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【エッセイ】連綿と続く心

 むかし、花壇に咲いている葉牡丹を見て「キャベツだ。いつか食べよう」と思っていたが実行はしなかった。約束の地を離れて数年後、葉牡丹という名前の食べられない植物と知る。それを小説に織った、数年前。思い出は循環する。

 少し編集しましたが、上記は以前にSNSに書いたものです。「思い出は循環する」と私は思っています。また、「作家を目指している私の生活」というエッセイにも書きましたが「作家志望は何事も作品に還元出来る」と思っています。嬉しいことや悲しいこと、感動したこと、他にささやかなエピソードなど、様々なことが作品に還元されて行くのです。

 良く、「無駄なことなどなにもない」という言葉を私は聞きますが、作家志望という私にとってはその通りなのです。しかし、作家志望である私ですら、「もう、こちらに関連する出来事やエピソードはおなかいっぱいです」という状態にもなります。私の場合は、主に職場でのことに言えました。あまりにも精神的ストレスが大きすぎると、作品に還元云々という信条の前にも、それらはもうお断りですという状態になります。

 心の動きやエピソードなどを作品に還元する方法がないと思われがちかもしれない、例えばファンタジー小説などですが、こういった作者に想像の力が大きく必要とされる物語にでも、還元する方法はあると思っています。ファンタジーを体験しないとファンタジー小説は書けない、そんなことはないということです。どんな小説にでも、日常のエピソードを活かすことは出来ると思います。エピソードをそのまま書くのではなく、フィクションの場合は少し変えることも可能です。私はむしろ、その方が多いと思っています。

 また、還元出来る先は小説だけではありません。ノンフィクション作品であるエッセイなどには、そのまま活かすことが出来ます。そして、文章による作品だけではなく、絵や音楽などにもこれは言えることだと思います。もっと言えば、ひとの生き方にも影響を与えることは出来ると思います。創作をする方には勿論、創作をしない方の人生にも、日々の心の動きやエピソードは、そのひとの魂そのものに活きて来ると思います。自分ひとりの時間の過ごし方、友人との過ごし方、家庭や職場での過ごし方、他者を思い遣る気持ち、心ないひとに言葉をぶつけられてしまった時の自分自身の在り方など、日常における様々な場面で、これまでに得た感情や経験というものは活きて来ます。どう活かすかは、そのひと次第だと思います。

 このように思っている私でも、前を見ていない人間や走って来る人間にぶつかられてしまえば、瞬間的にいやな気持ちになります。私が少しそういったことを気にしやすいのだとは思いますが、あとで思い返してしまい、つらかったと落ち込むこともあります。それでも、私は他者にぶつからないようにしようとか、ぶつかってしまったら謝ろうという気付きを得ることが出来ます。そして、そのエピソードや心の動きを、私は作品に還元することが出来るのです。

 日常生活における様々な場面で得た心というものは、同じく日常生活の中に活かすことが出来ます。私はこれに気が付くまで、少し時間が掛かりました。つらい気持ちだけで毎日が染まっていて、もう未来とかなにもないと思っていた時期は長くありました。体調も崩して、遮光カーテンを閉めて電気も消して真っ暗な部屋で横になってぼんやりとしていた日も沢山あります。いまでも、そういう日は稀にあります。しかし、続いて行く日常の中に私は帰ることが出来るようになりました。本当に、ここまで来ることにはとても時間が掛かりました。きっと私は、いままでに得た心をほとんど全て今日こんにちに持って来たのだと思います。その過去から続く私の心から、私は私を生かす術をぼんやりと学び取っているのだと考えています。

 創作は私にとって大切なもので、生きて行く手段のようなものです。きっと誰しもにそういった大切なものがあると思います。それをおこなう為、或いは守って行く為に、誰もが日々にあるささやかな心の動きをどうか大切にしてほしいと思っています。自分の心を自分で守ることは簡単なことではないかもしれませんし、私はそれが少し難しい時もあるのですが、自身の大切にしている趣味であったり、宝物であったり、友人や知人であったりする存在が、きっと自分の在り様を導いてくれるように思っています。そう、信じています。自分を大切に出来るひとは、周りのひとやものも大切に出来ると思っています。

 何事も還元出来る。何事も何か、或いは何処かに繋がっていると私は考えています。「いま」を見つめることは大切で必要なことかもしれませんが、「むかし」や「これから」のことにも目を向けてみると、見えて来る新しいものがあるかもしれません。そうやって命は生きて行くのだと、私は思っています。

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