heldioリスナーに届けるしおのはなし#4 令和6年5月7日 大岡昇平「野火」

 作家の大岡昇平は第二次世界大戦で召集、フィリピンのミンドロ島に一兵卒として送られ、米軍の俘虜となった経験を持つ。終戦後、その体験を下敷きに数多くの作品を世に送り出した。その代表作の一つが「野火」である。その内容は…
 フィリピンのレイテ島で敗兵となった田村一等兵は、結核を患い、部隊を追い出され、一人原野を彷徨う。あるとき、立ち寄った民家の床下で「薄黒く光る粗い結晶」を見つける。「塩」だ。彼はその塩を雑嚢に詰め込めるだけ詰め込み再び歩き出す。屈強な兵たちがバタバタ倒れていく中、結核である彼がなんとか生き延びてたのはこの塩のおかげだった。
 その塩もついになくなり、田村はつぶやく。「いくら草や山蛭を食べていたとはいえ、そういう食物で私の体がもっていたのは塩のためであった。…私が『生きる』と主張できたのは、その二合ばかりの塩を注意深く節しながら舐めてきたからである。その塩がついに尽きたとき事態は重大となった」このときを境に田村一等兵は急速に衰弱していき、カリバリズム(人肉食)の話題に突入する。
 関連して一つ。「水と塩さえあれば人間は1ヶ月は生き延びることができる。」と言われるが、以前、ジャングルを彷徨った人の事例で不思議に思ったことがある。水と草や木の根をかじりながら生き延びようとしたが、ものの10日ももたずに亡くなったというのだ。仮に塩をもっていなかったとしてもあまりにも早すぎやしないか?
 しかし、今ではこのように考える。草や木の根はカリウムを多く含む。カリウムは塩、塩化ナトリウムと拮抗関係(排出しあう関係)にあり、草や木の根を食べ過ぎると、体内の塩分を排出してしまい、その分命を縮める可能性が生じる。適切な塩分量を考える際には、その他のミネラルとのバランスも重要になってくるのだ。

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