があります。

 この作品を書こうと思ったきっかけは、先にも述べた「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー」の次回のテーマ(これも読者の投票で決まります)、その候補に、「アンドロギュノス」というワードを見つけたことでした。この言葉を目にした瞬間、私の妄想が始まりました。アンドロギュノスとは、両性具有のことです。

 両性具有者が登場する小説は、このときまで鈴木光司の『リング』くらいしか私には心当たりがありませんでした。執筆中にこのジャンルについて調べてみたら、同人系の成人向け漫画に、アンドロギュノスを題材にした作品がたくさんあるようでした。覗き見てびっくり! すごい世界があるものだと思いました。ただ、私が書こうとしている小説とは方向性が違うようでしたので、ほっと胸をなで下ろした覚えがあります。

 昨年の11月8日に書き始め、翌12月18日に完成しました。作中に組み込まれている「詩」は、以前から未完成のまま眠らせておいたものです。この詩を小説の中で使ってみようと思い立った瞬間が、実質この作品が頭の中で完成した瞬間でした。

 官能表現は難しい。けれども書くと必ず新しい発見があるのも官能表現だという気がしています。そうは思ってもらえないかも知れませんが、特に性交時の台詞は熟慮に熟慮を重ねました。#純文学 のタグを付けて投稿したのも、強気の表れです。

 とはいえ、投稿後は不安でいっぱいでした。温かいコメントをたくさんの方から頂戴し、今はこの作品を書いてよかったと思っています。タイトルは完成してから苦しんで付けました。未だに「はんげつたちのあいか」と読むべきか「はにわりたちのエレジー」と読ませるべきか決めかねています。



3.『桜の魔術』についての覚え書き


花びらは、真上で枝を広げている桜の木から、忽然と生まれてひらひらと目の前に現れた。何時間もここに寝ていたら、ぼくたちはこのまま花びらに埋もれていくのではないかと思った。

『桜の魔術』より


 ネムキリスペクトのテーマ【魔術】の回に提出した掌編小説です。私はこのとき、『半月たちの哀歌』を書いていたので、魔術をテーマにした小説のアイディアは降りてきていたのですが、時間がなくて、締め切りまでには絶対完成しないだろうと諦めました。そんなとき、自分の小説のファイルを眺めていたら、書きかけの官能的な文章を見つけたのです。心当たりはありました。これは五月に伊藤緑さん主催のコンテスト原稿用紙二枚分の感覚に応募しようと考え、けれども、心理描写がてんこ盛りになったため、途中で断念した最初の案の下書きでした。

 途中で放棄したこの原稿に、手を入れてみてはどうか……。そんな風に思い付き、仕上げたのがこの『桜の魔術』という作品です。

『原稿用紙二枚分の感覚 』に応募する作品の制作は、とりわけ文章と感覚を研ぎ澄ます必要がありました。その中で取り組んでいたものでしたので、捨てるには惜しい部分がこのボツ案には含まれていました。

 最終的に、この小説は原稿用紙四枚分となって完成しましたが、短い小説を書くことの難しさを、ここでも私は実感することになりました。掌編小説は、なかなか私には手が出せない分野です。

 以上のような経緯もあったので、この作品がネムキリスペクト【魔術】で佳作に入ったときは、飛び上がるほど嬉しかったです。読んで下さった皆様、投票して下さった皆様に感謝を申し上げます。



4.『夫婦十年水入らず』についての覚え書き


本人はお尻が平べったくなったのを気にしているようだが、ぼくにはふんわりと丸くて、十分魅力的に見える。女性の体はいいものだな、という思念が、湯気のようにぼくの顔の周りを取り巻いていった。誰からもこの体を奪われたくないと思った。

『夫婦十年水入らず』より


 こちらも「ネムキリスペクト」のテーマ【温泉旅行】の回で提出した作品になります。そうなのです、昨年(2020)書いた小説のほとんどが、このアンソロジーに参加したいがために産み落としたものなのです。逆に言えば、こういうきっかけがなければ、これらの作品は生まれませんでした。

 この小説は、最初からコメディー路線で行くことを決めていました。笑えるシーンを盛り込んで、なるべくテンポ良く、そして、読みやすく。雰囲気や文章でストーリーを誤魔化さず、事件や騒動に明確な解決を用意する……そんな風に考えて、私自身が今書くことができる最高のコメディーを目指しました。

 お陰様で、私がnoteに投稿したあらゆる記事の中で、もっとも多くのスキを頂いております。サポートまで頂いたときはたいへん感激しました。読んで下さった皆様からの、たくさんのコメントを拝読して、幸せな気分を感じることができるのも、この作品における印象深いことのひとつです。

 執筆中は竹内まりやをずっと聴いていました。あと、かみのやま温泉に実在する温泉旅館をモデルにしておりますが、作中に出てきたバーは私の創作です。



5.『眠り流しのその後』についての覚え書き


星明かりと夜目が利くようになったおかげで、一本道のざらついたアスファルトの上に、赤土が付いたキャタピラーの痕跡が、筋になって墓地の先の方から延びてきているのがうっすらと浮かんで見えた。墓場は真っ暗に寝静まっていた。

『眠り流しのその後』より


 こちらも「ネムキリスペクト」に提出しました。テーマは【墓地】です。私の子供の頃の思い出をベースにして書きました。書いている間は、小学生の時分の記憶が蘇ってきて、懐古の時間に浸ることが多かったです。

 「眠り流し」という小学生の行事は、私の住む地域に伝統的なものです。当時は本来の意味など知らずに、ただ公民館に集まってみんなでワイワイやる夏の行事、という認識でした。今回、初めて意味を調べて、ああ、ちゃんとしたものだったんだ……と勉強になりました。

 この作品の、後半に起こった出来事は、私の創作も交えていますが、私の実体験であり、事実に基づいています。詳しくはこれ以上書けません。



6.『**********』(公開終了)


 プロフィール記事海亀湾のプルーフ(自己紹介的な何か)の中でも少し触れていますが、私は、とある地方紙が主催する短編小説の文学賞で佳作を頂き、新聞の朝刊一面に掲載された経験があります。実はこの作品がそうでした。小説、オリジナル、短編小説、結婚、縁、プロポーズ、モーツァルト。以上のようなタグを付けて投稿しました。現在は、タイトルも非公開です。お許し下さい。

 2020年6月6日から6月10日まで、わずか五日間の限定公開でしたが、いつも読んで下さっている皆様から、二十四個もスキをもらい、私の中での欲求をこれで鎮めることができました。再び公開することはありません。この作品があったおかげで、今も私は小説を書いているのだと思います。



7.『ルンナは夜明けまでに』についての覚え書き




8.『木星の翅を連れて』についての覚え書き



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 以上、昨年発表した小説の覚え書きでした。ここまで読んで下さった方に、心から感謝を申し上げます。

 長々とお付き合い下さってありがとうございました。皆様がいるので続いています。

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〈追記〉2021/01/12
 ムラサキさんのマガジン、ゆく年くる年「2020年の健闘を褒め称える会」に、この記事を所収して頂きました。
 自分の中から一作を選ぶとしたら、昨年一番最初に書いた『木星の翅を連れて』です。私は今も昔も、予めプロットを作らないスタイルですが、この小説を作っている間、自分の感覚の中でいろいろな発見があって、よし、最後まで書けた、とひとり静かに興奮したという思い出の作品です。


※「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー(ネムキリスペクト)」とは

 ムラサキさん主催のアンソロジー。毎月選出されるひとつのテーマの元に集められた、note内に埋もれている新作及び旧作の、小説、エッセイ、詩、漫画、ルポ、コラム、イラスト、音楽、動画……。それらは毎月のマガジンにまとめられ、一部のコアなファンに読まれています。noteユーザーであれば、自薦、他薦、どなたでも参加できるとのこと。不穏、妖艶、魑魅魍魎、SF、エロティシズム、アンダーグラウンド。これらの言葉に心が躍る方は、きっと楽しめるアンソロジーではないでしょうか。
 寄稿している執筆陣の顔触れは、note内でも文学性が高く、娯楽性にも優れた実力派が揃っていると感じます。


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