澄み渡る空の下に、君はもういない(1/2)
いつも、ふと思い出す幼馴染みの顔は、困ったような笑顔だった。
元からアンニュイな雰囲気を纏う、派手とは縁遠い男だった。だけど、昔はもっと表情豊かだった気がする。気は長い方だが人並みに怒るし、大口を開けて笑うことも、声をあげて泣くこともあった。それが、今では思い出せない。
いつから感情が死んでいるのか、と考えて、地元高知を出て行ってからだ、と思い至った。見送りに行った高知空港では、はしゃいで、キャリーケースごと転倒していたのを覚えている。
向こうで、なにがあった?
そんなことを、二人で並んで歩きながら考えていた。隣を歩く幼馴染みの直弥は、六年間関東で暮らし、昨年末、帰って来た。中途半端な時期に、いきなり帰ってくることになった経緯を、俺は聞かされていない。
あてもなく歩いていると、様々なことが脳内に浮かんでは、消える。思考が止まらない。気になって仕方がない。いくら考えたって、答えは出ないし、本人は横にいる。
埒が明かん、と、思い切って隣を歩く直弥に聞くことにした。
「にゃあ」
同じ目線で前を向く顔を見た。今日もどこか、その横顔は憂いを帯びている。
「ん。どういた、辰希」
整った顔がこちらを向く。それに、ストレートな疑問をぶつけた。
「おまん、いつから泣かんくなった?」
「は?」
二人の間を、夏の乾いた風が通り抜けていく。
「昔はいつも(ぎっちり)泣いとったやろうち思うてな」
「ええ、そう?」
方言訛りの消えた綺麗な言葉で、眉尻を下げて笑う。
「高校を留年して、おばさんに怒られまくってピーピー泣いとったやか」
「え! なんで知ってるの!」
「窓が開いとったんや、こっち側のな。丸聞こえやったき」
家が隣ってこういう時嫌なんや、と呟いた。耳まで真っ赤になっている。
恥ずかしがる顔は珍しい。面白く思って笑いながら眺めていると、ふと、こいつはこんなに大人らしい男やったか、と思った。
頬の丸みは消え、日焼けし、荒れていた肌は白く、潤っている。服から見える首や腕は、筋肉がついて、細くは無い。齢相当の、男だ。
俺の覚えているあのいたずらっ気のある青年の面影は、どこにも見えない。
三歳しか違わんくせに、置いて行かれたような気持になった。
「……にゃあ、東京にはええ男は多かったか」
周りの畑に人の姿が無いのを確認し、低い声で囁いた。
「……付き合っちょったよ」
直弥も素早く視線をやり、同じように低い声で返した。
「まっことか!」
「ちょ、声がでかい」
「今は誰もおらんきに、平気やろう。なあ、どんなやつやった」
僅かに頬に赤みがさす。
「……僕には、もったいなさすぎるくらい、えい人やった」
寂しそうに言う直弥の脇腹に、一発拳を叩き込んだ。
「いた!」
「フラれたんか?」
「え?」
「相手の男にフラれたんか、ち聞いちょる」
「えっと……」
困ったような笑顔を浮かべている。逡巡した後、溜息と共に、重そうな口を開いた。
「フラれていない。フッてもないちや」
「なら、なんで帰って(もんて)来(き)たんがじゃ」
「……帰ってきたくなかったよ……」
気が付けば、人気の一切無い山の麓まで来ていた。大樹の陰になった道中で、直弥がしゃがみ込みながら、そう言った。
「帰らされたんや。僕が彼とホテル街にいるんを、見ちょったやつがおった。そいつが僕の親にゆうて、父親が神奈川のアパートまで来て、帰らされた」
セミの声がうるさい。その中でも、苦しそうで、泣きそうに震えた直弥の声が、はっきりと耳に響いた。
「……そんだけか」
ぽつり、と口から転げ落ちた言葉が、震えている。
「なんでたかがそれだけ(ばあ)で、帰らすんや。おかしいやろ!」
「ねえ、辰希にはええ人おるんか」
汗ばんだ腕の中から、右目が見上げてくる。冷えたその瞳に、込み上げた怒りが静まった。
「いや、おらん」
「……その方が良いと思うよ。ここでは、何を言われるか分からんきね」
そう言うと、すっと立ち上がった。
「おまん、それ、どういうことや」
掌を空に向けて体を伸ばす背中に声を投げた。腹の奥からまた、ふつふつと何かがせり上がってくる。
「帰って(もんて)来(き)てから様子がおかしいんと、なんぞ関係あるんか。おまんは、誰に何を言(ゆ)われたんや。……なんで、黙ったままなんや」
悲しい。悔しい。抑えきれない怒りと共に、ぐちゃぐちゃの感情に支配されていく心地がした。
「辰希」
冷たい、哀しくなる声音が、名前を呼んだ。
肩越しに振り返った左頬に、一筋の涙が伝い、落ちていく。
「僕のこと、辰希だけは、忘れんで」
「……あ、当たり前や! 何ぬかしちゅう……」
不意に、直弥の身体が透けて見えた。瞬きのうちに、またはっきりとした身体に戻っていた。
心臓が鷲掴みされたように、ぎゅうっと痛んだ。
「にゃあ。おまんは、どこにもいかんよな?」
答えは返って来なかった。
いつもの、困ったような笑顔で、ただ静かに佇んでいた。
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狭い会場内に、全く聞き取れない低音の読経が響いている。現実感が無く、その声がひどく遠い。
年の暮れの十二月。直弥が死んだ。
あの夏の日、直弥はどんな表情(かお)で、忘れないで、と言ったのだったか。焼香の時も、そのことが頭の片隅にちらついていた。
読経の声が止み、僅かに僧侶の衣擦れの音がした。半ば伏せていた顔を上げ、ちらりと花祭壇に目を向ける。輝くばかりに白い花に囲まれて、写真の中の直弥は笑っていた。いつも通りの笑顔で、ああ、本当にこの人が死んだんだな、と痛感した。
喪主である直弥の父が挨拶と、この後の流れの説明があった。お斎を行なってから、出棺、火葬すると言う。参列者は揃って、食事の用意がされた別室に通された。
直弥の学生時代の友人はほとんどいない。直弥の姉の姿も見えない。
友人のほとんどが高知に残っていないのだろう、としか考えていなかったのだが、少し離れたところから聞こえてきた親族の会話で、そうじゃないらしいと知れた。
「渡辺さんも、関わりたくないからって、香典すら送らないって言(ゆ)うちょったわ」
「ああ、東京で見よった子? そりゃあ嫌よのう」
「あの噂って本当なが? 直弥くんが、その、同性愛(ゲイ)だって」
「本当(まっこと)よお。あの子が高校生くらいの時から言(ゆ)われてたやない」
「えー! うちの子、直弥くんと同い年なんやけど」
「でもでも、東京で変な男に騙されてただけなんでしょう?」
「かわいそうにのう。帰って来てから、ほとんど引きこもってたと」
「きっと本当は、そんな子じゃないのよ。同級生に好みの女の子がいなかっただけやない?」
「だから、お姉さんも来ちょらんの?」
「いや、お姉さんは産後の肥立ちが悪いんやって」
「彼女がおらんかったからってだけでねえ、高校生の頃からそんな噂流されちゃ、誰だって地元を出て行きたくなるわえ」
そこまで話した時、席を外していた喪主が戻ってきたため、親族らの会話は途絶えた。
ああ、そうか。そうだったのか。
あいつが心の赴くまま泣くことも、怒ることも出来なくなったのは、この村の人間達(らぁ)のせいがか。
俺にくらい、話してくれても良かったのに。人間(ゲイセクシュアル)同士、もっと頼ってほしかった。家が隣で、保育園から高校まで一緒だったくせに。
変なところでおまんは、年上やき、と壁を作っちょったなあ。
箸を握る震えた手に、熱い液体が落ちた。口内の豆料理に、塩味が広がっていく。
自分が泣いていることに気付いたのは、隣に座っている参列者に、ハンカチを差し出された時だ。呂律の回らない声で礼を言い、目頭を押さえる。
なんで、なにも言わんかったがじゃ。なんで、独りで死んでった。
棺の中、白い花に首を隠された直弥の遺体を思い出し、溢れる涙が止まらなかった。
✿✿✿✿
高校生だったある初夏の朝。普段通りに教室に着いた途端、何人ものクラスメイト達に囲まれた。みんな興奮し、早口で捲し立てるため、一切聞き取れない。
「なんなんや! 朝から騒ぐ(ほたえ)な(な)!」
クラスメイト達に負けないよう声を張り上げると、教室の隅にいた男子生徒が、答えるように叫んだ。
「中本先輩、ゲイなんやって!」
ほとんど喋ったことの無いその男子が何を言っているのか、すぐには理解出来なかった。
「……中本? って、直弥か?」
げい? げいってなんやったか。
あ、ほうか。同性愛者のことやった。んで……誰が? 直弥が? ……あいつも?
頭の中がぐちゃぐちゃで、でも何も考えられないくらい真っ白になったのを覚えている。
目の前にいる同級生たちの悲鳴にも似た雑音が、耳障りだ。
「やかましい!」
すぐ右にいた男子生徒にリュックを投げつけ、その勢いのまま体を捻って、廊下に走り出た。同じ階の他クラスの生徒にぶつかるのも構わず、三年生のいる別館に向かって、全速力で駆けた。
途中の渡り廊下から、ちょうど校門を通って来た直弥の姿が見えた。朝のハイテンションな空気に絡まれた多数の生徒達の中で、ただ一人、俯いて歩いている。
窓を開け、呼びかけようと足を止めた時。
――中本先輩、ゲイなんやって!
男子生徒の声が、忌々しい響きを伴って耳朶に蘇る。それがきっかけだったかのように、胸を刺されたような痛みと、何もかもを破壊して回りたい衝動が体内を巡る。
それらをぐっと堪え、廊下を踏みしめて、再び走り出す。
階段を降りた先の下足室で、直弥を捉えた。
「なぉっ、やあ!」
思いっきり名前を叫んだ。喉が裂けそうなくらい。呼ばれて、顔を上げたその左頬に、昨日は無かった湿布が貼られている。
「辰希?」
目を丸くして佇む、その薄い胸に飛び込んだ。周りから悲鳴が上がる。
「えっ、ちょ、辰希!?」
半ば体当たりのようだったのに、直弥はたたらを踏んで、耐えた。とっさに制カバンを放り投げ、同じようにしっかりと抱きとめてくれている。
「ど、どういた!?」
「そん怪我はなんや」
肩に顔を埋め、詰問するような尖った声を出した。
「ああ、これかの」
沈んだ声が耳に届く。それきり、直弥は口を噤んだ。
俺らのすぐ側を、きゃあきゃあと言いながら、女子生徒達が歩き去って行った。その足音が遠くなってから、それにな、と言葉を絞り出した。体の奥から、抑えきれないナニかが込み上げてくる。思わず、細い肩を抱く腕に力が入ってしまう。
「それにな、それに……」
言葉が続けられない。ぐっと歯を食いしばり、息を吸う。
「なんでおまんが、ゲイやち、言(ゆ)われとるんや……!」
言った。言ってしまった。
ああ、これでこの世界は崩れ落ち、無くなってしまう。そんなゾッとするような感覚が背筋を這う。
息を吐き出した途端、涙が溢れ出した。
「どういてそれを?」
淡々と直弥が訊ねる。
「さっき、クラスのやつらがいいよった」
「そう」
一切の感情を乗せず、そう吐いた息が耳にかかった。
奥歯が軋むほど歯を食いしばり、泣き声を殺す。優しい手が、頭に乗せられた。
「なあ、辰希。今、怒っちょるん? 悲しいん? それとも、怖い?」
「怖いわけなが!」
ばっと顔を上げる。目の前に、青白い直弥の顔があった。
怖いのは、直弥のほうや。
「良かった」
ふわり、と強張った微笑みを浮かべた。その時、空気を切り裂くようなチャイムが鳴り始めた。目を合わせているのが気恥ずかしく、再び細い肩に顔を埋める。音が止むと、耳が痛くなるような静寂が訪れた。
「辰希」
静寂を破って直弥が口を開く。
「ごめん。本当のことやき」
触れ合っている胸から、全身に冷たいものが広がっていく心地がした。
「……ゲイ、なん。ほんまにか」
もう頭の上にも、背中にも直弥の手は無い。
自分のこの両腕を離したら、直弥はどこか行ってしまうんやないか、と思い、両手を固く握り締めた。
「うん」
「……ほうか」
締め付けていた腕から力が抜ける。
「あ、でも、嫌わんで……ち、難しいかもしれんけど……僕は、今まで一度も辰希のことを、ほがな目で見たことは、無いきに」
「ほうか」
「辰希。その手を離しとうせ。ゲイに触れるん、辰希も嫌やろう……」
消えそうな声になにも答えないでいると、辰希、と濡れた声で名前を呼ばれた。
「離してや。辰希」
「にゃあ。いつや。いつ、それに気付いたんや」
「……中学ん時」
「ほうか」
苦しそうな声に努めて淡々と返す。やけんど、もう我慢の限界や。
掴んでいた両手を離し、体を剥がして、肩を掴んで向き合う。泣きそうな直弥の顔は、瞬く間に驚きの表情へと変わった。
「……どういて、笑っちょるん」
「んっふ……ふは、あははははは!」
吹き出し、盛大に笑う。その不安を吹き飛ばしてやる勢いで。
「な、なんで笑うがよ!」
青白かった顔は一転、今度は耳まで赤く染め上げている。
「すまんちや、怒らんで」
笑い過ぎてお腹が痛い。
「いや、怒っては、ないけんども!」
「や、だってな、俺も同じやき」
「……は?」
目を丸くしている。口から落ちた間抜けな声に、また噴き出してしまった。
「お、俺もゲイなんちゃ」
笑いながら話すから、軽い酸欠で、頭がくらくらしてきた。
「……まっことがか?」
「こがな時に嘘つかんき」
けっと口端を歪めて笑ってやる。
今度は、直弥が抱きついてきた。ぎゅうっと締め付けてくる腕が、小刻みに震えている。
「おーの……。にゃあ、言葉にならんぜよ。そうか、辰希もか」
耳にかかる声は明るく、嬉しそうだ。細い背中に腕を回し、叩いた。
「やき、俺にはなんでも言っとうせ。相談相手くらいには、なっちゃるきに」
「うん、ありがとう。辰希も、僕になんでも話して。一緒に生きような。苦しかったろ、辰希も」
「ううん。なんちゃあない」
大切なものを扱うように、優しく、それでいて力強く抱きしめられているのが、こんなに心地良いなんて、知らなかった。
「これからも一緒や。なあ、辰希」
噛みしめるように何度も、一緒や、と繰り返している。笑みを含めたその声が、僅かに湿っていた。
「にゃあ、一緒に生きようって、プロポーズみたいやの」
茶化すように含み笑いを浮かべながら、そう言った。
「あ、ごめん。僕、辰希はタイプやない」
「すまんな。俺も直弥はタイプじゃないき」
お互い真面目くさって断り、どちらからともなく体を離す。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった酷い顔を見合い、小さく笑った。
じめっとして蒸し暑い、初夏の頃のことだった。
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ベッドの下から、遺書が出てきた。
細いボールペンで【遺書】と大きく書かれ、その左下にはやや小さく【岡野 辰希 宛】とある。無理に角張った字を意識して書いたような、そんな稚拙な文字だった。裏を返すと【辰希以外読むの禁止!】と、いつも通りの崩れた文字で書かれてある。
薄々そんな気はしていたが、見慣れた字で、これは、中本直弥の遺書だと確信した。
昨年末に自殺した直弥の遺書が、なぜ俺の部屋のベッドの下に、いつ、隠されたのか。
記憶を辿れば最後に直弥がうちに遊びに来たのは、まだ夕方の日差しがきつい九月末か十月上旬頃のことだった。半年近くも前になる。直弥はその頃から自殺する気でいたのか。その日も変わらない沈んだ様子で、酒を飲み、夜更けまでここにいたのに。一緒に吞みながら、頭の片隅では、死ぬことを考えていたのか。そう思うと、胸が締め付けられる苦しさを覚えた。
爪先で接着面を浮かし、血の気の引いた指先で引っ掛けて封を開ける。開け方は汚いが、読めれば良いだろう。
恐る恐る開いた遺書の冒頭には、こう書かれていた。
【九月二十一日。
辰希がこの遺書を見つけるのはいつになるだろう。と思って日付けを書いてみた。掃除嫌いの辰希のことだから、もしかしたら、僕が死んで半年後か。いや、一年後に見つかるかもしれないな。】
「おい」
掃除嫌いなのは認めるが、一年も掃除しないなんてことはないき、と言い返しそうになった。最後に掃除したのは、いつか分からないけれど。
まあ、と気を取り直して遺書に向かう。
【まず、辰希にはちゃんと話しておかなくてはいけないことがある。僕が、死を選んだ理由について。
地元の高校に通っていた頃から同性愛者かもしれない、と周りに噂されていたから、僕が悪く言われることには慣れていたし、別に構わなかった。自分自身でも、こういう風に生まれついたから悪いんだ、と思っていたから。当たり前のことを言われているだけだ、と。
だけど貴春さんのことを悪く言われるのだけは、耐えられなかった。貴春さんは何も悪くない。一目惚れしたのは僕の方だ。貴春さんに告白したのは僕だ。同級生の渡辺に見られたあの日、ホテルに誘ったのは僕なんだ。なのに貴春さんを悪く言う血の繋がった人間達を、僕は死んでも恨み続けるだろう。】
葬式でのひと場面しか知らないが、酷い言われようだった。俺に向けられた言葉じゃないと分かっていても、聞いている者の心も押し殺すような、そんな心地がしたくらいだ。それを毎日言われ続けると考えると、吐き気がする。
【あの人たちには何を言っても変わらない。中本直弥という人間を間違えて捉えている。中本直弥は、男性が好きなんだ】
この辺りは字が乱れていた。苦しそうな直弥の声が蘇る。
【僕は、みんなが思っているような男じゃない。僕のことなんて誰も理解してくれない。】
筆圧が薄い。弱くも強い言葉に、衝撃を受けた。
俺のことも、そう思っちょったんか?
同性愛者(ゲイセクシュアル)同士、安心して、色々と打ち明けていたのは、俺だけやったのか。
うちの居酒屋の新しいバイトの大学生がタイプで困る、ち話をした時も、おまんは、心ん中では、どう思っちょったが?
悔しさと悲しさと、本人にぶつけられない怒りで、目の前が霞む。目尻に熱が溜まる。
【辰希に全部話すのが怖かったんだ。辰希は優しいから、きっと僕以上に怒ってくれるから。なおくん、と幼い頃から慕ってくれている年下の幼馴染みの、負担になるようなことはしたくなかった。ごめんなさい。】
「……ばかたれ(べこのがあ)!」
悲鳴に近い、声が自然と漏れ出た。
遺書から目を離し、背を向ける。ぐずぐずになった顔をティッシュで拭う。涙と鼻水とが溢れ出てきて止まらない。ゴミ箱の中が真っ白になった頃に、ようやく落ち着いた。
さて、と再び遺書に向き合う。日を開けたのか、新しいボールペンを使っているのか、丁度ここから、目に見えて文字が濃くなった。
【辰希にお願いがある。自分勝手、ワガママだと思うけど、お願いだ、これだけは叶えてほしい。
神奈川に行って、僕の恋人だった長谷川貴春に合ってほしい。そして、僕のことを伝えてほしいんだ。
高知に帰らされた時、スマホから連絡先を消されてしまったから、僕から貴春さんに連絡する手段は無いんだ。電話番号もうろ覚えだし。だけど唯一はっきりと覚えている貴春さんの家の場所を書いておくから、これを頼りにしてほしい。】
便箋代わりのレポート用紙の他に、コピー用紙が一枚同封されていた。そこには神奈川の横浜駅から長谷川貴春が住むというマンションまでの行き方が、簡潔に書かれている。
「……微妙に分からん」
バスの道筋の途中が〜の二本線で省略されているのが、どこか大雑把だった直弥らしい。
「おーの。どいて俺が、こがな……」
最後の一枚は長谷川貴春宛てらしく、【貴春さんへ】と一文目に書かれている。それに目を通す気は、無い。すぐに足元に置いた。
何気なく自分宛ての最後のレポート用紙の裏を返すと、右下の角に、小さく【ごめん】と書いてあった。
「……何を謝っちゅう。おまんは悪ぅない。しょうまっこと頑張った。最期の願い、俺が叶えたろうやいか」
元あったようにレポート用紙を畳み、封筒に入れた。そしてバイトしている居酒屋の店主である母親への、シフト調整のお願いの文句を考えながら。スマホで、高知空港から羽田空港までの料金を調べ始めたのだ。
✿✿✿
「ありがとっざしたあ」
六連勤最終日の七時間目ともなると、十代でも感じる疲労感は辛いものがある。タバコを買って行った客に声を出して送っただけでも、褒めてほしい。本当はもう、声を出すのさえも辛い。疲れた(だれた)。帰ってベッドにダイブしたい。
あと一時間やき。それで、ワンオペのコンビニバイトが終わる。明日は日曜日で一日中寝ていられるが、明後日から通常通り学校が始まる。そして火曜日から四連勤が待っていた。先週終わったばかりの春休みが恋しい。
やめや、やめ。ほがなこと考えんな。心の中で自分の頬を叩き、喝を入れる。
さて、レジ横の総菜の準備でもしてくるかの、と誰もいない店内に背を向けた瞬間、自動ドアが開いた。軽快な入退店音が耳障りだ。舌打ちしたいのを堪え、らっしゃっせえ、と声を投げた。
「辰希、お疲れ様。……すっごい(こじゃんと)疲れた顔しとるね。まだ六時ぜよ」
まじまじと人の顔を見て、直弥が心配半分の笑顔を見せた。
「邪魔しに来たんか? さっさと(しゃんしゃん)帰れ(いぬれ)」
「買い物くらいさせてえや。朝ご飯に使う牛乳をきらしちゃって」
入り口横の買い物カゴを、ひとつ取りながら言う。
「道向こうのスーパーの方が安いやろ」
「コンビニ店員がそんなこと言(ゆ)うてええんか……?」
「えいえい」
俺のその返答にくすりと笑って背を向けた。
「牛乳の他にもなんか買って帰ろうかな。お菓子とか、ジュースとか」
「そんなんも、スーパーのが格安やぞ。今日セール日やち、母さんが言(ゆ)うとった」
「コンビニ店員がそがなこと言(ゆ)わんでよ」
ころころ笑って、商品棚に姿を消した。
「ほんなら、俺は奥で惣菜の用意しちょるき、レジまで来たら声かけえ」
「はあい」
奥のドリンクの棚から、手を振って応える細い腕が見えた。
揚げ物のバッター液を作り、規定サイズの肉を入れる。混ぜ合わせている時、直弥が俺を呼んだ。
「お待たせしましたあ」
「あ、店員さんや」
「店員さんやで」
カゴの中の商品をひとつひとつ取り出し、レジのスキャナーでバーコードを読み取っていく。
「九十八円がいってえん」
「疲れてる店員さんや」
「眠い店員さんやで」
お互い、あほなこと言ってる。この距離感が、空気感が、一番心地いい。
直弥が、大阪に行けるんやない? と言ったのを、無視した。なんでそうなるがじゃ。
「四百八十二円がいってーん」
カウンターにカゴの中にあった商品を全部出し切り、合計金額を告げる。直弥がお金を用意している間、レジ下から袋を出して、商品を入れていく。パックの牛乳に、スナック菓子、プリン、アイス。一人分の季節限定フルーツのカップケーキを手に取った時。
「あ、それ、辰希に」
「ん? ケーキか?」
「そう。疲れてるからさ。甘いものでも食べて、元気出してよ」
聖人オーラが体中から溢れ出ている。
「……プリンがえい」
「え!」
「俺甘い物苦手やき。プリンがえい」
袋から無難な黄色いプリンを出し、カップケーキを代わりに入れる。
「ええよ、ええよ。……あれ? 前に移動販売車のクレープ、生クリームまけまけいっぱいにしてもろうて、食べてなかった?」
探るような視線を向けられ、耳に熱が集まった。
「じゅ、十五過ぎてから胃が弱いんや!」
「僕十八やけんど、そんなことないきに! 辰希、なんか病気しとるんじゃなか?」
「なんちゃあない! ほれ、さっさと手の中の千円札よこしい!」
「待っとうせ! ポイントカードあります!」
バタバタと会計を済ませる。レシートを文鎮の代わりに小銭を置く、という密かな嫌がらせをしてみたものの、直弥は気にも留めない様子だ。器用に二つ折り財布に小銭を滑り込ませている。嫌がらせに失敗し、少し虚しくなっただけで終わった。
「というか、コンビニバイトせんでも、家の居酒屋を手伝えばええんやないか?」
ふと、直弥が訊ねる。
「タバコの匂いが苦手なんや」
「ああ、ちっくと分かる」
袋に手をかけ、ドアに向かう。
「プリン、食べとうせ。お疲れ様」
「ん。ありがとお」
軽快な入退店音と共に自動ドアが開き、肌寒い外に直弥は出て行った。手を振って見送り、事務所に入る。自分のカバンに貰ったプリンを押し込んだ。
「五百円もするケーキを受け取れるわけないろ。べこのがあ」
俺のような幼馴染みには、百円のプリンで充分や。
うっかり気を抜いていると、入退店音が聞こえた。しまった(やまった)。
「らっしゃっせえ!」
「うわ! びっくりしたあ」
慌てて飛び出したから、レジ横の揚げ物を見ていた客を驚かせてしまった。
「あ、すんません」
あと一時間、プリンを楽しみに、頑張るかぁ。
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コンビニバイトのシフトを代わってくれた学生バイトくんに感謝しつつ、高知を発った。居酒屋店主である母親からは、東京の地酒と引き換えに、と交渉が成立した。ダブルワークゆえの面倒さはあったものの、フリーターのフットワークは、それなりに軽い。
羽田空港に降り立って、まず驚いたのは人の多さと、タクシーの台数と、バスの時刻表の本数だった。
第三ターミナル駅って、どこや。
日本のはずなのに、耳に入るのはどこの国かも分からない外国語ばかりだ。見た目で日本人だと思い、声をかけたら韓国人観光客だった。
大幅に時間をロスしながらも、なんとか目的のターミナル駅へと辿り着いた。最初から観光案内所に声をかければ良かった。思えば、一人で高知県を出るのは、これが初めてだ。
俺がしっかりせにゃあ。
意気込んで切符を買い、電車に乗り込む。端の座席に座った途端、安心してしまい、一つ目の駅に着くよりも前に、眠りに落ちてしまった。
夢を見た。
目の前に、小学生の頃の直弥がいる。
お気に入りだった龍のTシャツを着ていた。夏の間、毎日のように着ていたものだ。懐かしい思い出が鮮明に蘇る。ハーフパンツから覗く膝小僧に、でっかい絆創膏を貼っているのも、懐かしい。
そうそう、よく転んでたな、と。肌はこんがりと日焼けしていて、筋肉はなく、見た目にももっちりしていて、まるでコッペパンみたいだ。
「たっちゃん! 今日はドッジボールせんか!」
直弥が声を張り上げた。それに、どこからか自分の幼い声が答える。
「ええよ! なおちゃん。今日は負けへんきに!」
小学生の直弥が、俺に向かって走って来る。俺はどうしてか体が動かせず、ぶつかる! と思った時には、直弥は俺の身体をすり抜けていた。軽い足音が、遠ざかって行く。それが完全に消えた頃、目の前にすうっと、中学校の制服を着た直弥が現れた。無駄な脂肪はなく、制服の上からでも体が引き締まっているのが分かる。卓球部員なのに、ほどよく日焼けもしている、健康優良児だ。
明るく活発そうな見た目に似合わず、幼さの残る端正な顔に、苦悶の表情が浮かんでいる。
「……ごめん。サナちゃん。……付き合えない」
女子生徒の告白を断ったのだろう。声変わり前の、いくらか高い声が重々しい響きを伴っている。苦虫を嚙み潰したように、口端が歪んでいる。
誰が、直弥にこんな顔をさせているんだ。戻れるなら、この時の直弥を抱き締めてやりたい。どうして俺は、直弥より三年も遅く、生まれたのか。
中学生の直弥の周りに、徐々に黒い霧が集まってくる。その霧の中から、老若男女の囁き声がする。それは、霧が広がるにつれ、大きく、はっきりとしたものになっていった。直弥が耳を塞ぎ、しゃがみ込んだ。霧に飲み込まれ、直弥の輪郭がぼやける。霧の中の声に、聞き覚えのある声もあった。
「あの噂って本当なが? 直弥くんが、その、同性愛(ゲイ)だって」
「でもでも、東京で変な男に騙されてただけなんでしょう」
「きっと本当は、そんな子じゃないのよ」
葬式の際、耳にした親族の会話だ。
「頭おかしいんやいか! 男のくせに!」
「何のために上京させたと思ってるんだ! 親不孝者!」
「ゲイなんやって? 気持ち悪い」
聞いたことのない罵声も響く。
的確に急所を抉る刃のような、そんな、剥き出しの悪意ばかり。
やめんか! 直弥を傷付けるな! 何も悪くない! 何も、悪いことなんてしちょらんやないか……!
そう叫び、真っ黒い塊になった霧の中から、直弥を引きずり出してやりたい。けれど、相変わらず体は動かない。
「ごめん。本当のことやき」
霧の中から、低い直弥の声がした。
「……ゲイ、なん。ほんまにか」
今と変わらない自分の声もする。
「あ、でも、嫌わんで……ち、難しいかもしれんけど……僕は、今まで一度も辰希のことを、ほがな目で見たことは、無いきに」
「ほうか」
「辰希。その手を離しとうせ。ゲイに触れるん、辰希も嫌やろう……。辰希。……離してや。辰希」
あ、これは、高校生のあの日か。朝の下足室で。初めて、お互いにゲイだとカミングアウトした、あの日。
「にゃあ。いつや。いつ、それに気付いたんや」
「……中学ん時」
「ほうか」
「……どういて、笑っちょるん」
「んっふ……ふは、あははははは!」
高校生の自分の盛大な笑い声が、霧を吹き飛ばした。こちらからは俺の背中と、肩越しの直弥の顔が見える。
「や、だってな、俺も同じやき」
「……は?」
「俺もゲイなんちゃ」
「……まっことがか?」
「こがな時に嘘つかんき」
「おーの……。にゃあ、言葉にならんぜよ。そうか、辰希もか」
「やき、俺にはなんでも言っとうせ。相談相手くらいには、なっちゃるきに」
「うん。ありがとう。辰希も、僕にはなんでも話して。一緒に生きような。苦しかったろ、辰希も。これからも一緒や」
直弥がそう言った瞬間、二人の足元から濃い霧がどっと噴き上げた。あっという間に二人を包み込み、そして、空間に消えた。
直弥。直弥はどこや。
よく転んで怪我をして、その度に泣く泣き虫で、いたずらっ子で、大雑把で、しっかり者に見えてどこか抜けていて。人のことを考えて行動するくせに自分のことは全部後回しで。誰にも、本心を打ち明けない直弥は、どこに行った――
目の前の、真っ白いだけの空間が、歪んでいく。
直弥、直弥! 俺にはなんでも話せ、ゆうたがや! 一緒に生きよう言(ゆ)うたんはおまんやぞ!
……にゃあ。どういて。黙って勝手に、死によったんや。
気が付くと、次の停車駅は横浜駅だと告げるアナウンスが鳴り響いていた。手摺に頭を持たせかけて眠っていた。都会人に迷惑をかけんで良かった、ち思う。
電車が止まり、大量の人波に揉まれながら、駅を出た。流石に外まで出ると、揉みくちゃにされるほどの人口密度ではない。それでも目が回るほど、人は多いが。
まずはホテルにチェックインするのが先やな。
予約確定メールを開き、そこからURLをタップして、地図アプリを起動した。自動的に現在地からホテルまでのルートが表示されている。文明の利器に感謝しながら、リュックを背負い直し、歩き出した。
✿✿
友人と一緒の、埼玉の国公立大学に進学する。真冬の寒い夕暮れに、電話越しに、そう報告された。
「……おーの。良かったの」
「その友人は今年、先に入学しちょるんやけんど」
受話器越しに、カカカ、と珍しい笑い声が耳に届く。
「出席日数が足りんくて留年した男のブラックジョークに、どう反応したらええがじゃ」
「わろうてくれたらええよ」
「ぐははは!」
「悪役みたいやにゃあ」
「おまんが言(ゆ)うたんやぞ!」
後ろから、辰希騒ぐな(ほたえな)! と、母親の叱責が飛んできた。
「まあ、合格おめでとう、やの」
一度息を深く吸い、直弥を祝う。
「うん。これも毎朝辰希が起こしてくれたおかげぜよ」
嬉しそうに言う。だから、努めて同じくらいの熱量で祝い返してやる。上手く、祝えているだろうか。電話越しに、気付かれていないだろうか。
この、もやもやした、形容しがたい胸の気持ち悪さが。
一緒におるちゆうたに、たった何ヶ月か前に。
寂しさとは違う。裏切られたショック、とも違う。と思う。ただ、心の底からは祝ってやることが出来ない。
それを敏感に察知されてしまったのか。
「辰希も埼玉に来(こ)んか?」
と、誘ってきた。
「無理や。頭が足りん」
「ほがなこと無いち思うで」
分かってる。認めたくないだけで、頭の片隅では、理解している。直弥は、ここが生き辛いのだ。だから、高知を出、世界の最先端(とうきょう)に近い埼玉に行こうとしているのだろう。そして、俺もここの生き地獄から救い出そうという気しかないのだ。
出れるもんなら、出たい。けれどそう思うのは、なんもない田舎に見切りをつけただけで、直弥のような生き辛さは感じていない。それが、大きな一歩を踏み出しかねる理由だ。
「ちゅうか、俺まだ高一やぞ。去年高校受験終わったばっかやき、あと丸一年はなあんも考えとうない」
「それはちょっと遅うないか……?」
壁に頭をもたせかける。溜め息交じりの声が、耳を撫でた気がした。
「そうや、辰希、彼女が出来たんやって?」
声を抑えて直弥が言う。
「うん。告白されて、まあ、性格はええ子やき、OKした」
「……ほにほに」
何か言いたそうな声が沈んでいく。
「騙したわけやなか。ちゃあんと伝えちょる。俺は、好きやと思うてないけんど、それでもええんか、て。それに、これはただのカモフラージュや。十代のうちに周りにバレるがは、この先の一生の生き方が大きく変わってまうやろう、ち思うてな。高校を卒業したら、自由にするつもりや」
高校内に留まらず、村中から後ろ指を指されている直弥に、こんなこと言ってはいけなかった。すぐに気付いたが、一度唇を離れた言葉は、もう飲み込めない。
「……辰希は賢いにゃあ。僕も告白された時、そう言えば良かった」
何事もないように、すぐに明るい声が返って来た。それに返事が浮かばす、数秒間、黙ってしまった。
「辰希?」
「ん? ああ、電波が悪いみたいや。家電も古いき」
雑な言い訳を並べる。コードレスで、そこまで古いということはない。
「ほうか。あ、そういや僕の受験が終わってから貸してくれる言(ゆ)うてたマンガ、明日借りてもええか?」
「分かった。ほんなら放課後、俺ん家(く)来(き)い。準備しとく」
最後にまた、おめでとう、受験お疲れ様、と直弥を労い、通話を切った。
「直弥、上京するんやと。埼玉の国公立受かったち、ゆう電話やった」
「ふうん」
台所で、居酒屋のオープンに向けた料理の下準備をしている母親の背中に声をかけた。今は魚を捌いているのか、一切目を離すことなく、まな板の魚に包丁を通していく。
「あん子は、向こう行った方がええ子じゃろ」
「どういて、母ちゃんはそう思うん?」
予想の付かない返答に、緊張しつつも、そう訊ねずにはいられなかった。
「ゲイなんやろ? 東京にはそういう人らが集まる地域……なんやったか、二丁目? があるんやろ。こんな田舎より、同じ人らのおるコミュニティの方が絶対ええわ」
「そっか」
直弥に批判的なものじゃないことに、安心感を覚えた。ほっと息をついた瞬間。
「あんたはちゃうよねえ?」
魚から目を離し、肩越しにこちらを見て言った。ぱっちりとした大きな両目が、この時はぎょろりと、魚のような感情の読めない目に見えた。
「え?」
「あんたは、直弥くんとはちゃうよね? 女の子が好きなんよね?」
「……な、なにを言いゆうがか! 可愛い彼女も出来たとこなんやぞ」
探るような目を、じっと見つめ返した。逸らしてしまっては、認めてしまうことになりそうで。
怖かった。
たった一秒か、二秒か、瞬きの間が、ひどく長いものに感じた。
「やんな!」
大声と共に、ぱっと顔面をほころばせた。そして再び、まな板の魚に視線を落とした。
「あんたは直弥くんとちゃうもんね。彼女おる子が、男好きなわけないわえ」
「……そ、そうや、そうそう」
背中に冷たい汗をかいている。
「先に言うけど。入学祝いに買ってあげたスマホ、それでAVなんか見たあかんで。ぜえんぶ、バレるきね」
「み、見ん!」
「照れちゃって、まだまだガキやのう」
わざと足音荒く、自室に閉じこもった。見るわけない。興味の無いものなんか。
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