湖楠*

うみなと言います。 気まぐれに短い話を書いています。 良ければ、覗いていってみてくださ…

湖楠*

うみなと言います。 気まぐれに短い話を書いています。 良ければ、覗いていってみてください。

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掌編小説「色がない世界」

 彼女が愛した世界で私はまだ生きている。色は見えないけれど、私の瞳に映るのは相変わらず白と黒だけれど。彼女が愛した色を世界を想像して生きていこう。そう決意した。彼女がいなくなってしまったあの日に。  世界は色が見えることを禁忌とした。理由はわからない、今はもう知る由はない。けれど、誰だって自分が理解できないもの、異物を進んで受け入れようとはしないだろう。世界が罪を犯したのか、彼女が罪を犯したのか、私には分からない。色が見えるのは罪であり、極刑に値した。 私に分かるただ唯一

    • 掌編「雫」

      雨が降る。 私の鳴き声は、誰にも届いていない。 この瞬間にも同胞たちは、誰にも知られずいなくなっていく。 降りしきる雫が、地面に落ちる様に。 私は今日も空を見上げている。暗い狭い路地裏で。 今にも街に呑まれてしまいそうなほど小さい翼。 次第に灰色の雲が立ちこめる。 雫が1つ、また1つと落ちてくる。 それでも、上を見上げる。狭い空に、同胞の姿。 黒い翼を広げて、雨など諸共せずに駆けていった。 いつかの日を思い出す。 …あれほど、引き留めたのにあの人は行ってしまった。 悔

      • 詩「幸せに」

        朝起きて、寝坊した日 あの人は幸せになっただろうか 仕事に追われて、お昼を食べ損なった あの人は幸せになっただろうか 雨が降っている、傘を忘れた あの人は幸せになっただろうか 家に帰っても、おかえりが聞こえない あの人は幸せになっただろうか あなたがいなくなった生活で わたしは幸せになれるだろうか 愛しい人を忘れられない あの人は不幸にならないだろうか わたしのいない日々を過ごす あの人は幸せになっただろうか

        • 選択肢の中に、自分に当てはまるのはないと「その他」を選択するけど、「その他」の自由記入欄には何も書けやしない

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        掌編小説「色がない世界」

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        記事

          掌編「鳥になって」

           寒空を鳥が飛んで行く。  私はそれを病室の窓から見送る。ふと街並みを見下ろすと、ランドセルを背負った少年が道を駆けて行った。  「私もあんな風に、空を大地を翔けていきたい」  振り返る。何もない、誰もいない狭い病室。きっと春にはここを抜け出せる。そしたら、  「あと少ししたらなれるかな。」  声を出しても返事はない。彼に会えていないのに。  私に家族はいない。もうとうの昔に死別した。それからはずっと一人だった。そんな私に会いに来てくれる彼がいた。お付き合いはしていない、た

          掌編「鳥になって」

          掌編「一夜の奇跡」

          何もなかったはずなのに 全てが嫌になって家を飛び出した だけど、どこにも行く宛てなどない 一人、ブランコを漕いでいた 夜風が優しく吹いて 何もないのに 泣きたくなる 上手く声が出ない 何かを掴みたくて 吹いた風を捕まえて空の手を握る ここにいることを確かめるように 突然、何かに引っ張られる 夜風が私を連れ出すように 空、高く、舞い上がって 目の前に広がる光の海 魔法にかかったように 空を泳いで涙が溢れる あまりに綺麗で 漠然とした不安なんて 小さくなって忘れていた

          掌編「一夜の奇跡」

          掌編「海月姫」

          朝がやってこない。 私にはわからない。 きっと誰かが願ったことで、それを誰かが叶えたのだろう。 今の私には都合がいい。ずっとこうしていたいから。 ずっと部屋に引きこもっていた。いったい何のために生きているのかわからない。生きたいと思えない。だからずっとこうしていられる今はとてもありがたい。明日のことを考えずにいられる。 今日も最悪な気分でベランダに出る。 ここから誰かが連れ出してくれるわけも、助けてくれるわけもない。 「もういっそのこと」と乗り出してしまいそうになる。

          掌編「海月姫」

          掌編「宇宙人の恩返し」

           今日は大晦日。  いつもならば、大掃除など年末にやる事をしている時間だ。だけど、今日の外は真っ暗だ、時計を見れば、丁度昼の正午。時計がずれた訳じゃない。この原因はもう知っている。三日前、太陽が消えてしまったからだ。世間は終末論争でごった返ししていて、もう年越しどころではなくなっている。  太陽が消えてしまった理由は、きっとどこかの頭のいい人たちが必死に解明してくれるだろう。僕はそれよりも急いで叶えなければいけない夢がある。  僕がその夢を持ったのは数年前、約束を交わした

          掌編「宇宙人の恩返し」

          詩のようなもの「葬」

          目を伏せて何かを願うように 黒い服を纏った姿 誰かの稀泣が聞こえる なぜここにいる? 手には白い百合の花 今でも残るぬくもり 大事なことを忘れてる 大事なことを伝えてない 「 」 わからない、わからないよ ・・・・・ 目を伏せて何かを願うように 黒い服を纏った姿 誰かの稀泣が聞こえる なんでここにいるの? 差出す白い百合の花 酷く冷たくなった頬 大事なことを思い出して 大事なことを言わなきゃ 「ずっと」 息が詰まる 声が出ない 息を

          詩のようなもの「葬」

          掌編「堕落生活から」

          描けない。 何をしてもただの一度も心躍ることがない。 筆を握って、キャンパスの前に座る。伝えたいことはあったっけ。 きっとこれはスランプ。それを脱するためには、何かきっかけがないと。 だから、どこかに出掛けるのがきっと良い。今日はいい天気だ。気分転換にでも行こうじゃないか。 …でも昨日履き慣れた靴は、さすがにガタが来てしまって捨ててしまった。お気に入りだったのに。 新しい靴は、あるけれど、そんな気分じゃない。 「…出掛けるのは無しだな。」 しかも、朝から何も食べていな

          掌編「堕落生活から」

          掌編小説「監獄」

          何も見えない。 何も感じない。 ここはどこだろうか。 僕は誰だろうか。 どうしよう、何もわからない。 暗くも明るくもない。 黒くも白くもない。 これまでの記憶もない。 気づいたらここにいた。 ”ここ”という空間があるのかも、怪しいが。 …ちょっと頑張って思い出してみよう。 微かに覚えているのは、…香しい、そう花。 花壇に植わった花を見た。綺麗だった。 視線を上げれば、澄んだ空気と青い空。 周りには…遊具、滑り台があった。 そうだ、僕は公園にいた。 感覚がない、というこ

          掌編小説「監獄」

          掌編小説「私だけの道標」

          人混み。…人混み。 どこを見ても、人ばかり。 全員、目指している方向へ あちらは働くための道。 あちらはニートになる道。 あちらは未開拓地。 (我が道を行く人向け) と書かれている看板に従って 私は立ち尽くす。 木の枝のように無数にある岐路 一歩踏み出したらもう戻れない どうしたい?どうすればいい? 答えが見つからなくて 行き交う人々の中、一人うずくまる。 喧騒だけが私を覆い尽くす。 途端、切り裂くように、着信音が鳴り響く 私のスマホが鳴っている。 画面を見ると、過

          掌編小説「私だけの道標」

          好きな曲の歌詞を書き続けてみた

          誰もがやったことがある、とはいかなくても、きっとやったことのある人はいると思います。いや、いると思いたい。 それは、好きな曲の歌詞を書き残すこと。 これが私のやり続けたこと。もうかれこれ、9年間は続けていることです。 きっかけ スマホがまだなかった時。まだ、ガラケーが主流で、私はまだ小学生でした。「小学生じゃまだ携帯は早い」と言って、親に携帯を持たせて貰えなくて、悔しい思いをしたのを覚えてます。「大人は持ってるのに…」と。 そんな時、クリスマスプレゼントで「ウォーク

          好きな曲の歌詞を書き続けてみた

          掌編小説「千生」

          私には千生(ちせ)という友人がいた。 今日あった、楽しかったこと、嫌なこと、なんでも話せて、まるで双子のように仲が良かった。 ずっと私は千生と一緒に遊んでいた。 痛いこと、苦しいことがあっても、千生と遊ぶだけで全て許せるような気がした。それくらい楽しかったし、笑ってた。 時が経って私は千生を忘れるほど、成長していた。 けれど、千生ほど親しい友人は出来なかった。 話したいことが山のように積み重なっていく。 けれど、言える相手がいない。 私は空想の世界に逃げこんだ

          掌編小説「千生」

          掌編小説「電脳少女」

           まだ、ネットワークが無く、テレビやラジオも無かった時代。  私の親友は、他人には見えないものが見えた。  それは妖怪や幽霊などではなく、見えていたのはこの世のあらゆる情報である。分かりやすく例えるならば、明日の天気や初めて会う人の名前や職業、どこかの事件の詳細、国家の機密文書の内容などなど。未来のことを予知するのではなく、あくまでも更新される情報をいち早く知ることができた。  それらは彼女の意思で、知りたい情報を見ることができる。しかし、情報の更新に至っては、自動で行われて

          掌編小説「電脳少女」

          詩「君の姿」

          君と駆け抜けてきた。 嬉しかったことも、 悲しかったことも、 つらかったことも、 幸せだったことも、 その全て君と一緒に 縁側に一人で遠くを思い出す 夏空を背に手を振る君の 心悲しそうに海を眺める君の 嬉し泣きする姿も 真っ赤になって告白してくれた姿も 風鈴の音を聞きながらうたた寝する君さえも 一瞬一瞬を、切り取って、仕舞いこんで 手を振っている 空は濃く青く澄んでいて 呼ぶ声がする 泣きたくなるほど懐かしくて 走れなくなった 君が揺らいでしまう それでもいつ

          詩「君の姿」