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陸中の核心地・北山崎へ

東北北部も梅雨入りが宣言され、不安定な天気になることが多くなってきた。最近では、いつも雷がゴロゴロとなっている。
あがったり下がったりを繰り返す気まぐれな梅雨前線。
コロコロと変わる天気に、右往左往されるこの時期。
雨は好きだが、雷は怖い。カヤックに乗っていて雷に打たれたという事故はは今のところ実例はないようだが、万が一でも打たれたらひとたまりもないだろう。マンガでみるようなギザギザの黄色の電気が走り抜け、髪の毛がチリチリになり、骨が浮き出るのだろうか。髪の毛がストレートな私にとっては、雷に打たれて髪の毛がチリチリというシチュエーションは、一度体験してみたい。
このブログを書いている今も、空はゴロゴロ鳴っている。

先週末の話になるが、友人であり、エリアは違えど同じ三陸海岸でシーカヤックガイドを営んでいるなかのカヤック代表、そして上から読んでも下から読んでも「なかのかな」でおなじみの中野さんが八戸まで北上してきたこともあり、北三陸エリアの核心地でもある北山崎に足を運んだ。
いつか漕ごう、と思っていた田野畑村エリアだがなかなか足が向かず、ようやく漕ぎつけることになった。

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北山崎は、国立公園概要・総括にて「我が国が誇る最大級の海食崖」と記されている。200mにも及ぶ断崖絶壁が連なる。陸から見る景色も果てしなく壮大。その景色を海抜0mから見て、何を想うのだろうか。
もともとは昭和30年に陸中海岸国立公園(下閉伊郡普代村~釜石市)に指定され、その公園のエリアは徐々に範囲を広げ、震災後の平成25年、新たにエリアを再編して青森県八戸市~宮城県気仙沼市までの「三陸復興国立公園」となる。

青森県八戸市から岩手県を経て宮城県石巻市までの太平洋沿岸に広がる国立公園です。
北部は波がつくりだした豪壮な海食崖が続くのに対し、南部は入り組んだリアス海岸が波や風をおだやかにし、優美な風景がみられます。
暖流と寒流がぶつかりあう豊かな漁場としても知られ、新鮮な海の幸も楽しみのひとつ。一方で、繰り返される津波や夏のやませによる冷害といった自然の脅威とも共存してきたエリア。そこに暮らす人が育んだ知恵や技術、文化にも目を見張るものがあります。
三陸復興国立公園を訪ね、ここにしかない美しい自然と恵み、厳しさを体感してください。
http://www.env.go.jp/park/sanriku/guide/
~環境省HPより抜粋~

出艇は朝8時。天候は高気圧が太平洋と本州のはざまにぽっかりとのっている。道中の海を見ながらきても特に不安な要素は見当たらない。
逃げ場の少ないエリアなので、進むか、止るか、の判断は慎重にならざるを得ない。10キロ先にいかないとエスケープポイントがない、なんてのはザラにあるこのエリア。
水温は14度。気温は最高温度22度、最低14度。風向は東南、2~3mほど。
大潮、干潮は12時。この時点では特に問題なく、計画通りに漕ぎ進められるだろうと予想していた。

現地につき、出艇準備。今回の出艇場所は、川から海へ流入できる、なかなか面白い場所だ。川には下を見ると結構な数の小魚が泳いでいた。

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川を渡り、先を目指す。
途中、昨年の台風19号の影響で土砂崩れを起こした場所も見える。自然の驚異ではあるが、手つかずの自然は、やっぱり自然だ。
湾内でなく、外海になるため、当然だが危険は少なくはない。
そして、出艇した直後からダイナミックな断崖絶壁、岩場が続いていく。

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観光地にいるウミネコたちは、どうしても人に慣れてしまっている感は否めないが(場所によっては人に守られている)、人が誰も来ないような、天敵に襲われないような岩場で子育てをするウミネコたちは、少し自由に見える。
ここで生まれたウミネコのヒナたちも、大きくなったらまたここに戻ってくるのだろうか。八戸・蕪島のウミネコたちと同じサイクルを過ごすのであれば、2月下旬~3月に戻ってきて、4月下旬ごろに産卵、5月ヒナが生まれ、お盆のころには旅に出る。

ここで中野さん、ウミネコバクダン(ウミネコの糞)をお見舞いされる。
私は、ウミネコが2万~3万羽訪れる八戸、蕪島でさえバクダンを浴びた記憶はない。ただ、子供のころ屋台で買ったフランクフルトをウミネコに取られ泣きじゃくった記憶はあるが。
中野さん、日頃の行いが悪いのではなかろうか(笑)。
きっと、ウミネコにとっては中野さんも天敵だったのであろう。
ウミネコたちも、きっと、「あいつにバクダンをお見舞いしてやれ!」なんていう作戦会議がされているに違いない。

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岩場には、ハマナス、ニッコウキスゲが咲いていた。スカシユリはまだもう少し先だろうか。個人的には、スカシユリが咲き始めて夏の訪れを感じる。
北三陸の夏は、もう少し先だ。
漕いで漕いで、岩場で遊びながら一つ目のチェックポイントは弁天崎灯台。

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思いのほか灯台は小さくて感動はなかったのだが、(というか断崖がダイナミックすぎて灯台が目立たない、普通の海岸であれば灯台はかなり目立つはずだ)外洋の水の色に驚く。八戸の海とも、久慈の海とも、先日漕いだ普代の海とも少し違う。
より、エメラルドグリーンで、透明感のある水の色。深みのある色だ。
そして、机浜海水浴場を目指す。

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このあたりから定期的に入ってくる大きいうねりと、三角波、海の上下動が少し大きくなっていた。干潮は12時。少しずつこのうねりはおおきくなってくるのだろうな。そんな認識はあった。
まあでも、風がないからなんとでも対処できる。

ところどころ、ロックガーデンを攻めるか、否か。中野さんとそんな相談をしながら先へ進む。まあ、タイミングを見ながら行けば行けないこともないだろう。ただ、タイミングを間違ってしまった時にその対処は果たして・・
という部分があった。

先へ進み、ここは矢越岬。
ただただ、壮大。

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そして、先へ。

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矢越岬を少し漕いだ先で、事件が起きる。
ロックガーデンを攻めている途中に、波にのまれる。
どうやら、外洋のうねりの周期というのを甘く見ていたようだ。
調べれば、定期的にくる大きいうねりの他にも、何百、何千回に一回は大きいうねりが入ってくる。しかも、天気図にぽっかりのっているのは高気圧。
そして、いままであまり気にしたことはなかったがうねりの周期。
その日はうねりの周期が10.6秒であった。10.6というと、普通よりも少し周期が長い。周期が長いということは、一つ一つの波のエネルギーが大きい。
一つの判断の甘さが、ここに繋がったのか。

中野さんは先を行っていたので波にのまれることはなかったが、波にのまれたのは自分。後ろを見た時に、冷静にこれは対処しきれないな、と感じた。
スターンが一気に持ち上げられ、波頭が崩れ、波にもまれる。
中野さんいわく7m、いや5mぐらいの波はあったんじゃないかと。
その言葉に正確さはないが(笑)、波にもまれている時点で、沈脱の体制が整えられず少しもがいたがここで沈脱。ここで沈脱したのも状況を悪くする原因だったのかもしれない。
最強のセルフレスキューはエスキモーロール、確かにその通りだと納得する。この波が定期的に来るような状況であり、風が吹いているのであれば結構な危ない状況だったろう。
幸いにして風がなく、大きいスパンで来る大波だったために苦労はあれどレスキューされ、目と鼻の先の砂浜に上陸。

この時で時間は10時30分。上陸した浜も結構な波が立っていたが、ここを逃すと水を抜くことができず、上陸ポイントが10キロも先になる。ドライパンツをはいていた為、できるだけ早くウエア内の水を抜きたかったこともあり、波だっているものの上陸を決める。
時間にして10分ないぐらいだとは思うが、かなり長く感じ、気を張った。正確な時間はわからないが、レスキュー完了までの時間が10分内。かかりすぎてしまった感はある。身体が冷えたのか、通常のTXレスキューの再乗艇さえも大変だった。
水温14度、まだ気温も上がりきっておらず、ツアー中の沈脱のリスクはかなり高い。ウエアの水抜きをして、ちょっと小休止。

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一回緊張感が抜けてしまうと、もう駄目だ。
干潮に向かい、この波のなか出艇して10キロ先を目指す余裕はない、ということで今回は5キロほどしか進めず、計画を改め、カヤッキングはここで終了。

今だからこそ言えることではあるが、こんな状況に陥らないことは勿論だが、こんな場合の迅速なレスキュー方法、その海域を出るための手段、を改めて考える時間となった。
身体を張って経験を積む機会というのはこのご時世大事にしていきたい部分でもあるし、何よりも大事なのは身を持って知る、ということだと思う。
反省と、学び多きガイドトレーニングになった。

しかし、ここから車の回送とカヤックのデポという仕事が残っている。
まだまだ昨年の台風19号の傷跡は深い。デポできる場所を探しながら車の回送へ。

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カヤックを担ぎ、1キロないほどを歩く。お会いしたことはないが、北海道の知床で知床エクスペディションを営むシーカヤックガイドの新谷氏の本を読んだ。そこには、知床のツアーで漕ぎきれなかったときはカヤックのデポに15日間かかったと・・・。
その本を読んだ後だからだとは思うが、あまり苦労は感じなかった。たぶん中野さんは大変だったと思うが。

今回は、未熟な部分が浮き上がることが大きかったトレーニングではあったが、机上の卓論を身を持って経験できたことは意義がある。
これがツアーの現場ではなく、ガイド同士のトレーニングで行う必要ができたことは何にも代えがたい。おかげさまでまた新しい知識をつける必要と、技術の習得にむけてやらねばならないことができた。

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次はまた秋にでも。
ドギツイやつをやりましょう!


当然ながら、参加者の皆様にこんなハードなものは要求いたしませんのでご安心ください。
初めての方に参加いただく体験ツアーは、もっとライトでソフトでガイドの笑顔が絶えない爽やかなツアーです(笑)
ですが、北三陸という場所にはそんな本気の遊びの楽しみも隠れていることもまた事実。私たちはガイドとしていかなる時も、参加いただいた皆さまに楽しんでもらい、無事に帰す責任があります。そのために常日頃、技術と知識と経験を積んでいます。

北三陸の海を漕ぎたい、そう思ってくれる人が一人でも多くなってくれますように。

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